じじぃの「カオス・地球_176_小川和也・人類滅亡2つのシナリオ・第2章・ゲノム編集・サルとヒトのキメラ」

Glowing Fingertips And Green Eyes: First-of-Its-Kind Monkey Chimera Born in China

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=5xKFOGQnMCk

First-of-Its-Kind Monkey Chimera Born in China

Human-Monkey Pandora’s Box


Human-Monkey Chimeras Reach New Low in the Culture of Death

Jun 23, 2021 TFP Student Action
Scientists at the American Salk Institute for Biological Studies help create human-monkey embryos. What is happening to our society?
●Human-Monkey Pandora’s Box
But some scientists are disturbed. Dr. Anna Smajdor, a biomedical ethics researcher at the University of East Anglia’s Norwich Medical School, worries that the experiments could cause “significant ethical and legal challenges.”
https://tfpstudentaction.org/blog/human-monkey-chimeras-reach-new-low-in-the-culture-of-death

朝日新書 人類滅亡2つのシナリオ―AIと遺伝子操作が悪用された未来

【目次】
はじめに
第1章 AIによる滅亡シナリオ

第2章 ゲノム編集による滅亡シナリオ

第3章 科学と影のメカニズム
第4章 “終末”を避けるために何ができるか

                • -

『人類滅亡2つのシナリオ―AIと遺伝子操作が悪用された未来』

小川和也/著 朝日新書 2023年発行

画期的なテクノロジーほど、暗転したときのリスクは大きい。特にAIとゲノム編集技術は強力で、取扱いを誤れば、人類に破滅をもたらす因子となりうる。「制度設計の不備」と「科学への欲望」がもたらす、人類最悪のシナリオとは。

はじめに より

人工的な知能と、生命を操るテクノロジー。いま人類は、知能と生命という、自らを形成する最も重要な2つに関する技術を手にし、熱心に育てている。

人工的な知能である「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」は、人間の知能のような動作をするコンピュータシステムを指すことが多いが、能力の著しい拡張により、定義も一定ではない。突発的な出来事にも臨機応変に対応できる能力、さらには人間を超える知能を視野に、研究開発が進む。

もう1つの技術「ゲノムテクノロジー」は、膨大な遺伝子情報「ゲノム」を解析し、意図通りに書き換える、いわば遺伝子を操る技術である。病気の治療から食糧危機まで、地球上の多くの課題の解決策になるため、AI同様に熱視線が注がれている。人間の能力を拡張したり、遺伝子操作された人間を生み出す手段にもなり得るこの技術により、2018年には世界初のゲノム編集ヘビーが誕生し、論議を呼んだ。

第2章 ゲノム編集による滅亡シナリオ――遺伝子改変の進んだポストヒューマンが、ホモ・サピエンスを淘汰する より

制度設計の不備が”技術のひとり歩き”を許す

地球環境の変化による食糧危機の解決や、いまは治療できない難病の克服など、ゲノム編集技術は未来の社会課題解決への希望を感じさせる。一方、技術が進展する力強さに対し、ルールづくり、規制、倫理観が追いつかず、技術がひとり歩きする危険性があることは否めない。

技術のひとり歩きを示す1例として、「DIYバイオ」の広がりを紹介したい。

DIYバイオとは、研究者ではない一般市民が、日曜大工のように自宅でバイオテクノロジーの実験を行う活動のことを指し、欧米、そして日本でも広がり始めている。このDIYバイオは、実験材料やデータ、成果発表のオープンなやり取りを促す「オープンサイエンス」に源流があるとされ、人々が科学に関わり、研究を遂行することを容易にし、知識格差の解消を目指す大きな文脈を背景とする。

こうした広がりはゲノム編集がもはや専門家ではない個人でも遺伝子を改変できる技術となり、気軽にバイオ実験ができる環境を整えたことの証である。ネット通販で遺伝子実験キットを購入し、自宅で遺伝子組換え植物の栽培や培養細胞を増やして人工食肉を作ることを試みるなど、まさにバイオテクノロジーDIY化した。
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米食品医薬品局(FDA)は、自己投与目的の遺伝子治療製品やDIY治療キットの販売は法に反すると表明しているが、技術の進歩にルールが後追いとなりがちで、それらのいたちごっこは延々と続く。日本では、主に遺伝子組換え生物等の使用などを対象にした規制措置で、生物多様性への悪影響の未然防止等を図ることを目的としたカルタヘナ法(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)が2004年に施行されているが、少なくともこの人体実験当時はDIYバイオまで規制が及んでいない。

新たにカバーすべき事象が発生した場合に、ルールを追いつかせるしかなが、未来の社会をどのようにデザインするかを熟議した上で世界が同意しない限り、単純に禁止するだけではルールは破られかねない。

あいにく、全世界が同じ方向に向かうこと自体容易ではない上に、2030年頃にはゲノム解析のコスト解析のコストが限りなくゼロに近づくという予測もある。ゲノムテクノロジーは、同意なき世界を横目に急速に成長し、様々な思惑や誰かの欲望を引き寄せる。

パンドラの箱を開けてしまった人類――サルとヒトのキメラ

ヒトの細胞をサルの胚に注入して異種の細胞をあわせもつ「キメラ」。
2021年4月、米ソーク研究所と中国・昆明理工大学の共同研究チームは、世界で初めてサルとヒトとの遺伝子型の細胞が混在する「キメラ」の胚を培養し、受精から最長19日間、成長したことを発表した。

カニクイザルの受精卵を分裂が並んだ胚盤胞の段階まで成長させ、ヒトのiPS細胞を加えてサルとヒトのキメラを作成した。受精から6日経った132個のカニクイザルの初期胚盤胞に25個のヒトのiPSを注入。受精から10日後、111個のサル胚にヒト幹細胞が接着して胚盤が見えるところまで成長した。19日後には3個のキメラ胚にまで減ったが、成長した胚には多くのヒト細胞が残されていたという。この研究成果は2021年4月15日、米科学誌『セル』(電子版)で発表されている。

さらに、キメラ胚のゲノム解析を行った結果、キメラ胚の細胞には特有の遺伝子発現プロファイルがあり、サル胚やヒト胚と比べ、特異に強化された細胞シグナル伝達経路なども確認され、キメラ胚の内部でヒトとサルの何らかの細胞間コミュニケーションがあるのではないかと考えられている。

研究論文の責任著者でソーク研究所のホアン・カルロス・イズピスア・ベルモント教授は「キメラの研究は、生物医学研究を前進させる上で非常に有用である」と主張している。研究チームは、こうした研究成果が、ヒトの細胞がどのように発達し統合するのか、異種の細胞が互いにどのようにコミュニケーションするのかを解明する手がかりになることを期待しているという。

本研究は培養皿上で行われ、子宮に戻したり、子が生まれたりするまでには至っていない。ベルモント教授も、部分的にサル、部分的にヒトの胚で動物を作ろうとするつもりはない、そのような種で人間の臓器を育てようとするつもりもないことを強調する。

とはいえ、ヒトに近い霊長類を使った研究であることのインパクトは大きく、サルの胚にヒト細胞を注入する研究は倫理的な懸念もあるため、米国立衛生研究所(NIH)は公的研究資金を出さないと決めている。細胞レベルでの研究は認められているものの、ヒトと他の生き物のキメラを誕生させることは、多くの国で禁止されている。

ヒトとヒト以外のキメラというパンドラの箱を開けてしまったことへの懸念や倫理的な問題を指摘する研究所が数多くいる一方で、中国・昆明理工大学の季維智教授は、ヒトと他の生物のキメラを作る理由として、将来的に他の生物の体の中で人間の臓器を作り出し、移植用の臓器不足を補う、人類のための技術であることを挙げている。

作る理由と作るべきではない理由の双方が交錯する中で、今日もさらなる研究が進んでいる。作ると作らない、それぞれにとっての動機があるため、相当の強制力をもって禁止できない限り、結局は作り続けられることになる。仮に禁止されたとしても、その動機自体が消滅しないのならば、ルールを破ってでも陰で作り続ける者が現われることを想定しておかなければならない。