じじぃの「科学・芸術_927_遺伝子DNAのすべて・男と女の性」

Colorblind - A Colorful Guide to Colorblindness (infographic) V1

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8Aaivktz8G0

Colour blindness test

『ビジュアルで見る 遺伝子・DNAのすべて』

キャット・アーニー/著、長谷川知子、桐谷知未/訳 原書房 2018年発行

XとY

まだら猫から名字まで、性染色体には見かけ以上のものがある。

妊娠6週めごろまで、子宮内で発育するヒトの男性(XY)と女性(XX)の胚のあいだに、身てわかるほどの違いはない。どちらにも、ウォルフ管とミューラー管、および生殖細胞卵子精子になる細胞)の小さなポケットからなる2組の管のような構造は、体の下部に通っている。男性がつくられる決定的瞬間は、Y染色体上の"SRY"という遺伝子のスイッチが入ったときに訪れる。SRYがコードする転写因子によって、いくつかの重要な変化を起こす一連の遺伝子のスイッチが次々に入る。
ミューラー管は壊れて、ウォルフ管が男性生殖器官の内部配管に成長し始める。次に生殖細胞のポケットが卵巣に成長し始め、男性ホルモンを産生し、さらに男性的な変化を生み出す遺伝子を、発育する胎児のなかで活性化させる。SRY遺伝子がない場合、つまりXX女性または遺伝子に欠損があるXY男性の胚では、初期経路として逆のことが起こる。ウォルフ管が壊れ、ミューラー管が女性生殖器系に成長し、女性特有の遺伝子が活性化して、生殖細胞のポケットは卵巣になる。
遺伝子性決定におけるXXとXYの染色体システムは、哺乳類でもショウジョウバエを含む他の動物でも同じだ。しかし、他の道すじもある。鳥にはWとZの性染色体があり、雄はZZ、雌はZWを持つ。虫のような小動物のなかには、雄と雌両方の生殖器を持つもの(両性個体)もいる。爬虫類では、いくつかの種の性別は、発達のきわめて重要な時期に卵が孵化する温度で決まる。魚やカタツムリなど、一生のあいだに性転換がおこる動物もいる。
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わたしたちは、各染色体を2本ずつ、つまり両親のそれぞれから1本ずつ受け継いでいる。22対の常染色体については、各対の染色体で一方にある遺伝子がすべて2コピーずつある。もう1本の染色体にある同じ遺伝子がバックアップを行い、細胞の機能を適正に保つことができる。ただし、性染色体の場合、XYであるとこの過程は働かない。男性はX染色体を1つしか持たず、Y染色体には異なる一連の遺伝子があるので、X染色体の遺伝子にある欠損が継承されれば、バックアップはできない。これはX連鎖変異と呼ばれるいくつもの病気や形質の原因になる。おそらくなかでももっとも有名なのは、血友病だろう。この疾患は、3世代にわたるヴィクトリア女王の子孫の男子を苦しめてきた。
X連鎖形質のもう1つの好例は、赤緑色盲(色覚特性)で、イギリスでは男性のおよそ12人にひとり[訳注:日本人では20人にひとり]、女性の200人にひとりに現れる。X染色体上の2つの遺伝子”OPN1LW”と”OPN1MW”のどちらかにあった変異を受け継いだのが原因だ。これらの遺伝子は目のなかにある光に敏感な色素をコードし、異なる色を区別できるようにする。
女性が変異遺伝子を1つだけ受け継いだ場合、通常の色覚になる。X染色体の一方が女性の細胞のなかで不活性化されても、残ったほうに機能的な遺伝子があり、じゅうぶんに補えるからだ。それに対して、XYの男性では、1つしかないX染色体上のどちらかの遺伝子に変異があると、遺伝子的なバックアップがないので、確実に色盲になる。色盲は、女性ではずっと少ない。変異遺伝子のあるX染色体を2本受け継がなければ、この状態にはならないからだ。
しかしながら、健常な女性がX連鎖変異の遺伝子を1つもっていれば、子どもたちに受け継がれる可能性があり、息子がそのX染色体を受け継ぐと、色盲が現れる。
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父から息子へほとんど変化なく伝わるY染色体とは違って、X染色体は世代を超えて受け継がれるあいだ、とりわけ卵子がつくられる減数分裂中に、かなり混じり合ってしまう。しかし、女性の系統をたどるには別の方法がある。ミトコンドリアDNAだ。
すべてのヒト細胞にはミトコンドリアと呼ばれる分子の”発電所”があり、細胞が生きるのに必要なエネルギーを生み出している。核内の遺伝子からの指令に頼っている細胞の他の部分とは違って、ミトコンドリアはごく小さな独自のDNA(ほんの37個の遺伝子)を持っている。卵子にはたくさんのミトコンドリアがあるが、精子は胚に1つも持ち込まないので、子どもの細胞ですべてのミトコンドリアは母親由来になる。Y染色体DNAと同じように、ミトコンドリアDNAは時とともに比較的ゆっくり変化し、女性のみが受け継いでいく。世界じゅうの人々のミトコンドリアDNAを比較した研究によれば、現代人すべてが共有するミトコンドリアDNAを分け与えたいちばん近い過去の女性の祖先(ミトコンドリアイヴ)は、15万~20万年前に生存していたと考えられる。