じじぃの「科学・地球_372_デマの影響力・ソーシャル・メディア・ビジネス・チャンス」

The critical role diversity plays in economic growth

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=BEvWiczJsQU

The relation between social network diversity and socioeconomic rank


Network Diversity and Economic Development

●Network for Recovery
A long-standing theory suggests that social diversity leads to economic development. By combining the United Kingdom's telephone communication records (both landline and mobile) with information on regional economic conditions, Eagle et al. (p. 1029) demonstrate that network diversity alone accounts for over three-quarters of the variance of a region's economic status. Although the data cannot be used to show causality, the association suggests that economic development and recovery may depend not solely on monetary stimulus but also on the development of a nation's social infrastructure.
https://www.science.org/doi/10.1126/science.1186605

『デマの影響力――なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』

シナン・アラル/著、夏目大/訳 ダイヤモンド社 2022年発行

第1章 ニュー・ソーシャル・エイジ より

人間は昔から今にいたるまで社会的な動物である。狩猟採集生活をしていた時代から、私たち人間は他者と情報を交換し合い、他者と協力、協調してきた。しかし、現代は少し違ってきている。この10年間、私たちは遠い過去からつないできたコミュニケーションの火にハイオクガソリンを注ぎ込むようなことをしてきた。世界中で大量の情報を送り合える多機能な装置を作りあげてからだ。その装置のおかげで、遠くにいる人たちの意見や行動なども瞬時に伝えられるようになった。私が「ハイプ・マシン[Hype Machine:誇大宣伝機械というような意味]」と名づけたその装置は、世界規模の通信ネットワークで私たちをつなぎ、1日に何兆という数のメッセージを運ぶ。ハイプ・マシンは私たちに様々なことを知らせ、楽しませ、考え方に影響を与えて行動を探る。そういうアルゴリズムによって動いている装置である。

第11章 ソーシャル・メディアの可能性と危険性 より

――(不平等な)機会

ソーシャル・メディアは、ビジネス・チャンスを生む。それは確かだが、誰にでも平等にというわけではない。第3章で述べたとおり、ソーシャル・メディアでビジネス・チャンスが生まれるのは、人と人との「弱いつながり」があるためとも言われる。この理論だと、ビジネス・チャンスは伊達にでも平等に訪れるわけではないことになる。人とうまくつながれない人にはチャンスは訪れにくい。多様なネットワークを持つ人は、その分だけ、他の人よりも多くのチャンスに恵まれる可能性が高いと言える。新しい関係ができれば、そこから新しいチャンス――たとえば、今とは違う企業に転職できるチャンスなど――が訪れるかもしれないからだ。
ネイサン・イーグル、マイケr・メイシー、ロブ・クラスクトンは、この理論が本当に正しいかを1つの国全体を対象に調査した。イギリス全体での携帯電話と固定電話の通話データを収集し、それと国勢調査のデータとを比較し、通話と社会的地位、経済状況のあいだにどのような関係があるかを調べた。国民の携帯電話での通話の0パーセント、商用、個人用の固定電話での通話の99パーセントについての入手し、合計で6800万人の通話パターンを分析した。

多くの人と弱くつながっている人、また多様な人たちとつながっている人ほど、社会経済的地位が高いのではないか、と3人は予測していたが、調べてみると実際にそのとおりであることがわかった。弱く多様なつながりを持つ人は、そうでない人よりも社会経済的地位が高かったのである(画像参照)。

    ・
MITの経済学博士課程を修了したシドニー・コールドウェルとニコライ・ハーモンはさらに、ソーシャル・ネットワークの恩恵を皆が同じように受けているのかも確かめた。それでわかったのは、恩恵は決して平等ではないということだ。収入が上昇したのはほとんどが、企業のなかでも特に優秀な人たちである。能力のある優秀な人たちは、中程度の能力の人たちの2倍、能力の低い人たちに比べると実に5倍近く、ソーシャル・ネットワークの収入上昇の効果から受ける影響が大きい。優秀な人たちは、元来、収入が多めなので、上昇の幅が大きければ、給与そのものの差は上昇幅の差よりもさらに大きくなる。実のところ、組立工や肉体労働者、職人などの場合、ソーシャル・ネットワークの情報は収入にほぼ影響しない。また、女性の場合は全体的にソーシャル・ネットワークの収入への効果が小さい。ハイプ・マシンが経済的機会を増やし、職業流動性や賃金、生産性。職業の安定性などを高めるのに貢献するのは確かだが、恩恵を得て豊かだが、恩恵を得て豊かになるのは、もっぱら高い教育を受け、高い技能を持った男性で、皆が平等に恩恵を得るわけではない。
ハイプ・マシンから得られる経済的恩恵については3つのことが言える。まず、ユーザーの所在地や社会経済的地位、性別によって恩恵が大きく変わること。発展途上国はどうしても先進国に比べて、インターネット、ソーシャル・メディアへのアクセスという点で不利ある。スマートフォンの普及も遅れている。ただ、それがすべてではない。ソーシャル・メディアを利用していればそれでいいというものではないのだ。ただの娯楽として使っているだけでは、経済的恩恵は得られない。私の友人で同僚でもあるエステル・ハルギッタイの言う「自らの能力を向上させるようなソーシャル・メディアの利用」ができなければ、恩恵はないに等しい。経済的に恵まれている先進国の人々は、ソーシャル・メディアを自分の社会的地位を上昇させるのに役立てることができる。優秀な人たちとつながり、自分の評価を高め、必要な時に必要な情報を得る。何かの時に協力し合える人を増やすこともでき、転職したい時にできる状況を作ることも可能だ。キャリアの向上にソーシャル・メディアを活かすことができるわけだ。
金融サービスに関する情報を多く得ることもできるだろう。また、十分に情報を得たうえで政治に参加することもできるし、高度な医療に関する情報も得られる。恵まれていない状況にいる人たちも自己の向上にソーシャル・メディアを役立てる行動を取っていないわけではない。そのことも調査によって確かめられている。だが、恵まれている人に比べると比べるとどうしてもその程度が低いのだ。そのため、ただでさえソーシャル・メディアの恩恵を受けにくい人がますます不利になり、格差が広がることになっている。
2つ目は、ソーシャル・メディアには、裕福な人をより裕福にする効果があることだ。ソーシャル・メディア上であれどこであれ、人は自分と似た人とつながろうとする(類似性の原則)。つまり、人がつながればつながるほど、不均衡は大きくなっていくということだ。友達推薦アルゴリズムは、少なくとも部分的には、現在、誰とつながっているかに基づいて推薦する人を決める。「知り合いかも?」といって友達になることを勧められる人は、そのほとんどがあなたに似た人である。勧めに従って人とつながっていれば、分断は進む一方である。裕福な人と貧しい人はほとんど交わることがない。
3つ目は、高度な技能を持った人ほどソーシャル・メディアの恩恵を受けやすいのは、ソーシャル・メディアの本質からして当然のことだ、ということである。高度な技能を持つ人ほど、知識を得ること、情報を取得して処理することが重要になる。ソーシャル・メディアはまさにそのために有効に使える道具である。この点でも、不平等を拡大すると言えるだろう。