じじぃの「カオス・地球_323_LIFESPAN・第7章・臓器移植のドナー問題」

Organ donor killed in car crash saves 5 lives

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Y8CEEIIuucE

car crash


Teen saves 6 lives as organ donor after deadly car crash

Sat, March 5th 2022 abcNEWS
Sadly, Marilyn's life was cut short Feb. 26 when she was killed in a car accident.
After the accident, Marilyn's organs were still left intact. Because of that, the girl that was always giving and always thriving to help, was able to do so one last time.
https://abc3340.com/news/nation-world/teen-saves-6-lives-as-organ-donor-after-deadly-car-crash-radford-lynchburg-virginia-liberty-university-marilyn-allen-andy-shields-donation-lungs-heart-kidneys-pancreas-saving-life

LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界

【目次】
はじめに――いつまでも若々しくありたいという願い
■第1部 私たちは何を知っているのか(過去)
第1章 老化の唯一の原因――原初のサバイバル回路
第2章 弾き方を忘れたピアニスト
第3章 万人を蝕(むしば)む見えざる病気
■第2部 私たちは何を学びつつあるのか(現在)
第4章 あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法
第5章 老化を治療する薬
第6章 若く健康な未来への躍進

第7章 医療におけるイノベーション

■第3部 私たちはどこへ行くのか(未来)
第8章 未来の世界はこうなる
第9章 私たちが築くべき未来
おわりに――世界を変える勇気をもとう

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『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』

デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント/著、梶山あゆみ/訳 東洋経済新報社 2020年発行

第7章 医療におけるイノベーション より

臓器移植のドナー問題

グレート・オーシャン・ロードは、世界有数の美しい眺めを誇る幹線道路であり、メルボリンの西から始まってオーストラリアの海岸沿いを走っている。だが、そこを車で通るたび、あの恐ろしい日の記憶がどうしても頭をよぎる。弟のニックがバイクで事故を起こしたと、電話を受け取った日のことだ。

当時ニックは23歳で、全国をバイクでツーリングしていた。運転は非常にうまかったが、油の落ちていたところで滑ってバイクから放り出された。そして金属製の防護柵の下に体が滑り込み、肋骨が数本折れたうえに脾臓が破裂した。

幸いにも一命は取り留めたものの、脾臓を摘出せざるを得なかった。脾臓は免疫系の一翼を担う重要な臓器であり、血液細胞やリンパ球に産生に関わっている。それをなくしたためにニックは生涯、大きな感染症にかからないように注意しなくてはいけなくなった。以前より明らかに体調を崩しやすく、回復に時間がかかりようになっている。脾臓がないと、後年に肺炎で命を落とすリスクも高まる。

臓器を傷つけるものは老化や病気だけではない。生きていれば色々なかたちで臓器はダメージを受け、脾臓を失うだけならまだ幸運なほうといえる。心臓、肝臓、腎臓、肺になると、それなしで暮らすのは相当に難しい。
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1988年から2006年までのあいだに、移植のための臓器を待つ人の数は6倍になった。この文章を書いている時点で、アメリカで臓器移植を希望するオンライン登録者の数は11万4271人。しかも10分に1人の割合でその数は増えている。

日本では患者がさらに悲惨な状況に置かれている。西洋諸国と比べて、臓器移植を受けられるケースが圧倒的に少ないからだ。その理由は文化と法律の両方に根差している。1968年、札幌医科大学和田寿郎教授の執刀により、日本初の心臓移植手術が行なわれた。ところが、そのときのドナーが本当に「脳死」状態にあったのかという疑惑が生まれ、それをマスコミが感情的に書き立てた。「死後に体をばらばらにしてはならない」という仏教の教えも、その議論に油を注ぐ結果となった。すぐさま厳格な法律が制定され、ドナーの心臓が停止するまでは臓器を摘出できなくなる。およそ30年後に法律は緩和されたものの、この問題に関する日本人の見解はいまだに分かれ、良い状態の臓器が手に入りにくい状態が続いている。

異種移植と臓器印刷の可能性

この方面で画期的な研究を行っているのが、ハーバードで私と同じ学部にいる遺伝学者のルーハン・ヤンと、そのかつての指導者だったジョージ・チャーチ教授だ。2人は、哺乳類細胞の遺伝子を編集する方法を発見し、それを用いてブタの体内でヒトの遺伝子の編集を始めた。何のためにかって? ヒトの臓器をもつブタを育て、臓器提供を待つ大勢の人の役に立てるためである。
科学者は何十年も前から「異種移植」を普及させることを夢見てきたが、ヤンはそのゴールに向かってきわめて大きな一歩を踏み出した。何かというと、遺伝子編集技術を使って、ブタの遺伝子から数十個の内在性レトロウィルス遺伝子を除去することに成功したのである。ヒトとブタの細胞が混在すると、その内在性レトロウィルスはヒトに感染することが確認されているのだ。異種移植を阻む障壁はほかにもあるものの、現在はこのことが大きなネックとなってブタから臓器を移植できない。だがそれも、自分の32歳の誕生までに克服できるとヤンは考えた。

未来の私たちが臓器を入手する方法はほかにもある。2000年代前半、インクジェットプリンターを改造すれば、生きた細胞のインクを3次元の層にして出力できることが発見された。以来、生きた組織を印刷しようと世界中の科学者が研究を進めてきた。プリントアウトした卵巣をマウスに移植する実験や、プリントアウトした動脈をサルの動脈につなぐ実験もすでに行なわれ、成功を収めている。ほかにも、骨格組織をプリントして、骨折の治療に用いる研究が進行中だ。おそらくあと数年もすれば、印刷された皮膚が移植片として使われるようになるだろう。そのすぐあとには肝臓と腎臓が続き、さらに数年後には心臓(こちらは少し込み入ってはいるが)の印刷も実現するはずだ。

遠からぬうちには、例の「身の毛もよだつ(交通事故で亡くなる臓器ドナーを待ち続ける)」供給源が失われても、何の支障もない時代が来るに違いない。どのみちあれだけではとうてい足りなかったのだ。将来的には、私たちが体の一部を必要としたとき、自分自身の幹細胞を使って印刷するようになる可能性が高い。幹細胞は、そうした場合に備えて予め採取し、保存しておく。もしくは、血液や口腔粘液から採った細胞をリプログラミングして、それを用いることも考えられる。こうやって入手する臓器には競争相手がいない。だから順番待ちをしているあいだに何かとんでもない手違いが起きて、別の人に臓器がまわってしまう、などということも起こらない。私たちはただ、プリンターに仕事を終えてもらうだけでいい。