【ゆっくり解説】天然痘の歴史【感染症の歴史】再アップ
動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=rQ7kqNTmXYQ
人類と感染症の歴史、神秘にすがる人々、江戸時代の給付金事情、必死に戦った医師たち
2024年03月16日 LIFULL HOME'S PRESS
●人が移動すればウイルスも移動する、奈良時代には天然痘らしき症例が大流行し人口の20%が死亡
感染症は文明病という側面を持っている。緩やかな文明の発展期には、疫病の拡大も緩やかであった。しかし、人口の爆発的な増加と移動速度の飛躍的な進歩は、感染症の拡大速度をも早める結果を招いた。居住地の都市化が進み、街道が整備され荷車が発明され、馬車が登場すると人の移動は飛躍的に活発化した。
それにより、ヨーロッパでは全土にわたって感染症が大流行することになる。中でも14世紀に起こったペストの大流行は、当時の世界人口の20%以上の人の命を奪った。文明の発展速度の激化が、感染症のパンデミックを引き起こしたのである。
さらに時代が下り、15世紀の大航海時代に突入するとパンデミックは海を渡り、大陸間での感染症の交換が起こった。コロンブス交換と呼ばれるこの現象は、東半球と西半球の物資や作物、人のみならず病原体をも広範囲にわたり移動させた。
結果、西半球の感染症であったコレラ・マラリア・麻疹・ペスト・天然痘などがアメリカ大陸へと渡り、梅毒・シーガス病・イチゴ腫などがヨーロッパにもたらされた。
https://www.homes.co.jp/cont/press/reform/reform_00964/
すばらしい医学―あなたの体の謎に迫る知的冒険
【目次】
はじめに
第1章 あなたの体のひみつ
第2章 画期的な薬、精巧な人体
第3章 驚くべき外科医たち
第4章 すごい手術
第5章 人体を脅かすもの
おわりに
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
『すばらしい医学―あなたの体の謎に迫る知的冒険』
山本健人/著 ダイヤモンド社 2023年発行
第5章 人体を脅かすもの
悲惨なウイルス漏洩事件 より
天然痘で死亡した最後の人類
1980年、世界保健機関(WHO)は天然痘撲滅宣言を行った。人類史上初めて、1つの病原体が世界から根絶されたのである。ワクチンの普及によるものだ。
ひとたび感染すると致死率は20~50パーセントに及び、20世紀だけでも推定3億人以上という膨大な数の人類を死に追いやってきたこのウイルスは、今や自然界に存在しない。研究を目的として、アメリカとロシアの研究施設に保管されているのみである。
歴史上、天然痘で死亡した最後の人類となった女性は、悲惨な事故とともに広く知られている。撲滅宣言から2年前のことだ。
イギリス、バーミンガム大学の解剖学教室で医療用写真を現像する仕事をしていた40歳のジャネット・パーカーは、1978年8月、突然の体調不良を訴えた。頭痛や筋肉痛、全身にひどい発疹が現われたのだ。彼女の入院後、主治医は驚くべき検査結果を手にすることになる。パーカーの体液から天然痘ウイルスが検出されたのである。
・
ヘンリー・ベドスンは熱心なウイルス学者だった。中東の危険地域を訪れて研究活動を行なうなど、天然痘の撲滅を目指してウイルス研究に打ち込んでいた。彼はWHOに嘆願し、1978年末までの数ヵ月間、かろうじて研究継続を許可されていた。
事故が起きたのは、そんな矢先だった。実験室から漏れ出した天然痘ウイルスが、気づかないうちにパーカーの身体に侵入したのである。ウイルスが通気孔を通って真上の解剖学教室に到達したと見られるが、はっきりした理由はわかっていない。いずれにしても、パーカーが不運にも研究室内で天然痘に感染したのは確実だった。
調査の結果、責任を問われたベドスンには非難が集中した。気を病んだ彼は、1978年9月、自宅で喉を切って自殺した。あまりにも悲惨なこの事件は世界中の研究機関を揺るがし、施設の安全性を見直す大きな契機となった。
現在、病原微生物を扱うあらゆる研究室は、極めて厳格な基準を満たさなければならない。人命を奪う恐ろしい外敵でありながら、私たちはその存在を肉眼で検知できず、逃避行動をとることすらできないからだ。
世界史を変えた感染症
天然痘ほど、人類の歴史に大きな影響を与えてきた感染症はないだろう。致死的な感染症は時に、大国の軍事力をはるかに上回る力を持つが、天然痘はその好例だ。
15世紀の大航海時代、ヨーロッパの人たちは南北アメリカ大陸を「発見」し、先住民たちの国家を次々に滅ぼした。彼らは気づかないうちに、銃や馬よりもはるかに強力な「武器」を持ち込んでいた。ウイルスである。
かつて南米に栄えたアステカ帝国やインカ帝国は、数百万人もの人口を有する強大な国家であった。だが16世紀前半、スペイン人のフランシスコ・ピサロやエルナン・コルテスが率いるわずかな手勢によって征服されてしまう。
なぜ、このようなことが起きたのか。その大きな要因になったのか、スペイン人らが持ち込んだ天然痘ウイルスだ。外界と一度も接触したことのなかった先住民たちは、ウイルスに対して一切の抵抗力を持たなかった。天然痘によって人口が激減し、すでに戦闘力が失われていた帝国は、こうして安々と征服されてしまったのだ。