『となりのトトロ』(1988)予告編
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となりのトトロ
スタジオジブリ|ディズニー公式
このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。「そりゃスゴイ、お化け屋敷に住むのが父さんの夢だったんだ」と、こんなことを言うお父さんの娘が、小学六年生のサツキと四歳のメイ。このふたりが、大きな袋にどんぐりをいっぱいつめた、たぬきのようでフクロウのようで、クマのような、へんないきものに会います。ちょっと昔の森の中には、こんなへんないきものが、どうもいたらしいのです。でもよおく探せば、まだきっといる。見つからないのは、いないと思いこんでいるから。
キャスト
日高のり子 (サツキ), 坂本千夏 (メイ), 糸井重里 (とうさん), 島本須美 (かあさん), 北林谷栄 (ばあちゃん), 高木均 (トトロ)
原作・脚本・監督
宮崎駿
https://www.waltdisneystudios.jp/studio/ghibli/0242
第3章 手塚治虫の光と影――『となりのトトロ』 より
手塚治虫のメチャクチャなアニメ制作
本章では、『となりのトトロ』にも影響を与えた宮崎駿と手塚治虫、それに高畑勲との関係性を見ていこうと思います。アニメ業界で僕が見聞きしたここだけの情報も含めつつ、宮崎駿の手塚治虫や高畑勲との関係が、どう『トトロ』に影響していったのか、一緒に真相を追っていきましょう。
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要は、手塚治虫本人がメチャクチャ忙しい体制なんです。
案の定、『バンダーブック』の現場では、手塚治虫の絵コンテが全然上がらない。ということは、それをもとにした、原画、動画、アフレコといった発注ができない。手塚治虫からはできたコンテが少しずつパラパラと上がってくるもんだから、原画をある程度の量にまとめて外注するということができません。
姉妹が登場する理由
製作中に無理やり物語を伸ばした『トロロ』では、シナリオというものがなくなります。予定していたシナリオに沿ってコンテを切っていくのではなく、コンテを描き進めながら物語を考えていく、出たとこ勝負の作り方です。
お話の頭からコンテを描き始めて、それが途中までいったら、もう作画の打ち合わせを始めてしまいます。物語の結末がどうなるのか、本人にもわかりません。
まるで『少年ジャンプ』の連載漫画家のようなものです。「この先どうなるのかは、来週の俺だけが知っている」というノリで、コンテをどんどん切っていきます。
この作り方がまさに思い当たるのが、手塚治虫なんですね。『バンダーブック』や『マリン・エクスプレス』の制作現場を紹介しましたが、そこでまさに手塚治虫は、制作が進むなかでコンテを切っていました。どうしてこうなるかというと、手塚治虫の漫画家的発想が理由だと思います。アニメ制作としては無茶ですが、連載漫画出身の手塚治虫としては当たり前の作り方です。そのギャップが、スケジュールの悲劇を生みました。
宮崎駿も、手塚治虫と同じ悲劇に迷い込んでしまいました。しかもジブリ全体としてみれば、映画クオリティの80分を同時に2本も作らなければいけません。普通に考えれば、24時間テレビの手塚プロよりも厳しい状況です。
最終的に『火垂るの墓』は公開時に色塗りが間に合わなかったものの、『トトロ』は予定どおりに完成しました。手塚治虫以上にどれだけ無茶しようと、間に合わせてみせた宮崎駿。アニメ作家としての力量の軍配は、漫画の神様ではなく宮崎駿に上がるのではないでしょうか。
ちなみに、サツキとメイの姉妹が主人公になったのは、物語が80分に伸びたからです。
高畑さんへの対抗心に燃えた宮さんは「映画を長くするいい方法はないかな」と言い出して、それで1人の女の子を姉妹にすることを自ら思いつくんです。
このように、鈴木敏夫が『天才の思考』で証言しています。
僕らのようなオタクは、どうしても設定の意味を考察してしまいますが、実際の設定は、このように制作上の都合から生まれることも多いのです。
アニメは子どものものである
さて、ジブリが怒涛の仕事量でなんとか作り、今度こそSFアニメ全盛時代を相手にまわした『となりのトトロ』『火垂るの墓』の2本立てですが、配給収入は5億8800万円。『ラピュタ』にはかろうじて勝ちましたが、2本立てでこの数字はさすがに期待外れだったのではないでしょうか。興業としては失敗と見ていいと思いました。
ところが意外なことに、公開翌年にテレビで放送されると、21%の視聴率を獲得したのです。公開から遅れての反響について、『天才の思考』で鈴木敏夫はこう語ります。
テレビで放映したらすごい視聴率をとり、映画公開の2年後ぐらいに世の中に出したトトロのぬいぐるみが大人気になった(中略)。出版物、グッズやテレビ放映、ビデオなど、『トトロ』がもたらす莫大な利益によって、ずいぶんとジブリは助かっているんです。
最初はテレビ用として企画しただけあって、『トトロ』はテレビで人気に火がついたのです。常々「子どものためにアニメを作る」と公言している宮崎駿。多くの子どもをターゲットにするのであれば、気軽に見られるテレビのほうが合っていたのかもしれません。
だからこそ、僕はやぅぱり、「もしもテレビ番組として実現していたら」と考えてしまうのです。『トトロ』が映画より適切なフォーマットであるテレビ番組として、もっと早く世に出ていれば、アニメの歴史はまた違っていたかもしれません。