じじぃの「科学・地球_368_デマの影響力・フェイクニュース・ロシアのクリミア併合」

「“インテリジェンス低下”でより非道な攻撃の可能性も」次の標的は?専門家解説(2022年4月15日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=h7ilNu0QL8E

クリミア併合で「部分的には真実で、部分的には嘘」が急増


「なぜデマ情報が急増?」米SNS研究が明らかにした衝撃の事実

2022.6.7 Yahoo!ニュース
「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。
ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。

●クリミア併合で「部分的には真実で、部分的には嘘」が急増
さらに詳しく調べると、この急増は、親ロシア勢力が組織的にソーシャル・メディアを活用した結果であることがわかった。この時、親ロシア勢力は、ハイプ・マシンを積極的に活用して、クリミアの出来事についてのウクライナの世論、国際世論を操作しようとしたのである。

クリミアの併合は、クリミア市民自身の意思に沿うものであるという認識が広まるよう仕向けたわけだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e86ad6d6fed8ef32e9e3ab9f7478cbd514d64128

『デマの影響力――なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』

シナン・アラル/著、夏目大/訳 ダイヤモンド社 2022年発行

第1章 ニュー・ソーシャル・エイジ より

人間は昔から今にいたるまで社会的な動物である。狩猟採集生活をしていた時代から、私たち人間は他者と情報を交換し合い、他者と協力、協調してきた。しかし、現代は少し違ってきている。この10年間、私たちは遠い過去からつないできたコミュニケーションの火にハイオクガソリンを注ぎ込むようなことをしてきた。世界中で大量の情報を送り合える多機能な装置を作りあげてからだ。その装置のおかげで、遠くにいる人たちの意見や行動なども瞬時に伝えられるようになった。私が「ハイプ・マシン[Hype Machine:誇大宣伝機械というような意味]」と名づけたその装置は、世界規模の通信ネットワークで私たちをつなぎ、1日に何兆という数のメッセージを運ぶ。ハイプ・マシンは私たちに様々なことを知らせ、楽しませ、考え方に影響を与えて行動を探る。そういうアルゴリズムによって動いている装置である。

――10日間

2014年2月の、ある寒い日のことだ。ウクライナシンフェロポリのクリミアの自治共和国議会議事堂を、重武装の兵士たちが取り囲んだ。表面上、明確にはわからなかったが、その兵士たちは、前日ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領の解任を受けて派遣されたロシアの特殊部隊だったことが後に確認された。いずれにしろ、素晴らしく統率された「プロの」部隊であることは誰の目にも明らかだった。正面玄関を突破すると、部隊はまず建物の通信回線を切断し、中にいた人間すべてから携帯電子端末を没収した。建物への人の出入りを完全に自分たちの管理下に置き、中からは誰も勝手に出て行かないよう、また外からは新たに、特に外国のジャーナリストたちが入ってこないよう厳重に監視した。
数時間後、侵入してきた兵士たちに脅され、そそのかされて、クリミア議会は政府を解体すること、首相をアナトリイ・モヒリオフからセルゲィ・アクショノフに交代することを多数決で決めた。前回の選挙ではわずか4パーセントの票しか獲得できなかった親ロシア正統「ロシアの統一」を率いるアクショノフを首相にしたのである。24時間も経たないうちに、やはり正体の明確でない部隊が、シンフェロポリセヴァストポリの国際空港を占拠し、付近一帯の道路に検問所を設けた。アクショノフは「ゴブリン(小鬼)」という異名を持っていた。ビジネスマンだった時代からロシアのマフィアや、親ロシアの政治家、軍人たちともつながりがあった(本人は否定しているが)、2日後、クリミアの首相という新たな肩書を手に入れたアクショノフは、ウラジーミル・プーチンに親書を書いて、同地の平和と安全の確立への協力を公式にロシアに要請した。
ウクライナ政府は、アクショノフを首相にしたのは違憲だと声明を出すのだが、その頃には親ロシア勢力による反乱がクリミア全土にまで広がっていた。それがロシアによるクリミアの併合を後押ししたのは明らかだった。クリミアには、ロシアに戻りたいという強い意志を持った人が以前から大勢いたため、国民の感情からも、併合派が圧倒的に優位のように見えた。アクショノフの支援要請から数時間ほどで、プーチンロシア連邦院から部隊派遣の正式な承認を得た。クリミアのロシア領事館は、ロシアのパスポートの発行を開始し、ウクライナのジャーナリストは、クリミア領内に入ることができなくなった。翌日には、ウクライナ国防軍は、黒海艦隊とロシア陸軍に包囲された。それから5日後、騒乱が始まってからちょうど10日後、クリミア最高会議は、ロシアへの帰属を求める決議を賛成多数で採決した。そうして、60年間ウクライナに属していたクリミアは、ロシアに戻ることになったのだ。
第二次世界大戦後、領土の併合がこれほど短期間で、これほど静かに行われたのは、初めてのことだった。アメリカの元国務長官マデレーン・オルブライトは「ヨーロッパの国境線が武力によって変更されたのは、第二次世界大戦後初めて」と言っている。わずか10日間で、まるでスイッチを切り替えたように簡単に、ある国から別の国へと領土の帰属が変わったのである。
クリミアでこの時いったい何が起きたのか、ということについては、今もまだ議論が続いている。ロシアは、これは領土の併合ではないとしている。プーチンは、クリミアのほうからロシアに接近してきたという見解を示した。しかし、反プーチンの立場を取る人たちは、これを外国による敵対的行為、武力による領土侵犯であるとみなす。これは本質的には、クリミアの人たちの意思がどこにあったのかという論争だろう。互いに矛盾する2つの現実がぶつかり合っていると言ってもいい。ロシアは、クリミアの人々は、ロシア連邦への併合を圧倒的に支持していたと主張する。だが、ウクライナ側につく人たちは、その民意はモスクワが捏造したものにすぎず、ウクライナ市民の真意とは違うと主張している。
クリミアで起きたことの解釈はとても重要である。それは、他国がどう対処すべきかの判断に大きく影響するからだ。もしこれが微力による強引な領土の併合ならば、NATO北大西洋条約機構)は絶対動かなくてはいけない。しかし、クリミアの側からロシアに接近したのだとすれば、またロシアへの帰属をクリミア市民の圧倒的多数が支持していたのだとすれば、他国の介入を正当化するのは難しくなる。水面下で秘密の軍事行動や政治的駆け引きがさかんに行われたのは言うまでもない。また、情報操作が誌上前例がないほど見事だったために、ロシアの主張どおりのことがクリミアで起きたように見えた。その情報操作には、ソーシャル・メディア――私の言う「ハイプ・マシン」――が欠かせない。