HIV Life Cycle
HIVの増え方
HIV感染症ってどんな病気?
HIVの増え方には、いくつかの段階があります。ウイルスは人間のCD4陽性リンパ球細胞と出会うとCD4という、いわば鍵穴に結合してしまいます。
その後、ウイルスの表面の殻と人間の細胞とが一つに溶けあって一体化して、ウイルスの中身が、CD4陽性リンパ球細胞の中に侵入します。
https://www.haart-support.jp/aboutHIV/3_2.htm
楽天ブックス:人類と病 - 国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書 2590)
詫摩佳代(著)
【目次】
第3章 新たな脅威と国際協力の変容――エイズから新型コロナウイルスまで 107
1 エイズは撲滅できるか 109
感染症の世紀
エイズの特異性
難しい予防
差別と偏見
国連合同エイズ計画の設立
安全保障上の課題として
資金の動員
治療をめぐる状況
HIVワクチンの開発
https://books.rakuten.co.jp/rb/16258112/
『人類と病』
詫摩佳代/著 中公新書 2020年発行
新たな脅威と国際協力の変容――エイズから新型コロナウイルスまで より
前章で見たマラリアや天然痘のように、長く、継続的に人類の課題であった感染症もあれば、近年新たに脅威として加わった感染症もある。21世紀の社会において、エボラ出血熱や新型コロナウイルスの流行に人類が右往左往、苦悩する姿は、数世紀前となんら変わっていない。他方、その苦悩の内容は変化してきた。科学技術の発展により、病原菌が解明され、有効なワクチンや治療法が開発されてきた。感染症がどのようにして感染するのか、そのメカニズムも科学的に解明されてきた。有効なワクチンや治療法が見つかっていない感染症も多く存在するが、研究・開発は着実に進展している。
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本章では、近年新たに人類社会の脅威として確かな存在感を発揮してきたエイズ、サーズ(SARS)、エボラ出血熱、新型コロナウイルスに焦点を当ててそれらが感染症と人類との闘いにどのような変化を付け加えたのかを見ていきたい。これらの新しい感染症は、既存の国際保健枠組みの限界を人類に認識させる契機ともなった。エイズは従来の感染症とは異なり、有効なワクチンがまだ開発されておらず、予防には個人の行動やプライバシーに深く立ち入る必要がある。また、予防と治療には莫大な資金が必要であり、様々な対応枠組みが形成されてきた。
エイズの特異性
そのなかでも近年、人類社会に特に大きなインパクトを与えてきたのがエイズである。HIVはヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus:HIV)の略称である。
HIVは人体の血液中に取り込まれると、免疫システムにおいて身体への感染を予防する効果を持つ細胞(CD4細胞)を攻撃し、ウイルスや細菌に対する身体の抵抗力を徐々に低下させる。
HIVに感染した人が、免疫機能の低下により、指定された合併症のいずれかを発症した状態のことをエイズ(後天性免疫不全症候群、Acquired immune deficiency syndrome:AIDS)と呼ぶ。エイズの症状としては、下痢や寝汗、急激な体重減少のほか、正常な免疫力があればかからないカビ、寄生虫、細菌、ウイルスなどによる日和見(ひよりみ)感染症や悪性腫瘍、神経障害などがある。
1981年に初めての症例が報告されて以来、すでに7700万人以上がHIVに感染してきた。毎年新たにウイルスに感染する人の数は、1996年にピークを迎えた後、減少傾向にあるが、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の統計によると、2017年時点で3600万人以上がHIVに感染している。
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潜伏期間が長いこともその特異性の1つである。HIVに感染してからエイズを発症するまで平均約10年かかり、感染者が知らずに感染を広げてしまうことが多い。HIVは性交渉や注射器具の共有によって感染するほか、妊娠や出産、授受を通じての母子感染もみられる。いずれも、たとえば性交渉の際のコンドームの使用や、注射器具の共用をなくすこと、母親の薬の内服などで感染を防ぐことができる。このように適切な予防法が確立されているにもかかわらず、自身の感染に気付かず、他者への感染を広げてしまうケースがいまだに存在する。2017年の統計では、HIV陽性者のうち、自身の感染や状態を知らないものが約4分の1存在した。
難しい予防
セックスを介して感染する点もこの感染症への対応を難しくしてきた。性交渉の際にコンドームを使用すれば、エイズを適切に予防することあできるが、実際の使用は個人に任せるよりほかになく、プライベートな領域に立ち入って強制することはできない。また、単にポスターを貼って啓蒙するだけでは不十分であり、性行為によく利用される場所を特定し、普及させるという細やかな対応が必要となる。
たとえば1990年代のジンバブエでは、都市部のビアホールがセックスのための施設と化していたため、ピーター・ピオットら、国際機関の関係者たちはビアホールの中や周辺で啓発のためのポスターを貼り、トイレに無料のコンドームボックスを設置することを試みたという。
HIVワクチンの開発
エイズの感染を広げないためには、一人でも多くのHIV陽性者が自身の感染に気づくことが必要となる。早期発見は治療においても重要である。エイズ発症前にHIV感染を発見することで、現在では確実にエイズの発症を抑えることができるからだ。国連合同エイズ計画の働きかけもあり、アフリカでは近年、無料あるいは低価格で検査キットを入手できる制度が整備されつつある。ケニアでも、公共の施設や街の薬局で手軽に自己検査キットを入手できるようになった。自己検査キットでは、自身の指の血液や唾液を採取し、簡単に感染の有無を調べることができる。
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こうしたなかで、製薬会社に財政的インセンティブを与えるためのパートナシップが確立されてきた。1996年に設立された国際エイズワクチン推進構想(IAVI)は、各国政府と民間企業、財団の寄付によって成り立っており、25ヵ国のパートナーとともに、HIVワクチン候補の研究開発を展開している。日本の研究機関が国際エイズワクチン推進構想と共同開発したHIVワクチン候補も、2013年からアフリカで臨床試験に入っている。