じじぃの「カオス・地球_191_ウイルスとは何か・第4章・動物からの感染症・集団感染症」

Why Do Bats Carry So Many Diseases? (like Coronavirus)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Ao0dqJvH4a0

マダガスカルオオコウモリ


Bats are not to blame for coronavirus. Humans are

Fri March 20, 2020 CNN
Scientists are still unsure where the virus originated, and will only be able to prove its source if they isolate a live virus in a suspected species - a hard task.

But viruses that are extremely similar to the one that causes Covid-19 have been seen in Chinese horseshoe bats. That has led to urgent questions as to how the disease moved from bat communities - often untouched by humans - to spread across Earth. The answers suggest the need for a complete rethink of how we treat the planet.
https://edition.cnn.com/2020/03/19/health/coronavirus-human-actions-intl/index.html

ウイルスという存在

動物からはじまったウイルス感染症

科学バー 文と写真 長谷川政美
●コウモリを自然宿主とするウイルス
第6話で見たように、ヒトに感染するようになったコロナウイルス7種のうちの5種は、もともとコウモリを自然宿主とするものである。また風邪のウイルスとして知られているコロナウイルスのうちの残りの2種類はネズミなどげっ歯類由来のものであるから、これらのウイルスが引き起こす病気はすべて動物由来感染症だ。
https://kagakubar.com/virus/08.html

『ウイルスとは何か―生物か無生物か、進化から捉える本当の姿』

長谷川政美/著 中公新書 2023年発行

「ウイルス」という言葉を知らない人はいないだろう。ただし、その定義は曖昧である。目に見えない極小の存在で、ほかの生物の細胞内でしか増殖できないために、通常は生命体とはみなされない。だが、独自のゲノムを有し、突然変異を繰り返す中で、より環境に適した複製子を生成するメカニズムは、生物の進化と瓜二つだ。恐ろしい病原体か、あらゆる生命の源か――。進化生物学の最前線から、その正体に迫る。

第4章 動物からもたらされる感染症 より

1 動物から始まったウイルス感染症

身近な存在
「動物由来感染症」は、英語では「zoonosis」という。zoonosisは「動物の病気」というギリシャ語からきているが、ヒト以外の動物に寄生する病原体により生じるヒトの感染症ということである。

第6章でも詳しくお話しするが、ヒトに感染するようになったコロナウイルス7種のうちの5種は、もともとコウモリを「自然宿主」(自然界において寄生される生物)とするものである。
また風邪のウイルスとして知られているコロナウイルスのうちの残りの2種類はネズミなどげっ歯類由来のものであるから、これらのウイルスが引き起こす病気はすべて動物由来感染症だ。

1994年、オーストラリアでウマからヒトに感染して重篤な症状を引き起こした「ヘンドラウイルス感染症」のウイルスも、自然宿主はオオコウモリである。1999年にマレーシアの養豚場のブタとそこで働くヒトが重篤脳炎に罹った「ニパウイルス感染症」もオオコウモリに由来する、ヘンドラウイルスと近縁なウイルスが引き起こしたものである。
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ニパウイルス感染症はこれまでマレーシア、バングラデシュ、インドなどでの流行はあったが、幸い世界的な大流行パンデミックには至っていない。しかし、2015年12月にはWHOが近い将来にパンデミックを起こす恐れのある感染症の一つの候補として挙げている。

最初養豚場で発生したこの感染症は、ブタと接したヒトには感染したが、その家族には感染しなかったことから当初ヒトからヒトへの感染はないと考えられた。しかし、2019年に発表されたバングラデシュでのニパウイルス伝搬の調査によると、248のヒトへの感染例のうちの82例はヒト・ヒト感染だったという。現代社会では、ウイルスがいったんヒト・ヒト感染の能力を獲得すれば、容易に世界中に拡散し得る。

ニパウイルスは、「パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)」に属する一本鎖RNAウイルスであるが、コロナウイルスとは違ってゲノムはマイナス鎖RNAである。ニパウイルス感染症のヒトへの感染は、前述したように、最初1999年にマレーシアの養豚関係者のあいだで流行し、その後、バングラデシュ、インドなどでも流行が見られた。

ところが、これらの感染者から採取されたウイルスのゲノムを調べてみると、かなり違った2つの系統に分類される。マレーシアを中心に拡がったマレーシア系統とバングラデシュ、インドなどのバングラデシュ系統である。2つの系統ではゲノムがコードするたんぱく質アミノ酸配列もかなり違っていた。

マレーシア系統ではブタを介した感染が主であるのに対して、バングラデシュ系統ではヒト・ヒト感染も多いなど、2つの系統のあいだには感染様式にも違いがある。
ヒトに感染しやすくなるような変異も2つの系統で独立に進化したようなのである。両地域におけるオオコウモリの集団で、ヒトに感染しうるような変異がそれぞれ独立に生まれたものと考えられる。

このように野生動物を自然宿主とするウイルスの集団の中には、さまざまな変異を重ねながらヒトや家畜に感染する機会を待ちかまえているウイルスがいるのだ。

2 ヒトと感染症の歴史


話をヒトに移そう。人類の歴史は感染症との闘いの歴史でもあった。ヒトの集団感染症の多くは、人類が農耕を始め、野生動物を家畜化して定住生活をするようになってから、動物から持ち込まれたものといわれている。

その中でも「ペスト菌(Yersinia pestis)」という真正細菌がネズミからノミやシラミを介してヒトに感染して引き起こされるペストや、「天然痘ウイルス(Poxvirus variolae)」というDNAウイルスによって引き起こされる天然痘は、人類の歴史を通じて深刻な感染症であった。

天然痘ウイルスは、およそ1万6000年前にアフリカのガービル(Gerbilliscus kempi)というげっ歯類を宿主とする「タテラポックスウイルス」から分かれてヒトに感染するようになったと推定されている。タテラポックスという名前は、このガービルが「Tatera kempi」とも呼ばれることからきている。


マールブルグウイルスの場合は、自然宿主のルーセットオオコウモリから繰り返しヒトへの感染が起こっているから、このウイルスにはもともとヒトへの感染力があったものと考えられる。一方、COVID-19の病原ウイルスであるSARS-CoV-2はキクガシラコウモリを自然宿主とするコロナウイルスがそのままヒトに感染したわけではない。ヒトに感染するためには、新しい宿主に適応した変異が必要であった。逆に、そのような変異を起こしてしまうと、コウモリを宿主とし続けるには都合が悪くなってしまうのだ。

それではなぜ自らの系統の存続を危うくしかねない変異が起こるのだろうか。ウイルスが増殖するに際にゲノムのコピーをつくるが、ある割合でコピーミスとして変異が起こることは必然だ。ウイルスが存続するにあたって致命的な変異は自然選択ですぐに取り除かれる。

増殖する上で有利な変異であれば、そのような変異ウイルスが増えて、ウイルス集団の中で優勢になることもある。また、ウイルスの存続にとって有利でも不利でもない中立的な変異もあるだろう。そのような変異がたまたま集団の中で優勢になることもある。

これらの変異以外に、存続にとって多少不利な変異もあるが、自然選択がそれほど厳しくなければ、ある程度の期間は存続するかもしれない。そのような変異ウイルスは、本来の宿主の中では多少不利かもしれないが、環境の違う別の宿主に感染すれば、力を発揮する可能性がある。

SARS-CoV-2の祖先がキクガシラコウモリ属からヒトへと宿主を変えた背景にはこのようなことがあったのかもしれない。世界中を航空機で移動する現代人に感染するようになったSARS-CoV-2は、瞬く間に世界中に拡がった。