じじぃの「カオス・地球_188_ウイルスとは何か・第2章・ウイルスの起源・ウイルス粒子の構造」

ウイルスと細菌の違いは?ウイルスの構造|ドクターメイト皮膚科医 青柳直樹

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=mlwh6kjDwMI

図2-3 ウイルス粒子の構造


図2-4 RdRpによるRNAウイルス全体の系統図


ウイルスという存在

ウイルスの起源

科学バー 文と写真 長谷川政美
●ウイルスの起源に関する三つの考え
細胞に感染する前のウイルスをウイルス粒子(virion)というが、ウイルス粒子は通常DNAあるいはRNAのゲノムがカプシドというたんぱく質で囲まれた状態にある(図29-5)。その外側がさらにエンベロープと呼ばれる外被に覆われるウイルス粒子もある。エンベロープを持たないウイルス粒子は、裸のウイルスあるいはヌクレオカプシドと呼ばれる。

ウイルスの起源については三つの考えがある(1)。一つは、ウイルスは「細胞前の世界」の名残だというものである。その頃のRNAやDNAなどの核酸がカプシドを獲得してウイルスになったというものだ(図29-4の①)。
別の考えは、ウイルスが細胞性生物の退化したものであるというものである(図29-4の②)。三番目の考えは、細胞生物のゲノムの一部あるいはRNAが独立してウイルスになったというものである(図29-4の③)。これら二つは、ウイルスが現在のような細胞が確立した後に生まれたというものであるから、「細胞後の世界」の出来事になる。
これらの仮説は、そのうちのどれか一つだけが正しいというものではなく、さまざまな起源をもったウイルスがいるのかもしれない。
第22話で二本鎖DNAウイルスの巨大ウイルス(NCLDV)が初期の真核生物から進化した可能性を紹介したが、これは細胞性生物の細胞が退化したか(図29-4の②)あるいは細胞性生物のDNAが独立した(図29-4の③)ものであることを意味する。
https://kagakubar.com/virus/29.html

『ウイルスとは何か―生物か無生物か、進化から捉える本当の姿』

長谷川政美/著 中公新書 2023年発行

「ウイルス」という言葉を知らない人はいないだろう。ただし、その定義は曖昧である。目に見えない極小の存在で、ほかの生物の細胞内でしか増殖できないために、通常は生命体とはみなされない。だが、独自のゲノムを有し、突然変異を繰り返す中で、より環境に適した複製子を生成するメカニズムは、生物の進化と瓜二つだ。恐ろしい病原体か、あらゆる生命の源か――。進化生物学の最前線から、その正体に迫る。

第2章 ウイルスの起源を探る より

1 生物とウイルスの関係

細胞性生物の起源
生物はゲノムを複製し、その際に生じる突然変異に対して自然選択が働くことによって子孫を増やすような形質が進化する。そのように複製を繰り返しながら進化するものを「複製子」と呼ぶことは前章でもお話しした。

ウイルスは生物の細胞の中でしか増殖できないが、同様に自分の子孫を増すように進化する複製子であり、ひとつの祖先からさまざまな子孫が生まれる様子は、細胞をもった生物と変わらない。

先述したように、現在生物は真正細菌古細菌、真核生物のいずれかのグループに分類される。しかし、どれも細胞でできている点で共通しており、「細胞性生物」とも呼ばれる。細胞性生物のゲノムはすべてDNAであり、その情報をRNAとして転写し、それが細胞小器官であるリボソーム上でたんぱく質に翻訳される仕組みも同じである。

生物を構成する材料としては、「DNA」「RNA」そして「たんぱく質」が重要であるが、もうひとつ生物を構成する材料として重要なものに、細胞膜をつくる「脂質」がある。細胞膜のような袋がなければ、せっかくいろいろな分子を揃えてもまわりに拡散してしまって、生物としてのまとまりを保てないのである。

現在の生物はおしなべてこれら4種類の分子をもっているが、それらは進化の過程で一度に揃ったのではなく、順次加わっていったと考えられている。その中でも、最初の分子はRNAだったという説があり、「RNA世界(RNAワールド)仮説」と呼ばれている。

起源に関する3つの考え
ウイルスの起源については、3つの考えがある。ひとつの説は、ウイルスは「細胞前の世界」の名残だというものである。そのころのRNAやDNAなどの核酸が「カプシド」というたんぱく質を獲得してウイルスになったというものだ(細胞性生物の起源 図2-2の①1)。

細胞に感染する前のウイルスを「ウイルス粒子(virion)」という。ウイルス粒子は、通常DNAあるいはRNAのゲノムがカプシドで囲まれた状態にある(図2-3 画像参照)。

ウイルスが感染して細胞内に入ると、このような構造は消えてしまう。その外側が、さらに脂質二重膜の「エンベロープ」と呼ばれる外被に覆われるウイルス粒子もある。エンベロープを持たないウイルス粒子は、裸のウイルスあるいは「ヌクレオカプシド」と呼ばれる。コロナウイルスやインフルエンザウイルスにはエンベロープがあるが、ポリオウイルスやノロウイルスはこれをもたない。

2つ目は、ウイルスが細胞性生物の退化したものであるという説である。(図2-2の②)。
3つ目の説は、細胞生物のゲノムの一部あるいはRNAが独立してウイルスになったというものである。(図2-2の③)。

これらの説は、ウイルスが現在のような細胞が確立した後に生まれたというものであるから、「細胞後の世界」の出来事になる。こうした仮説は、そのうちのどれかだけが正しいというわけではなく、さまざまな起源をもったウイルスがいると考えると納得がいく。

本章の後半に、「NCLDV」と呼ばれる二本鎖DNAウイルスの巨大ウイルスが初期の真核生物から進化した可能性について詳しく触れるが、これらは巨大ウイルスが「細胞性生物の細胞が細胞が退化したものである」(図2-2の②)か、あるいは「細胞性生物のDNAが独立した」もの(図2-2の③)であることを示している。

RNAウイルスの進化
前にお話ししたように、すべての細胞性生物がリボソームRNA(rRNA)遺伝子をもっているのに対して、ウイルスにはリボソームがない。したがって、細胞性生物のような共通の遺伝子がないために、全ウイルス界の系統樹を描くことはできない。それでも、RNAウイルスに普遍的に見出される遺伝子を使うことで、RNAウイルス全体の進化を調べることができる(ただし、ここでいう「RNAウイルス」とは、ゲノム複製や遺伝子発現に際してDNAが関与しないウイルスを意味するもので、レトロウイルスは含まない)。この遺伝子を「RNA依存性RNAポリメラーゼ遺伝子(RdRp)という。RdRpは、コロナウイルスのようなRNAウイルスが、RNAゲノムを転写してRNAを合成する際に用いる。

図2-4(画像参照)は、この遺伝子を用いて、RNAウイルス全体の系統樹を描いたものである。

二本鎖RNAウイルス、プラス鎖一本鎖RNAウイルス、マイナス鎖一本鎖RNAウイルスなどの多様なRNAウイルスが1本の系統樹上で進化してきた様子が分かる。図2-4を見ると、プラス鎖一本鎖RNAウイルスが系統樹上でもっとも広く分布しており、その中から二本鎖RNAウイルスが少なくとも2回進化したことになる。プラス鎖RNAウイルスのグループ②の中から進化した「パルティティウイルス」や、植物ウイルスの「アマルガウイルス」、また、プラス鎖RNAウイルスのグループ③と共通の祖先したグループ④の二本鎖RNAウイルスである。さらに後者の二本鎖RNAウイルスの中から、マイナス鎖RNAウイルスのグループ⑤が進化した。

こうして、「インフルエンザウイルス(オルソミクソウイルス科)」、「ラッサウイルス(アレナウイルス科)」、「モルビりウイルス(パラミクソウイルス科)」、「エボラウイルスフィロウイルス科)」、「狂犬病ウイルス(ラブドウイルス科)」など多様なマイナス鎖RNAウイルスの進化が、RNAウイルス全体の進化の中で位置づけられることになった。

プラス鎖RNAウイルスでは、同じRNA分子がゲノムとしてもmRNAとしても機能するということであり、それが祖先型ウイルスだということは納得しやすい。ゲノムがそのままmRNAになって細胞内でウイルスたんぱく質が合成されるので、ウイルス粒子はゲノムとカプシドなどの構造たんぱく質しかもたなくてもよい。

それに対して、マイナス鎖RNAウイルスや二本鎖RNAウイルスは、転写や複製のための酵素たんぱく質をウイルス粒子の中に備えておく必要がある。図2-4では、そのような新たな特徴をもったRNAウイルスが、祖先型のプラス鎖RNAウイルスでから進化したことが示されている。
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2020年に、環境中の核酸分子を網羅的に調べる大規模なメタゲノム解析によって、中国揚子江の下降知覚の洋山深水港での気水中の「ウイルス叢(virome:特定の領域に存在するウイルスの総体)」の研究成果が発表された。これにより、それまでに知られていなかった4500種以上のRNAウイルスが新たに見つかった。この数はそれまでに知られていたウイルスの全種数に匹敵するものである。2018年の時点で知られていたウイルスは4853種だけたった。

ひとつの環境に存在するウイルスの種数がこれほど多いということは、思いがけない発見であった。このことはウイルスに関するわれわれの知識がいかに限られたものであるかを如実に示している。しかしそれでも、それら新たに見つかったウイルスは、すべて図2-4で示した5つの主要な系統群のいずれに属するものである。