じじぃの「科学・地球_134_がんとは何か・遺伝子変異の例」

Japanese: タイトル: がん患者の場合、遺伝子変異が重要です。

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=ZAArTwYssec

細胞ががん化する仕組み:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]

2.多段階発がん

がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に2個から10個程度の傷がつくことにより、発生します。これらの遺伝子の傷は一度に誘発されるわけではなく、長い間に徐々に誘発されるということもわかっています。正常からがんに向かってだんだんと進むことから、「多段階発がん」といわれています。
傷がつく遺伝子の種類として、細胞を増殖させるアクセルの役割をする遺伝子が、必要ではないときにも踏まれたままになるような場合(がん遺伝子の活性化)と、細胞増殖を停止させるブレーキとなる遺伝子がかからなくなる場合(がん抑制遺伝子の不活化)があることもわかっています。
https://ganjoho.jp/public/knowledge/basic/cancerous_change.html

「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで

編:国立がん研究センター研究所
いまや日本人の2人に1人が一生に一度はがんにかかり、年間100万人以上が新たにがんを発症する時代。
高齢化に伴い、今後も患者は増加すると予測されるが、現時点ではがんを根治する治療法は見つかっていない。しかし、ゲノム医療の急速な進展で、「がん根治」の手がかりが見えてきた。世界トップレベルの研究者たちが語ったがん研究の最前線
第1章 がんとは何か?
第2章 どうして生じるか?
第3章 がんがしぶとく生き残る術
第4章 がんと老化の複雑な関係
第5章 再発と転移
第6章 がんを見つける、見極める
第7章 予防できるのか?
第8章 ゲノムが拓く新しいがん医療

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『「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで』

国立がん研究センター研究所/編 ブルーバックス 2018年発行

第2章 どうして生じるか? より

遺伝子変異で何が起こるのか

前の章で、がんは、がん遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が起こることで発生することを述べました。これをもう少し詳しくみていきましょう。
私たちの細胞の核にはDNAが収納されています。アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基が並んだ高分子です。DNAの塩基配列が転写されてmRNA(メッセンジャーRNA)がつくられ、さらにmRNAの塩基配列が翻訳されてタンパク質がつくられます。これをセントラルドグマといいます。
遺伝子のDNAは、塩基3個ごとに1個のアミノ酸を指定しています。3個の塩基の並び方(これをコドンといい、64通りあります)が、20種類のアミノ酸のうちのどれかと対応しているのです。翻訳の際には、この指定に従って選ばれたアミノ酸が順番につながっていき、タンパク質がつくられます。
遺伝子の変異とは、遺伝子の塩基配列のどこかが本来とは違うものになったり、欠けたり、余分な塩基が挿入されたりすることです。染色体欠失といって、染色体のうち、遺伝子が含まれる部分が大きく失われてしまう場合もあります。変異のなかでも。よくみられるのは、1個の塩基が別の塩基に置き換わってしまう「点変異(1塩基置換)」です。点変異が起こると、コドンが変わり、コドンで指定されるアミノ酸の種類も変わってしまいます(コドンが変わってもアミノ酸の種類が変らないこともあります)。その結果、アミノ酸がつながってできるタンパク質の形や機能も変わってしまいます。がん遺伝子に点変異が起こると、タンパク質の機能が変化し、増殖のシグナルを送り続けるようになる場合があります。第1章で説明した、精鋭部隊のなかの”うそつき”はこういうしくみでできています。
KRAS(ケーラス)というがん遺伝子を例にとって説明しましょう。KRAS遺伝子は、大腸がん、すい臓がん、肺がん、胆管がんなどで変異している割合の高いがん遺伝子です。
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この遺伝子は何通りかの点変異を起こしますが、がんでよくみられるのは、12番目のコドンの真ん中のGがAかTに変わる点変異です。正常なコドンはグリシンを指定しますが、GがAに変わるとアスパラギン酸を、Tに変わるとバリンを指定します。点変異を起こした遺伝子をもとにつくられたタンパク質は、増殖シグナルを送り続け、やがて、がんが発生するのです。
ここでは、遺伝子の点変異を取り上げましたが、ほかの変異ががん遺伝子やがん抑制遺伝子に起こった場合も、タンパク質の機能が変わったり、タンパク質自体がつくられなくなったりして、がんが発生することが知られています。

がんに共通する遺伝子変異はあるか

がんはひとつの遺伝子の変異で発生することは少なく、いくつかの遺伝子の変異が積み重なって発生することを繰り返し述べてきました。しかし、その「いくつか」とは、何個なのでしょうか? そして、そのいくつかは、どんながんにも共通なのでしょうか? それとも、臓器や個人によって違うのでしょうか?
がんのゲノム解析が進んで、がん細胞では30~100個の遺伝子変異が起こっていることがわかってきました。しかし、それらの変異ががんに関係するかどうかは、遺伝子によって違いますから30~100個のすべてが「いくつか」にあたるわけではありません。
さまざまな遺伝子のなかでも、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異はがんの発生・進展に直接かかわっています。このような遺伝子を「ドライバー遺伝子」と呼びます。一方、がんの発生過程では、ゲノム変異が起こりやすい状態になっているため、がんの発生には無関係な遺伝子にもランダムに変異が起こります。このような遺伝子を「パッセンジャー遺伝子」と呼びます。ドライバー(運転手)はがんに向かって走り、パッセンジャー(乗客)はそんな気はないのに車に乗っているというイメージです。
このようなドライバー遺伝子とパッセンジャー遺伝子の概念は、以前からあったのですが、たくさんの症例についてゲノム解析を行い、各遺伝子の変異の頻度を統計的に解析することで、両者を区別できるようになりました。ただし、統計的にドライバー遺伝子だといえても、その遺伝子の機能がわかって4いない場合もあります。また、統計の性質から、解析する症例の数が増えるとドライバー遺伝子と判定されるものが増える傾向にあります。
国立がん研究センターの肝細胞がんの症例の解析では、統計的に15個の遺伝子がドライバー遺伝子であるとみなされました。しかし、この結果から、「いくつか」が15個だというのは早計です。15個の遺伝子が、すべての症例で変異を起こしているわけではないからです。
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どの症例でも、変異している5つの遺伝子が同じであれば、治療法もシンプルになりますが、ひとりひとり違うわけですから、治療にも個別性が要求されることになります。がんの性質のすべてがゲノムで決まるわけではありませんが、がんの悪性度、転移のしやすい、がん組織の「顔つき」などの違いも、ゲノムの変異がひとりひとり違うことがひとつの原因だろうと考えられます。