じじぃの「歴史・思想_432_人新世の資本論・4つの未来の選択肢」

ビッグデータを盲信する時代に終止符を

動画 digitalcast.jp
https://digitalcast.jp/v/25903/

図14 4つの未来の選択肢

人間と地球のための持続可能な「ドーナツ経済学」アフターコロナも見据えたアムステルダム市の政策とは?

2020.8.29  AMP
2020年4月オランダのアムステルダム市は、「ドーナツ経済学」の構造モデルを自治体として適用することを世界で初めて決定した。ドーナツ経済学とは、オックスフォード大学の経済学者ケイト・ラワース氏が提唱したもので、持続可能な未来をつくるために環境面での超過と社会面での不足をなくし、すべてをドーナツの「中身」に収める枠組みのことだ。
今回は、SDGsや循環経済とも密接につながりあうドーナツ経済の概要と、アムステルダムが打ち立てた自治体が一丸となった持続可能な取り組みの計画を紹介する。
https://ampmedia.jp/2020/08/29/the-donuts-economy-and-the-policy-of-the-city-of-amsterdam/

『人新世の「資本論」』

斎藤幸平/著 集英社新書 2020年発行

第3章――資本主義システムでの脱成長を撃つ より

経済成長から脱成長へ

第2章では、経済成長をしながら、二酸化炭素排出量を十分な速さで削減するのは、ほぼ不可能であることを示した。デカップリングは困難なのだ。となれば、経済成長を諦め、脱成長を気候変動対策の本命として真剣に検討するしかない。では、どのような形の脱成長が必要なのか。それを検討するのが、この章の課題である。
ただし、はじめにひとつ確認しておこう。電力や安全な水を利用できない、教育が受けられない、食べ物さえも十分にない、そういった人々は世界に何十億人もいる。そうした人々にとって、経済成長はもちろん必要だということである。
だから、開発経済の分野では、南北問題解決のためには経済成長こそが鍵であるとずっと唱えられてきたし、さまざまな開発援助が行われてきた。その善意や重要性を否定するつもりは毛頭ない。
ただ、経済成長を中心にした開発モデルは行き詰まりつつある。世界銀行IMFへの批判が大きくなっているのも事実だ。
そうした批判者のひとりとして今、欧米で注目を浴びているのが政治学者ケイト・ラワースである。国際開発援助NGOオックスファムで長年、南北問題に取り組んできた彼女が主流派経済学を批判して、脱成長を支持するようになったのだ。
「人新世」の時代に、どんな脱成長が必要なのかを論じる本章の最初のステップとして、まずはラワースの議論に耳を傾けてみたい。

グローバルな公正さを実現できない資本主義

ただし、ラワースやオニール(数学者、データサイエンティスト)の議論には、ひとつ決定的に重大な疑問が残る。彼らは資本主義システムの問題にはけっして立ち入ろうとしないのだ。ここに資本主義の問題を避けようとする既存の脱成長派の特徴が見え隠れする。しかし、問題の本丸は、公正な資源配分が、資本主義のもとで恒常的にできるのかどうか、である。
ところが、グローバルな公正さという観点でいえば、資本主義はまったく機能しない。役立たずな代物である。第1章、第2章の考察で示したように、外部化と転嫁に依拠した資本主義では、グローバルな公正さを実現できない。そして、不公正を放置する結果として、人類全体の生存確率も低めている。
繰り返せば、私たちが、環境危機の時代に目指すべきは、自分たちだけが生き延びようとすることではない。それでは、時間稼ぎはできても、地球はひとつしかないのだから、最終的には逃げ場がなくなってしまう。

4つの未来の選択肢

「平等」を軸に考えたときに、「人新世」の時代に私たちが選びうる、未来の形はどんなものだろうか。ひとまず、俯瞰(ふかん)しておこう。
図14(画像参照)の横軸は平等さを表しており、左にいくほど、平等主義で、右にいくほど自己責任論を認める立場となる。縦軸は権力の強さで、上にいくほど国家権力が強まり、下にいくほど、人々の自発的な相互扶助が重視される。
  ①気候ファシズムは、経済活動を最優先し、超富裕層だけが特権的な恩恵を独占する社会です。コロナ禍でいえば、感染抑制の行動制限を行わず、貧困層など社会的弱者がどうなろうと、それは自己責任だと突き放す。
  ②秩序なき野蛮状態。
  ③気候毛沢東主義は、コロナ禍でいえば中国や欧州諸国の対応に近いものです。つまり、国家権力を強力に発動することで、全国民の健康を重視する一方、ウイルス抑制を理由に、移動や集会の自由などを制限する。
  ④脱成長コミュニズム(X)。私たちが目指すべきものです。強い国家に依存せず、人々が民主的な相互扶助の実践を展開する。コロナや気候変動を、奪い合う社会から分かち合う社会への転換点にすべきなのです。その際には、経済成長を追求することをやめ、公正で持続可能な社会を実現する。これが私たちの進むべき道です。
        https://news.line.me/articles/oa-rp95056/1a369d7254b0 より

自由、平等で公正な脱成長論を!

「脱成長」は平等と持続可能性を目指す。それに対して、資本主義の「長期停滞」は、不平等と貧困をもたらす。そして、個人間の競争を激化させる。

絶えず競争に晒される現代日本社会では、誰も弱者に手を差し伸べる余裕はない。ホームレスになれば、台風のときに避難所に入ることすら断られる。貨幣を持っていなければ人権さえも剥奪され、命が脅かされる競争社会で、相互扶助は困難である。

したがって、相互扶助や平等を本気で目指すなら、階級や貨幣、市場といった問題に、もっと深く切り込まなくてはならない。資本主義の本質的特徴を維持したまま、再分配や持続可能性を重視した法律や政策によって、「脱成長」・「定常型経済」へ移行することはできないのである。
だが、あのラワースでさえ、その手前で止まってしまうのだ。「ドーナツ経済」の実現のための鍵を握るのは、「人口、分配、物欲、テクノロジー、ガバナンス」だと、彼女は言う。その一方で、生産、市場や階級――つまり資本主義的生産様式――を本質的問題として見ていない。
私的所有や階級といった問題に触れることなく、資本主義にブレーキをかけ、持続可能なものに修正できるとでもいうのだろうか。だが、そのような態度では、資本の力の前に屈し、資本主義の不平等や不自由がいつまでも保存されてしまう。
結局、脱成長資本主義はとても魅力的に聞こえるが、実現不可能な空想主義なのだ。だから、「4つの未来の選択肢」のどこにもあてはまらないのである。
本書が目指すX(脱成長コミュニズム)は、脱成長資本主義ではない。
脱成長を擁護したいなら、資本主義との折衷案では足りず、もっと困難な理論的・実践的課題に取り組まねばならない。歴史の分岐点においては、資本主義そのものに毅然とした態度で挑むべきなのである。
労働を抜本的に変革し、搾取と支配の階級的対立を乗り越え、自由、平等で、公正かつ持続可能な社会を打ち立てる。これこそが、新世代の脱成長論である。