じじぃの「科学・芸術_930_遺伝子DNAのすべて・デザイナー・ベイビー」

Where the Debate Over "Designer Babies" Began | Retro Report

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=449R7SFMGdQ

Stop designer babies

The ethical/social case against designer babies

Stop designer babies
People who try to frame the issue as, ‘benevolent scientists trying to cure sick babies’, or ‘permit genetic modification or children will suffer’ are either misinformed or are trying to emotionally blackmail you. This is standard practice in campaigns for legalisation of new reproductive technologies - critics must be portrayed as uncaring. Like everyone, members of this network have personal experience of genetic diseases. In fact, some of our leading supporters are geneticists. We are not trivialising the suffering involved in some genetic conditions, only insisting that the technologies to deal with these issues already exist and that new risky technologies should not be used. Please also see the note below on prenatal testing, disability and eugenics.
https://stopdesignerbabies.org/issues/the-case-against-designer-babies/

『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて』

キャット・アーニー/著、長谷川知子、桐谷知未/訳 原書房 2018年発行

ヒト2.0

デザイナー・ベイビーか、移植のための臓器か、それとも絶滅か。進化の旅はどこへ向かうのだろう?

1960年代から1970年代初頭になってようやく、科学者たちは、異なるDNA断片を切り貼りすることによって、目標とする方法で遺伝子を微調整できるツールを開発した。それは数年のうちに、遺伝子操作でヒトのインスリンを産生する細菌の作成につながり、今では世界じゅうの糖尿病患者を救うのに使われている。1981年には、まったく新しい特徴を子孫に伝えられる初の遺伝子組換えマウスがつくり出されていた。これらの技術は選択的な交配やランダムな変異の作成よりずっと精確で、特定の遺伝子を追加したり機能停止させたりして働きかたを調べられるようになったが、費用がかさみ手間と時間もかかった。
そして、2012年に飛躍的な進歩があった。スウェーデンウメオ大学所属のエマニュエル・シャルパンティエ教授と、その共同研究者でカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授は、侵入してくるウイルスDNAを切り刻む分子のはさみ(Cas9と呼ばれる)をつくって、細菌がウイルス感染にどう反応するかを観察した。ふたりは、CRISPR(クラスター化され、規則的に問題がある短い同文配列反復)と呼ばれる特別に考案されたDNAの短い断片(クリスパーRNA)を利用し、精確な変化を急速かつたやすく行うことによって、このはさみでどんなDNA配列でも標的にできるようにした。ダウドナとシャルパンティエの研究は試験管のなかのDNAを使って行われたが、マサチューセッツ工科大学のフェン・チャン教授のチームを含む他の研究所では、すぐさまCRISPR/Cas9システムを生きた細胞に適用する方法を見つけた。
それ以来、世界じゅうの研究者が通称CRISPRを使い始め、ヒトを含むありとあらゆる種類の生物の遺伝子に目標を厳密に定めた変更を作製するようになった。2016年、カリフォルニア州のソーク研究所の科学者たちは、CRISPRが、遺伝的に盲目の成体ラットの遺伝子を修復できたと発表した。別のチームは、マウスに肝障害を起こす病因的遺伝子を修復し、ヒトに同様の手法を適用するための道を開いた。同年、中国の研究者たちはその技術を使って、より効果的にがん細胞を破壊できるようにがん患者の免疫細胞を変更したことを明らかにした。
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2015年、中国の科学者たちはCRISPRを使って、IVF(対外受精)でつくられた発育不能なヒト胚の遺伝子を組換えてみせ、それが可能であることを証明した。ヒト胚の遺伝子を組み換えるのに必要なツールがあるとすれば(そして現在検査がされているとすれば)、重篤な病気(いわゆるメンデル遺伝病)を招く病因的遺伝子のあるヒト胚の修復に使うべきかどうかについても議論が続くことになる。
こういう病気を患っている人と家族にとって遺伝子組換えは、自分たちを苦しめてきた病因的遺伝子を根絶できる可能性がある。他の人々はと言えば、これを神のまねごとと考える。受け入れがたいリスクや、ヒトゲノムの永続的変更が代々受け継がれることにも絡んでいる。この分野の研究を押し進めるかどうかの決定は、学者、医師、患者、倫理学者、法律家、一般市民を含めた社会全体で行う必要があるが、世界のあらゆる国が同じ規範で合意するのは不可能かもしれない。

さらなる重大な一歩は、デザイナー・ベイビーという発想だ。

これは遺伝子工学を利用して、たとえば目の色や知能、身長などの特徴に関わる多様性のある特定の遺伝子を持つ胚をつくる。たとえそれが理論上は可能だとしても、実現は想像よりずっと厄介であることが証明されている。ほとんどの形質は、数個の遺伝子や制御スイッチだけに原因を特定できないので、どれを微調整するか見極めるのは非常にむずかしいことだろう。本書の他の章で見てきたように、個人の持つさまざまな遺伝子同士の関係と、その働きがどんな結果を招くかは、決して簡単にはとらえられない。もちろん遺伝子には役割があるが、環境と生育、そしてエビジェネティック修飾の作用も影響する。そういうわけで近い将来、真のデザイナー・ベイビーが登場することはなさそうだ。
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2006年、日本の科学者、山中伸弥教授が、同僚たちとともにすべてを変えた。彼らは、大人の細胞に4つのタンパク質(すべて転写因子)を加えるだけで、生物時計を巻き戻し、それらの細胞を幹細胞に戻せることを発見した。しかも、人工多能性幹(iPS)細胞と呼ばれるこの初期化されたすばらしい細胞は、体内のどの細胞型のなかでも成長できた。2012年、山中教授は、この画期的発見によってノーベル生理学・医学賞を受賞した(イギリスの発生生物学者ジョン・B・ガードン教授との共同受賞)。これでもう、体を修復するための幹細胞をつくるのに胚を利用する必要はなくなった。

今、世界じゅうの研究者たちは、病気の治療や化療のためにiPS細胞の能力を利用する方法を採っている。刺激的なアイデアの1つは、特別に改変した3Dプリンターを使って、個別化したiPS細胞からつくった移植提供用臓器を”印刷”することだ。この種の個別化手法はとても高価になりそうなので、科学者たちは現在、多くの人の遺伝子構成に広く合致するiPS細胞のライブラリー構築に取り組んでいる。この刺激的なアイデアを実現するのに役立つかもしれない。