じじぃの「死ぬということ・第10章・最期の日々・モルヒネ!死の雑学」

LIFE age & BMI


Effects of obesity on survival from age 35 years in males:

Prospective Studies Collaboration, 2009
Mortality Trends
Comment: This graph shows the effects of becoming obese by middle age on the probability of surviving to different ages. Reaching a weight one third more (BMI 32) than a healthy trim weight (BMI 24) cuts life expectancy by about 3 years. The graph is about men, but for women the reduction is much the same.
http://www.mortality-trends.org/3_special_graphs/14.html

中公新書 死ぬということ――医学的に、実務的に、文学的に

黒木登志夫【著】
【目次】
はじめに
第1章 人はみな、老いて死んでいく
第2章 世界最長寿国、日本
第3章 ピンピンと長生きする
第4章 半数以上の人が罹るがん
第5章 突然死が恐ろしい循環器疾患
第6章 合併症が怖い糖尿病
第7章 受け入れざるを得ない認知症
第8章 老衰死、自然な死
第9章 在宅死、孤独死安楽死

第10章 最期の日々

第11章 遺された人、残された物
第12章 理想的な死に方
終章 人はなぜ死ぬのか――寿命死と病死

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『死ぬということ――医学的に、実務的に、文学的に』

黒木登志夫/著 中央公論新社 2024年発行

「死ぬということ」は、いくら考えても分からない。自分がいなくなるということが分からないのだ。生死という大テーマを哲学や宗教の立場から解説した本は多いが、本書は医学者が記した、初めての医学的生死論である。といっても、内容は分かりやすい。事実に基づきつつ、数多くの短歌や映画を紹介しながら、ユーモアを交えてやさしく語る。加えて、介護施設や遺品整理など、実務的な情報も豊富な、必読の書である。

第10章 最期の日々 より

1 終末期を迎えたとき

最後は痩せて食べられなくなる
最後を迎える人の栄養状態を迫った研究がある。特別養護老人ホームの入院患者の多くは、特別の病気というよりは、次第に食べられなくなり、老衰により、枯れるように死んでいく。
東京有明医療大学の川上嘉明は、その間の食事と水分の摂取、体重を5年にわたり測定した。図(画像参照)に示すように、最初の4年強は、食物摂取量は普通の人の半分程度(1200~1300キロカロリー)で少ないもののそのレベルを維持していたが、痩せの程度を示すBMIは、20.5~18.5程度まで減少していった。これは、高齢者によく見られる食べても痩せてしまう症状である。

そのカーブが急に下りはじめると死が近いことを図は示している。死の1年前には、一段と痩せ始め、BMIが減りはじめる。食事の摂取は8ヵ月前くらいから、水分の摂取は5ヵ月前くらいから明らかに減っていく。死ぬときには、BMIは16に近くなっている。身長160cmであれば40kg、170cmでは46kg程度の体重である。つまり、食べられなくなり、どんどん痩せてきたら、命が危ないのだ(なお、BMIが12以下になると生きていけないといわれている)。

死の4週間くらい前から死ぬまで
死んでいく経過を、詳しく見てみよう。死の経過は、病気により異なるが、その中でも終末期に共通の経過がある。

死の2~4週間前
死の2~4週間前になると、死のプロセスが見えてくることが多い。人によって異なるにしても、次のようなサインが見られる。食欲、のどの渇きの減退、体重の減少は、図のように、その前から引き続いている。

 ・食欲が減退する
 ・喉の渇きも減る
 ・体重が減少する
 ・体の動きが鈍くなる
 ・睡眠時間が増加する
 ・軽い幸福感がある
 ・せん妄

身体はエネルギーを必要としなくなるので、食欲がなくなっても、水分をとらなくても特に困ることはない。このようなとき、無理に食べさせると、患者は苦しむだけである。氷を口に含ませると、患者にとっても心地がよいし、水分の補給にもなる。反応もなく、昏睡状態のように見えることもあるが、患者には聞こえるので、手を握り、静かに話かけ、励ます。

(このブログを書いている私の場合は、シャーベット状になった氷を飲み込み喉を通る時溶けていく、その感覚を楽しんでいます)


死の1~2週間前
亡くなる2週間くらい前になると、眠っている時間が長くなり、夢と現実のあいだを行ったり来たりするようになる。

死の当日、数時間前
死が近づくと、次のようなサインが現れる。

 ・体温が通常より1~2度低い
 ・血圧の低下
 ・尿量の減少
 ・脈が遅くなったり速くなったりする不規則な状態
 ・発汗の増加
 ・唇や爪の色が青白くなるなど、皮膚の色の変化
 ・呼吸の変化
 ・しゃべらなくなる
 ・突然の腕や足の動き
 ・せん妄

この時期になると、ほとんど眠ったように状態になる。呼吸は、深い呼吸と浅い呼吸が繰り返される「チェーン・ストークス呼吸」や下顎を上げてあえぐような「下顎呼吸」になる。最後の段階では、無反応になり、目を開いていても周囲をみることはできない。しかし、聴覚は最期まで残っているので、そばに座って話しかけることは大切だ。そして、最期もは、苦しむこともなく、眠るように息を引き取る(はずだ)。医師は心、肺、脳の機能停止による「死の3徴候」を確認し、死を告げる。具体的には、次の3徴候である。

 1 呼吸の停止(肺機能の停止)
 2 脈拍の停止(心機能の停止)
 3 瞳孔散大、対光反射の停止(脳機能の停止)

3 痛みと苦しみを抑える

人々が死を恐れる最大の理由は、そのときの苦しみと痛み、そして精神的な寂寥感であろう。それは、患者本人だけではなく、人生をともにしてきた家族にとっても耐えがたいことである。そのときは病気そのものの治療よりも、本人の苦しみや痛みを緩和し、精神的に支える「緩和医療(Palliative Medicine)」が対応してくれる。緩和医療は、終末期に限っているわけではない。病気の最初から必要な場合もある。まず、疼痛対策から紹介しよう。

WHOの3段階疼痛対策
特に、がんの場合、がん細胞の浸潤に伴う痛みが問題になる。実際、WHOの「がん疼痛指針」によると、抗がん剤治療を受けている患者の55%、進行がんの患者の66%が疼痛を訴えているという。それだけに、がん疼痛はがん治療における重要な課題である。
WHOはがん疼痛対策を次のように3段階に分けている。

 ・軽度の痛み:普通の解熱鎮痛剤、非オピロイド系鎮痛剤(ロキソニンなど)
 ・中等度の痛み:オピロイド、非オピロイド鎮痛剤(トラマドール、コデインなど)
 ・強い痛み:モルヒネ、強いオピロイド(オキシコドンなど)

オピロイド(Opioid)は、モルヒネと同じように脳内で働き、鎮痛効果、麻薬作用を持つ。効果の強いオピロイド、弱いオピロイドなど多くの種類があり、使い分けられる。

国際的に比較すると、日本は疼痛対策が遅れている。国際麻薬規制委員会の調査によると、疼痛用モルヒネ、オピロイドの使用量は1番多いオーストリアの20分の1、アメリカの9分の1、韓国とくらべても日本は半分にすぎない。日本人には我慢が美徳という考えがあるし、医師も麻薬というと過度に慎重になる傾向がある。しかし、これだけ疼痛対策がしっかりしているときに、苦痛を我慢することはない。遠慮なく医師に訴えるべきであるし、医師も積極的に患者の訴えに応えるべきである。

しっこい痛みが鎮痛剤で抑えられれば、痛みを忘れてよく寝ることができる。

モルヒネについての誤解
1番強い効果をもつ鎮痛剤は、よく知られているようにモルヒネである。モルヒネは痛みの中枢である脳に痛みの信号を伝えるのを阻止することにより、痛みを抑える。持続する鈍痛など、普通の鎮痛剤で効きにくい痛みにも有効である。効かないときには、量を増やすことにより痛みを抑えることができる。しかし、モルヒネは有名な麻薬のため、次に示すような多くの誤解がある。

 ・副作用、習慣性が怖い → 医師の指示通りに使えば心配はない。
 ・モルヒネを使うようになったら終わり → 痛みがひどければ、いつでも使う。
 ・モルヒネは鎮静剤である → モルヒネを鎮静剤として使うことはない。ただし、痛みが取れれば、患者は安心して眠れるので、鎮静効果があるように見える。
 ・モルヒネ安楽死誘導 → 完全な誤解。モルヒネを鎮痛以外の目的で使うことはない。
 ・最後はモルヒネ漬けになって殺される → 完全な誤解。

厚労省麻薬取締官が最期までモルヒネを拒否し、がん性疼痛で苦しみながら亡くなったという話を聞いたことがある。職業のプライドにかけてもモルヒネを使いたくなかったのかもしれないが、この取締官は薬としてもモルヒネを理解していなかったのであろう。

がんの疼痛対策については、がん研のホームページに詳しい。