じじぃの「科学・芸術_717_ゲノム合成計画(GP-Write)」

DNA解読にかかるコストの経年変化

ヒトのゲノムはつくれるのか? 東邦大学
2016年6月、「The Genome Project-Write」なる壮大な計画が科学雑誌「Science」に発表されました(下参照)。
新聞やネットニュースなどでも取り上げられたので、生物・生命科学に興味をもっている高校生は目にしたかもしれません。この計画の最終目的は、“ヒトゲノムの(完全)人工合成とそれを細胞に導入して人工ゲノムをもつ細胞を作る”というものです。ハリウッド映画のジュラシックパークほどではないにしろ、かなりインパクトがありますね。本当に可能なのでしょうか?ここでは、そこに至るまでの歴史的・技術的背景を解説しながら、この計画がもたらす未来と問題について考えてみることにします。
https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/0801.html
又吉直樹のヘウレーカ! スペシャル「“生命”にきまりはありますか?」 2018年12月26日 NHK Eテレ
【出演】又吉直樹 【ゲスト】吉村崇 【解説】井田茂(東京工業大学地球生命研究所教授)、塚谷裕一(東京大学大学院教授)、玉城絵美(早稲田大学准教授)
南国特有の植物が生い茂る、遥かなる年月がはぐくんだ鍾乳洞。ここを舞台に5人の生命観がぶつかり合う!
これまで生命とは“動くもの”と考えていた吉村崇は大混乱!?地球外生命とはどんなカタチをしているの?もし僕たちの意識をすべて移し替えることができたら、それは生命と呼べるのか?そして今、ヒトよりも優れた生命が作られ始めているという衝撃の研究報告。議論の果てに又吉直樹が考えた、理想的な生命とは?
塚谷裕一、「あるグループの人たちが考えているのは、私たちが持っている人の遺伝子は無駄が多いんですね。しかもいろんなところにミスがあります。設計ミスがあるので設計ミスを取り除いたスーパーヒトゲノムというのを作って、人を作り直した方がいいんじゃないかという計画が始まっています」
http://www4.nhk.or.jp/heureka/x/2018-12-26/31/27374/1426028/
『日経テクノロジー展望2019 世界をつなぐ100の技術』 日経BP社/編 日経BP社 2018年発行
合成生物学 生き物を作って仕組みを理解する より
合成生物学の研究成果として有名なのは、カリフォルニア大州サンディエゴにあるSynthetic Genomics社の創設者であるクレイグ・ベンター氏らの研究グループが2010年5月にサイエンス誌に報告したものだ。1000塩基程度の長さのDNA断片を科学的に合成し、それらを酵母の中で連結させていき、最終的に108万塩基対のゲノムを持つMycoplasma Mycoidesという微生物のゲノムと同じ配列にして、別の種類の微生物に移植したところ、DNAが働いてMycoplasma Mycoidesが作るべき蛋白質を作り始め、細胞が分裂して増殖することを確認した。世界で時初めて人工的に作り出された生命体と言っていいだろう。
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GP-Write ゲノム合成の国際プロジェクトが進む
2016年6月2日、サイエンス誌オンライン版に「The Human Genome Project-Write(ヒトゲノム合成計画)」と題する研究プロジェクトが提案された。同プロジェクトはゲノムの設計技術や合成技術、モデル細胞株の評価技術を用いて、ヒト細胞を含む様々な生物の細胞を1から構築し、遺伝子の違いが実際の生物にどのような違いとなって表せるのかを調べるなど、生物をより深く理解しようという取り組みだ。
writeとあるようにゲノムを「書く(合成する)」ことに重点を置いている。これに対し、2004年に終了した国際プロジェクト「Thw Human Genome Project(ヒトゲノム計画)」はゲノムを「読む」ことに重点を置き、次世代シーケンサー(NGS)に代表されるシーケンス技術の質向上とコスト低減を成し遂げた。
The Human Genome Project-Writeについては発表当初、ヒトの遺伝子改変を連想させるといった批判が相次いだこともあり、研究者らは「The Genome Project-Write(GP-Write)」と名称を変更した。GP-Writeには、世界15の国と地域から、企業を含む100以上の組織、おおよそ200人の科学者が参加を表明している。最終目標は30億塩基対からなるヒトゲノムすべてを合成することだ。
2018年5月に米マサチューセッツボストンで開いた会合で、ヒトゲノムを部分的に書き換えることによって、ウイルスに感染しないヒト由来の培養細胞を開発するという具体的な目標を定めた。ウイルスに感染しない培養細胞を使えば、ウイルス汚染の危険を避けながら、抗体医薬や蛋白質医薬、ワクチンなどを製造したり、再生医療に利用したりできる。現在はウイルス汚染の危険性がないことを確認するために多額のコストを掛けて試験が行われているが、その必要が無くなる。