じじぃの「カオス・地球_383_街場の米中論・第5章・シオン賢者の議定書」

Trump warns of consequences if China 'knowingly responsible' for COVID-19

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=KmQ5zjIwWe8


ユダヤ人世界征服陰謀の神話 シオン賢者の議定書(プロトコル)

ノーマン・コーン(著)、内田樹(訳)
【読者感想】
あまりに偏見的になってもいけないがこの本がじゃあ100%トンデモ書物なのか?
そう思うなら最初から読まないべきだろう。しかも私が思うにこの書物はある程度の根拠や証言を基に筆者の見解を述べているためある程度信憑性があると言えるだろう大事なのは情報を信じる信じないではなく取捨選択能力とこれまでの常識に囚われない純粋な探究心だ。
https://booklog.jp/item/1/4884932196

街場の米中論

【目次】
第1章 帰ってきた「国民国家」時代の主導権争い
第2章 自由のリアリティ
第3章 宗教国家アメリカの「大覚醒」
第4章 解決不能な「自由」と「平等」

第5章 ポストモダン後にやって来た「陰謀論」時代

第6章 「リンカーンマルクス」という仮説
第7章 国民的和解に向かうための「葛藤」
第8章 農民の飢餓
第9章 米中対立の狭間で生きるということ

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『街場の米中論』

内田樹/著 東洋経済新報社 2023年発行

疫病と戦争で再強化される「国民国家」はどこへ向かうのか。
拮抗する「民主主義と権威主義」のゆくえは。
希代の思想家が覇権国「アメリカ」と「中国」の比較統治論から読み解く。

第5章 ポストモダン後にやって来た「陰謀論」時代 より

陰謀論が蔓延する理由

アメリカではいま共和党のトランプ支持者たちの間を中心に陰謀論が広く信じられています。21世紀になってまだ陰謀論かよ……と私は驚くのですけれども、本当にしぶといです。

近代において最も有名な陰謀論は「ユダヤの世界政府」による世界支配のアジェンダである「シオン賢者の議定書」です。
ユダヤ人の世界政府が世界各国で政治も経済も学術もメディアもすべてを支配しているという荒唐無稽なストーリーです。いつからこのような陰謀論が広く蔓延することになったのかについてはいくつか歴史研究があります。レオン・ポリアコフの『反ユダヤ主義の歴史』とノーマン・コーンの『シオン賢者の議定書』が代表的なものですけれども、実はノーマン・コーンの訳者は僕です。大学院時代にフランスにおける反ユダヤ主義の歴史を研究している過程で読んだ本ですが、たいへんに面白かったので自分で知り合いの出版社に売り込んで本にしてもらったのです。『シオン賢者の議定書』というタイトルをつけたのはその出版社です。おどろおどろしい装丁で、うっかりした読者が「おお、ユダヤ人の世界政府の謎を解き明かした本なのか」と思って買いそうですけれども、実は「ユダヤ人の世界政府の謎という妄想を思いついた人たちがどうしてそんな妄想を抱くに至ったかの研究書でした。

求められたシンプルな物語

世界中どこでもユダヤ陰謀論の浸透の仕方はいろいろです。『議定書』そのものはロシア人の捏造文書ですが、近代反ユダヤ主義というアイディアの発祥地はフランスです。これはフランス革命直後に革命がユダヤ人によって引き起こされたとする陰謀論です。

フランス革命はブルボン王朝を一夜にして崩壊させました。これによって貴族や聖職者などの特権階級はその地位を奪われ、英国に亡命しました。彼らは夜ごとロンドンのクラブに集まっては、いったい自分たちの身に何が起きたのかを語り合いました。

フランス革命が起きたのは、絶対王政の制度疲労、資本主義の発達、啓蒙思想の普及など複数の原因があり、その複合的な効果として革命が起きたわけですけれども、貴族たちはもっとシンプルな物語を求めました。

ブルボン王朝が一夜にして崩壊したのは、それを上回る実力を持った政治勢力によって攻撃されたからである。しかるに革命の直前まで、フランスの警察も軍隊も、「王朝を倒せるほどの強大な反政府勢力」が国内に存在する徴候を感知していなかlった。ということは、その政治勢力は「秘密結社」でなければなない。

と、ここまでは推理はとんとんと進みました。秘密結社による政治的陰謀であるということに話は決まった。残された問題は「それは誰だ?」ということだけです。いろいろな候補の名前が上がりました。フリーメーソン、イリュミナティ、聖堂騎士団プロテスタント、英国の海賊資本……でも、どれも政治革命を起こすほどの実力はなさそうだし、ブルボン王朝を倒す特段の理由もない。「シオン賢者たち」というのもその候補者の1つでした。

でも、フランス革命直後の時点では、「ユダヤ人がフランス革命を企画し、実行した」という陰謀論はそれほど説得力がありませんでした。なにしろ、ヨーロッパ諸国でユダヤ人は久しくキリスト教徒による差別と迫害の対象だったからです。居住地も職業も制限され、定期的に集団的な暴力にさらされていました。彼らが革命を起こすほどの実力がないおkとをヨーロッパの人たちはよく知っていました。しかし、「ユダヤ人=フランス革命の張本人」は時代が下るにつれてしだいに信憑性を獲得してゆきました。それは近代ヨーロッパにおけるユダヤ人たちの社会的進出が際立ったものだったからです。

ユダヤ人はフランス革命によってそれまでの被差別身分から解放され、市民権を付与されました。革命後のユダヤ人たちの社会進出はめざましいものでした。政治、経済、メディア、学術、演劇音楽……さまざまな分野でユダヤ人はプレゼンスを示しました。それを見て、「ユダヤ人がフランス革命を起こしたのだ」と考える人が出てきました。近代フランスの「反ユダヤ主義の父」エドゥアール・ドリュモンというジャーナリストです。

彼は『ユダヤ的フランス』(1886年)という書物を通じて、19世紀の』フランスにおける都市化も近代化も資本主義化も良風美俗の退廃も全部は「ユダヤ化」の帰結であると主張しました。

見ての通り、フランス革命の最大の受益者はユダヤ人である。ということはフランス革命ユダヤ人が計画したということである。ドリュモンはそう断定して、歴史解釈に決着をつけました。

ある政治的事件の受益者がその事件の企画者であることは論理的には成立しません。「風が吹けば桶屋が儲かる」という事実から「桶屋には気象を操作する超能力がある」と推論することはふつうはしません。でも、ドリュモンはそうした。そして、『ユダヤ的フランス』は19世紀最大のベストセラーになりました。

これは陰謀論ではよく見られる現象です。コロナのパンデミックに際してはずいぶん多くの人が「コロナ禍によって受益したのは誰か?」という問いを執拗に立てました。どうやらその答えが「コロナを仕掛けたのはこいつだ」という結論に導いてくれると思っていたようです。

感染初期に中国は医療資源が潤沢であったせいで、支援を求める国々に医療支援を行い、外交関係で得点を稼ぎました。
トランプのアメリカはコロナ対策では大失敗して、世界最悪の被害を出しました。それを見て「コロナ禍で中国は相対的に地位を向上させ、アメリカの地位は低下した。コロナ禍の最大の受益者は中国である。考えてみればもともとウイルスの発生源は中国の武漢だ。あれは中国が開発した生物兵器ではないのか」という暴走的な推理をする人がいました。さすがに同調する人はあまりいませんでしたけれど、トランプが「チャイナ・ウイルス」と言い続けていたことは十分に陰謀論の素地になったと僕は思います。