じじぃの「カオス・地球_187_ウイルスとは何か・第2章・ウイルスの起源・RNA世界仮説」

ウイルスの進化学~ウイルスはどこから来て、どう進化してきたのだろう?~

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=F6aTEiapgaw

ウイルスと原始生命


図2-2 ウイルスの起源をめぐる仮説


特集:ウイルスと原始生命

2022年7月号 日経サイエンス
「なんでこんなものが世の中にいるんだろう」。研究者を驚かすウイルスが相次ぎ発見されている。
従来の生物学の常識を覆す超特大のウイルスで、内部構造や遺伝子の構成はこれまで知られていたウイルスとはかなり違っている。この巨大ウイルス群の研究によってウイルス,そして生命に関する見方が大きく揺らいでいる。一方、原始生命体を模擬したRNA分子を用いた進化実験でも興味深い成果が上がった。RNA生命体が試験管の中で自己複製を繰り返すうちに、その生命体の力を利用して自己複製する「寄生体」が出現した。寄生体はウイルスの祖先といえる存在で、RNA生命体の進化を駆動していることがわかってきた。生物の祖先とウイルスの祖先は非常に強く結びついていたのかもしれない。
https://www.nikkei-science.com/202207_028.html

ウイルスという存在

ウイルスの起源

科学バー 文と写真 長谷川政美
●細胞性生物の起源
第21話で紹介したように、現存生物はすべて真正細菌古細菌、真核生物のいずれかのグループに分類される。これらはいずれも細胞で作られているので、「細胞性生物」とも呼ばれる。
細胞性生物のゲノムはすべてDNAであり、その情報を RNAとして転写し、それがリボソーム上でたんぱく質に翻訳される仕組みも共通である。
生物を構成する材料としては、DNA、RNAそしてたんぱく質が重要であるが、もう一つ生物を構成する材料として重要なのが脂質である。これは細胞膜を作る。細胞膜のような袋がなければ、せっかくいろいろな分子を揃えても周りに拡散してしまって、生物としてのまとまりを保てないのである。
現在の生物はすべてこれら4種類の分子を全部もっているが、それが一度に揃うことはないだろうから、進化の過程で順次加わったと考えられる。その中で最初の分子はRNAだったという「RNA世界(RNA ワールド)」仮説がある。
https://kagakubar.com/virus/29.html

『ウイルスとは何か―生物か無生物か、進化から捉える本当の姿』

長谷川政美/著 中公新書 2023年発行

「ウイルス」という言葉を知らない人はいないだろう。ただし、その定義は曖昧である。目に見えない極小の存在で、ほかの生物の細胞内でしか増殖できないために、通常は生命体とはみなされない。だが、独自のゲノムを有し、突然変異を繰り返す中で、より環境に適した複製子を生成するメカニズムは、生物の進化と瓜二つだ。恐ろしい病原体か、あらゆる生命の源か――。進化生物学の最前線から、その正体に迫る。

第2章 ウイルスの起源を探る より

1 生物とウイルスの関係

起源に迫る糸口をつかむ
前章の末尾に、生物における「最後の共通祖先」として仮定されているLUCA(Last Universal Common Ancestor その起源を約40億年前にまでさかのぼることのできる単細胞生物)についてお話しした。LUCAが実在したとすれば、リボソームでmRNAの情報にしたがってたんぱく質を合成しており、その際には普遍コード表を使っていたのであろう。

細菌から動物までのあらゆる生物を含む系統樹は、リボソームRNA(rRNA)というリボソームを構成する分子の配列データを用いて描くことができる。この分子は細菌とヒトのあいだでも相同性(祖先を共有することによる配列の類似)が認められる(このほかにも、細菌とヒトのあいだで相同な遺伝子はたくさんある)。

一方、ウイルスのもつ遺伝子セットは多様であり、あらゆるウイルスに共通の遺伝子はない。またゲノムの形態も多様であり、RNAウイルスとDNAウイルスはそれぞれ別の起源をもつと考えられていた。ところが、1983年に当時九州大学にいた宮田隆らのグループが、マウス白血病ウイルスやラウス肉腫ウイルスなどの1本鎖RNAをもつレトロウイルスの逆転写酵素と、B型肺炎ウイルスやカリフラワーモザイクウイルスなどの二重鎖DNAをもつウイルスの複製酵素の配列をくらべたところ、これらが互いに「相同」であることが明らかになった。

つまり、これらのまったく違ったウイルスだと思われたものが、共通の遺伝子をもつからといって、必ずしも共通の祖先から進化したことにはならないが、多様なウイルスを進化的に結びつける手がかりが得られたと言えよう。

細胞性生物の起源
生物はゲノムを複製し、その際に生じる突然変異に対して自然選択が働くことによって子孫を増やすような形質が進化する。そのように複製を繰り返しながら進化するものを「複製子」と呼ぶことは前章でもお話しした。

ウイルスは生物の細胞の中でしか増殖できないが、同様に自分の子孫を増すように進化する複製子であり、ひとつの祖先からさまざまな子孫が生まれる様子は、細胞をもった生物と変わらない。

先述したように、現在生物は真正細菌古細菌、真核生物のいずれかのグループに分類される。しかし、どれも細胞でできている点で共通しており、「細胞性生物」とも呼ばれる。細胞性生物のゲノムはすべてDNAであり、その情報をRNAとして転写し、それが細胞小器官であるリボソーム上でたんぱく質に翻訳される仕組みも同じである。

生物を構成する材料としては、「DNA」「RNA」そして「たんぱく質」が重要であるが、もうひとつ生物を構成する材料として重要なものに、細胞膜をつくる「脂質」がある。細胞膜のような袋がなければ、せっかくいろいろな分子を揃えてもまわりに拡散してしまって、生物としてのまとまりを保てないのである。

現在の生物はおしなべてこれら4種類の分子をもっているが、それらは進化の過程で一度に揃ったのではなく、順次加わっていったと考えられている。その中でも、最初の分子はRNAだったという説があり、「RNA世界(RNAワールド)仮説」と呼ばれている。

現在生物では、たいていたんぱく質酵素の働きをしている。しかし、1982年にアメリカ・コロラド大学のトーマス・チェックによって、酵素活性をもつRNAが発見された。この発見によって、それまではたんぱく質だけがもつと思われていた酵素活性が、RNAにもあることが分かったのである。「RNA世界仮説」は、こうした発見から浮上してきた考えである。

たんぱく質酵素活性をもつが、自己複製できない。このことは、生命の起源を考える際の大きな障害になっていた。ところが、自己複製し得るRNA酵素活性ももつということが明らかになり、生物進化への最初の段階としてのRNA世界に、一気に注目が集まることになったのである。
    ・
ここで膜に囲まれた袋のような構造がないと、RNAの材料が拡散してしまう。脂質二重層の膜がつくる袋状の構造体は、無生物的にできやすかったと考えられる。生体膜をつくるリン脂質分子あ水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい部分(疎水基)から構成されている。

このような分子をたくさん水の中に入れると、親水性の部分が水のある外側に並び、水とは反発する疎水性の部分が分子間力の一種であるファン・デル・ワールス力で引き合って内側に並んで、膜の二重層ができる。

したがって、最初のRNA世界は、脂質二重膜で囲まれた細胞のようなものだったかもしれない。

図2-2(画像参照)に、ウイルス起源に関する考えをまとめた。RNA世界は細胞前の世界としたが、それは現在のような細胞が成立する前ということである。脂質二重膜は、現在の細胞膜の基本的構造でもある。