じじぃの「科学・芸術_466_人工生命体(ミニマル・セル)」

Synthetic Life Has Been Streamlined And Is Ready To Be Put To Work - Newsy 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=saaWTiQie0M
人工生命体 (ミニマル・セル)

National Center for Microscopy and Imaging Research NCMIR
●March 2016 La Jolla, CA
“Craig Venter is arguably one of today’s most important scientists,” says Deerinck, “and it is always a pleasure to work with him and his talented team of researchers. One of the unexpected findings in imaging JCVI-syn3.0 was its polymorphic nature: We found that genomes can be identical genetically but the bacteria can have vastly different sizes.”
https://ncmir.ucsd.edu/press/in-the-news?news=54
『合成生物学の衝撃』須田桃子 2018年発行 文藝春秋BOOKS
2000年代初頭、マサチューセッツ工科大学に集まった科学者たちは、生物学を工学化することを思いつく。
コンピュータ上でDNAを設計し、その生物を実際につくってみるのだ。
「合成生物学」と呼ばれるようになるその学問はビル・ゲイツをして「もっともホット」な分野と呼ばれるようになる。
企業が血眼になり、軍の研究機関が莫大な予算を投じる。
そうした中、孤高の天才科学者が20年かけてついに人工生命体を作ることに成功する。
ヒトまでも人工的につくる時代が来るのだろうか?
●第9章 そして人工生命体は誕生した
ヒトゲノムを公的チームよりも早く読み切った孤高の科学者クレイグ・ベンターは「ヒトゲノム合成計画」を嗤う。
「彼らは細胞ひとつすらくれないではないか」。そう、ベンターだけが、人工の生命体「ミニマル・セル」の作成に20年越しで成功したのだ。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163908243
『合成生物学の衝撃』 須田桃子/著 文藝春秋 2018年発行
そして人工生命体は誕生した より
ミニマル・セルの誕生は、二重の意味で科学コミュニティに衝撃を与えた。1つ目は、「生命とは何か」という生物学の究極の問いに答えるうえで大きな足がかりとなる「最小の細胞」が、合成生物学のによる新規の手法によって生み出されたことだ。
研究チームは、コンピュータ上でゲノムを設計し、次にゲノムというデジタルな設計図に基づいてDNAを作製し、できたDNAが生きた細胞の中で実際に機能するかを確かめた。この「設計ー作成ーテスト」のサイクルを繰り返すことで、1つの解にたどり着いた。微生物サイズの完全なDNAを合成したり、それを細胞に移植したりする高度な技術を持つベンター研究所だからできたことではあるが、工学的発想に基づく合成生物学のコンセプトが、これまでにない高いレベルで実証されたと言える。
もう1つの衝撃は、ミニマル・セルのゲノムを構成する遺伝子の意外な内訳だった。
473個の遺伝子のうち324個は、さまざまなタンパク質を作るほか、細胞内の代謝や細胞膜の構造や機能、ゲノム情報の保存などを司る機能を持っていた。ところが、32%を占める残りの149個は、全くその機能が知られていない遺伝子だったのだ。しかもそれらの遺伝子の中には、ヒトを含む他の多くの種のゲノムにも共通して存在するものだった。
この事実は、チームのメンバーにも驚きをもたらした。グラスは楽しげに語る。「私たちは機能不明の遺伝子があるだろうということは知っていたが、これほど多いとは予期していなかった。これはすばらしいことだ。科学の世界では、私たちは予想していなかったことを発見するために生きているのだから」
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将来、改良版ミニマル・セルができ、そのすべての遺伝子の機能や細胞の仕組みが解き明かされたとき、人類の生命への理解は一気に深化するだろう。そして、その知識はおそらく、コンピュータ上で新たな生物のゲノムを設計するための土台となる。科学者たちの、新たな生物を創り出す試みは加速していくだろう。医薬品や化粧品、バイオ燃料の原料を産出する微生物や藻類、移植用のヒトの臓器を持つ動物、砂漠でも育てられる農作物――。これらの中にはすでに実現しているものもあるが、その生産性はますます高まり、作ることのできるものの種類も増えていくに違いない。これまでにない優れた素材も登場するだろう。
一部の合成生物学者達は、情報革命に続く次の産業構造革命が合成生物学によってもたらされると予言する。私たちは今まさに、その入り口に立っているのかもしれない。