じじぃの「カオス・地球_133_2050年の世界・序章」

Top 15 Economies by Nominal GDP in 2050

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=NDaF7PcSUY4


見える未来と見えない未来2050年

2013年12月4日 中小企業家同友会全国協議会
今年12月に設立50年となる日本経済研究センターが、2050年長期経済予測を提言しています。
また、昨年から今年にかけて2050年の予測が多く出されています。次年の2014年を展望する前に長期的予測から未来の方向を見ることも大事です。いくつか2050年の予測を紹介します。
https://www.doyu.jp/topics/20131204-092805

2050年の世界――見えない未来の考え方

【目次】

序章 2020年からの旅

第1章 わたしたちがいま生きている世界
第2章 人口動態――老いる世界と若い世界
第3章 資源と環境――世界経済の脱炭素化
第4章 貿易と金融――グローバル化は方向転換する
第5章 テクノロジーは進歩しつづける
第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか
第7章 アメリカ大陸
第8章 ヨーロッパ
第9章 アジア
第10章 アフリカ・中東
第11章 オーストラリア、ニュージーランド、太平洋
第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ――不安、希望、判断

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『2050年の世界――見えない未来の考え方』

ヘイミシュ・マクレイ/著、遠藤真美/訳 日経BP 2023年発行

序章 2020年からの旅 より

政治、宗教、紛争

経済力と政治力は分かちがたく結びついているものの、過去半世紀に学んできたように、つながりは弱い。言うまでもない理由から日本もドイツも軍事力を再建しようとはしていないが、海外に経済帝国を築こうとしたこともない。日本やドイツの企業が海外に工場をつくっているのは、商業上必要だからである。ドイツ車をアメリカや中国でつくるのは、アメリカや中国の市場で販売できるようにするためであって、より大きな国益のためではない。これに対し、ロシアは世界覇権の獲得を明確にめざしているが、弱い経済が足を引っ張っている。
本書の英語版が印刷に回された時点で、ロシアによる理不尽なウクライナ侵攻がはじまった。この行動がどのような結末を迎えるかについて、ここでなんらかの判断を示すことはできないが、ロシアがこの先、さらに弱体化するのはまちがいなさそうだ。

逆に中国は、ロシアよりも周到に、かつはるかに効果的に、経済の超大国としてだけでなく、商業と政治の超大国としても、世界での存在感を高めてきている。中国がアフリカで道路をつくるのは、鉱物や農産物を確保するためだけでなく、政治的な影響力を否応なく拡大させるためでもあるのだ。当然ながら、中国経済のサクセスストーリーは、ほかの発展途上国にとって、中国の政治システムは優れているという明確なメッセージとなる。と同時に、西側の民主主義国家や非政府組織(NGO)の支援プログラムよりも効果的で介入が少ない経済支援を中国は行っているという、暗黙のメッセージにもなる。もちろん批判もある。たとえば、進出先には中国人の労働者を連れてきて、現地の労働力を使わない。それでも、サハラ以南アフリカを自動車で走ると、中国が提供している道路などのインフラの質の高さに、だれもが感服するだろう。

中国の西側への投資も、「テクノロジーや天然資源を手に入れる」という戦略に沿って進められている。こうした投資は最初こそ歓迎されたが、アメリカでもヨーロッパでも、監視が厳しくなっている。中国の投資を受け入れるメリットが西側にないということもあるが、もっと広い意味で、西側の開放度の高さが悪用されているのではないかという疑いの目が向けられるようになり、不安感さえ生まれているからでもある。この緊張は消えないだろう。世界経済における中国の力は高まっており、うまく対処しなければいけなくなる。

経済関係と政治関係は連動しているというのが、本書の中心的なテーマの1つである。第二次世界大戦以降、欧米諸国とロシアのあいだの政治的な緊張がつづき、世界に大きな影を落としている。
残念ながら、状況は変わらないだろう。両者の背景に、状況が変わる理由がないのだ。ロシアとヨーロッパはもともと経済的な結びつきが強く、アメリカはロシアとの経済戦争に勝利している。中国については、協調的な関係が崩れるシナリオは簡単に描ける。中国と東アジアの近隣諸国との関係は複雑である。南シナ海を支配したいという野心には海事法の壁が立はだかり、この先何世代にもわたって火種になるだろう。20世紀の頭にラテンアメリカアメリカの力に屈したように、日本を除く東アジア全体が、中国の影響下に置かれるのだろうか。アメリカははたしてそれを受け入れのか。

同じような圧力は、中国とインドのあいだでもつづくだろう。

旅のつぎのステージ

「世界の現在地」では、世界がいまどこにいるかを示す。それが本書の出発点になる。まず、先進世界はいまも幅広い分野で卓越した存在であることを明らかにし、共通点はもちろん、地域ごとの相違点も見ていく。
アメリカはトランプ政権時代の混乱が残した傷跡がいまも癒えておらず、数々の分断も解消されていないが、その強さについては多くのアメリカ市民よりも楽観している。また2つの新興大国、中国とインドを筆頭に、新興世界にも目を向ける。中所得国と低所得国は実に多種多様であり、新興世界という概念ではひと括りにできない。いままさに「新興」しているが、すでに多くが先進国のカテゴリーに移行している世界のスナップショットとして、現在地を切り取っていく。しかし、前進するペースは国によってちがってくる。国民国家世界にとっての課題は、各国のリーダーがそれぞれの属する地域の長所を最大限に活かし、短所を克服することだ。それは先進国と新興国の市民にとっての課題でもある。

その後、「変化をもたらす5つの力」を見ていく。1つ目の力は人口動態である。人口動態はきわめて重要で、経済成長の潜在力はもちろん、社会の”空気感”、とくに活力があるかないかを大きく左右する。2つ目の力は、資源と環境への圧力、とりわけ気候変動という、とてつもなく大きな課題だ。そのつぎに国際貿易と国際金融の性質が変化していることを見ていき、グローバル化がこれからもわたしたち全員の生活を形づくるのかどうかについて考える。そしてもちろんテクノロジーにも目を向け、わたしたちの生活を大きく変える革新的な技術がどこからやってくるのか探っていく。この部の最期の章では、政府の役割に対する考え方、社会の統治のあり方がどう変化していくかを見ていく。

そして、「2050年の世界はどうなっているのか」では、いまから1世代後に世界がどのようになっているかについて、わたしの考えを示し、そうした5つの力が第1章で素描した国と地域をどう形づくっていくかを追う。ここでは、伝統的な地理区分であるアメリカ大陸、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、オセアニアという5つの州を枠組みとして使う。ただし、この構造には変則的なところもある。たとえば、ロシアの国土の大半はアジアにあるが、人口の大多数はヨーロッパに住んでいる。また、ほかよりも簡単に扱うざるをえない地域もある(悪くすると簡単に扱いすぎているかもしれない)。それについてはご容赦願いたい。わたしの考えに気分を害する読者もいるだろうし、予測が大きく外れることもあるだろう。だが、未来を覗こうとしている人は、だれもが旅をしている。新しいエビデンスが出てくれば、考え方は変わる。わたしたちがたどっている地図を書き換えなければいけないからだ。地図がまったくないよりも、地図を修正しなふがら進んでいくほうがずっといい。

そして最後の部「本書の大きな考え方」で、すべての情報、予測、判断、不安、希望を1つにまとめていく。そのなかでわたしがとくに不安に思っている10の項目を示し、本書から浮かび上がってきた考え方のなかでも特に大きいと思われるものを10項目あげる。

しかし、そのすべてに通底していることがある。それは真実と言っていいだろう。それを最もよく表しているのが、バラク・オバマの言葉だ。そこにはハンス・ロスリングとスティーブン・ビンカーの考え方が反映されている。オバマはそれを何回か繰り返し語っているが、わたしがいちばん好きなのは、2016年9月にラオスの若者たちに向けたスピーチである。鍵となるメッセージを引用しよう。

  もしもあなたが生まれてくる時代を選べるとしたら、ただし、自分がどんな人間になるか、どの国に生まれるか、男として生まれるか女として生まれるか、どの宗教を信じるようになる かは前もってわからず、人類の歴史のなかで生まれてくるのにいちばんよい時代だけを選べるとしたら、それはいまこのときだろう。これほど世界が健康なときはない。 これほど豊かなときも、これほど教育が行き渡っているときも、いまより暴力が少ない寛容なときもない。

それを忘れてしまうのは、恐ろしい悲劇と不正があるせいだという。それでも若者がそうした悲劇と不正に立ち向かうチャンスはかつてなく広がっていると、オバマは訴えた。この本は、ウクライナで戦争が激しさを増し、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るい、国際社会に緊張が広がるなかで書き終えている。この長い歴史の文脈に照らして世界を見ることが、いまこそ重要になる。