じじぃの「カオス・地球_148_2050年の世界・直接民主主義・ポピュリズム」

[NHKスペシャル] 岐路に立つ“民主主義” 権威主義拡大はなぜ | 混迷の世紀シリーズ

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=ncmfGSBlS_Q


民主主義は世界の王道か?対ロシア国連決議から考える

2022.04.08 スペクティ
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから約1か月半が経過し、ウクライナ防相がロシア軍による民間人の虐殺があったことを発表するなど、事態は好転していません。
そんななか、国連総会は4月7日に緊急特別会合を開催し、国連人権理事会におけるロシアのメンバー資格を停止する決議案を採択しました。

決議案に対しては支持が93か国、反対が24か国、そして58か国が棄権しました。この数字を見て、支持をしなかった国が82か国もあったことに驚いた方も多かったのではないでしょうか。
https://spectee.co.jp/report/democracy_in_the_world_un/

2050年の世界――見えない未来の考え方

【目次】
序章 2020年からの旅
第1章 わたしたちがいま生きている世界
第2章 人口動態――老いる世界と若い世界
第3章 資源と環境――世界経済の脱炭素化
第4章 貿易と金融――グローバル化は方向転換する
第5章 テクノロジーは進歩しつづける

第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか

第7章 アメリカ大陸
第8章 ヨーロッパ
第9章 アジア
第10章 アフリカ・中東
第11章 オーストラリア、ニュージーランド、太平洋
第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ――不安、希望、判断

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『2050年の世界――見えない未来の考え方』

ヘイミシュ・マクレイ/著、遠藤真美/訳 日経BP 2023年発行

第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか より

代表制民主主義はなぜ支持されなくなっているのか

1990年代、ソ連が崩壊した後には、なんらかの形の自由民主主義が世界の統治システムの主流になるだろうと考えられたが、その安易な前提は崩れている。
共産主義の中国は、一党支配による統制を強めながら、経済の自由化を進めている。ソビエト崩壊後のロシアの野蛮な民主主義は文字どおり野蛮になっている。インドやロシアでは有権者過半数が独裁的な政府をを選んでおり、民主主義が発しているその明確なシグナルにさえ、西側のリベラル・エリートは衝撃を受けている。
そのエリートたちにとっては、ヨーロッパの一部の国とアメリカの有権者も「誤った」答えを示している。

なかには前もって完全に予測されていたこともある。1990年代はじめには、アメリカでリベラル・エリートに対するポピュリストの反乱がなんらかの形で起きるだろうと考えられていた。実際にわたしは前著『2020年 地球規模経済の時代』でそう予測している。また、イギリスはおそらくEUを抜けるだろうとも考えられていたし、それも本のなかで指摘している。だが、中国がこれほど発展するとは考えられていなかった。中国が経済を成功させて、増加する中間層の欲求を満たすのは、中央集権体制の下では厳しいだろうと思われた。しかしこれまでのところ、うまくいっている。それはとても大きな成果ではあるものの、民主主義の下で暮らさなくともそれなりに豊かになれるチャンスは十分にあるというメッセージともなる。一部の民主主義国はほかの国よりも経済的に成功しているが、ソ連、東ヨーロッパの衛星国、毛沢東時代の中国が実践した共産主義の下で国民の大多数が貧しい生活を強いられたことは広く知れわたっていた。中国の台頭はそれを一変させた。

そしていま、代表制民主主義は多方面からさまざまな攻撃にさらされている。左派からも右派からも、国内からも国外からも、支持派からも反対派からも、直接民主主義を支持する人からも、「強い指導者」を求める人からも、という状況で数え上げたらきりがない。こうした課題の場合、攻撃側のイデオロギーと切り離して、なんらかの視点から全体を見なければいけないのだが、そこがむずかしい。ここでは2つの課題を素描して、それを試みる。

第1に、2008/09年に金融危機が発生し、その後に景気後退に突入して以降、先進世界の大半は精彩を欠いている。公式統計を見るかぎり、経済状況がそれなりにいい国ですらGDP成長率はかなり低く、生産性はほとんど上がらず、所得の中央値は頭打ちになり、少なくともヨーロッパの大部分は、失業率は高止まりし、若者が仕事につけない状況がつづいていた。 (略)

民主主義の市場経済システムを熱烈に支持する人は、すべての先進国の人口動態が逆風になっていることを認めなければいけない。前に述べたように、労働力が横ばいか減少するなかで、増え続ける年金受給者を支えようとしたら、増税は避けられなくなり、そのぶん現役世代の実質賃金は押し下げられる。21世紀になってからその逆風は少しずつ、だが確実に強まっている。この先もどんどん強くなっていくだろう。

2つ目の課題は、経済や財政の数学的な側面よりも、こうした圧力に対するに対する政治家の反応に関連している。2021年の時点では、ポピュリズム革命が身近すぎて、歴史の文脈で語ることはまだできていない。しかしおそらく2030年代には収束する。そのときにはなんと言われるのか。 (略)

統治と社会の変化

前に見たように、世界のGDPに占めるアメリカの割合はこの先ほぼまちがいなく下がる。そうすると、ほかの国の考え方が世の中を動かすようになると考えるべきだろう。だが、それはどこの国になるのだろうか。

そこが問題である。アメリカにかわる選択肢は思い浮かばない。中国の統治システムは一部の新興国には魅力があるだろうが、先進国に広くとりいれられるとは考えにくい。日本の「ジャストインタイム」方式が1980年代以降に西側の自動車メーカーに革命を起こしたように、中国のシステムの一部が世界中に広がるかもしれない。中国で事業を展開したり投資したりしようと考えている会社は、当然、中国国内の基準にしたがうだろう。しかし、それが一般的なモデルになることはない。

ヨーロッパは規制のグローバルリーダーになるという野心をもっており、規制やルールづくりで世界の先頭を走っているのはまちがいない。ところが数字はかんばしくない。EUが世界生産に占める割合は2050年には約12%になる見通しである。ヨーロッパの基準を世界標準にするだけの力はない。ここではEUは2050年にまだ存在しているとも想定しているが、この後で述べるように、存在している可能性は高いものの、断言はできない。北ヨーロッパの大半の国には全国民を対象した包括的な福祉システムがあるなど、ヨーロッパ社会には世界がうらやむような点がいくつもある。そのため、ヨーロッパのシステムを構成する要素がほかの国でとりいれられることもあるだろう。この点では、ヨーロッパはアメリカの政策にこれまで以上に影響を与えるようになるかもしれない。中国は人口バランスが高齢化していて、ヨーロッパがどのようにして高齢者をケアしようとしているのかに関心を向けるだろう。しかし、ヨーロッパ経済の相対的な地位は下がっており、影響力は限られてくる。

インドはいずれかならず国際統治になんらかの貢献をするようになる。

この先、世界で最も人口が多い国、世界3位の経済大国、そしておそらくすべての大国のなかで最も急速に成長している国として、インドの影響力は高まるだろう。ほかの国、とくにアフリカの国々は、インドのやり方を真似しようとするはずだ。だが、中国と同様に、とりいれたいところだけをとりいれることになりそうだ。したがって、インドのビジネス慣行や制度の一部の側面は広まるが、それがなにになるかは、いまの時点ではわからない。ただ、インドの慣行や社会のトレンドがグローバルモデルとなって、先進国にとりいれられるとは考えにくい。ハリウッドはボリウッドに影響を与えつづけるだろうが、その逆はないだろう。