じじぃの「カオス・地球_155_2050年の世界・終章・この先の世界」

Winston Churchill - Britain’s Greatest Prime Minister Documentary

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=hoULXtnLpNg


2050年の世界――見えない未来の考え方

【目次】
序章 2020年からの旅
第1章 わたしたちがいま生きている世界
第2章 人口動態――老いる世界と若い世界
第3章 資源と環境――世界経済の脱炭素化
第4章 貿易と金融――グローバル化は方向転換する
第5章 テクノロジーは進歩しつづける
第6章 政府、そして統治はどう変わっていくのか
第7章 アメリカ大陸
第8章 ヨーロッパ
第9章 アジア
第10章 アフリカ・中東
第11章 オーストラリア、ニュージーランド、太平洋

第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ――不安、希望、判断

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『2050年の世界――見えない未来の考え方』

ヘイミシュ・マクレイ/著、遠藤真美/訳 日経BP 2023年発行

第12章 この先の世界を形づくる大きなテーマ――不安、希望、判断 より

10の不安

1 アメリカの政治体制が崩れる

アメリカは3つの起きな課題に直面している。
まず、富が平等に行き渡り、公平な機会が与えられるようにしなければいけない。そして、世界最大の経済圏から中国につぐ世界2位の経済圏に移行しなければいけない。さらに世界ではじめてほんとうの意味での多人種社会になることを受け入れ、むしろ歓迎しなければいけない。

こうした問題はずっとくすぶっていたが、ドナルド・トランプが大統領に就任すると、不満が一気に爆発した。トランプは幅広い層から支持されたが、共通するテーマがあるとしたら、リベラル・エリートには機会が与えられているのに自分たちにはないと、支持者の多くが感じていたことだ。
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グローバルリーダーはなによりも世界の手本にならなければならない。アメリカは21世紀いっぱい、世界最大の軍事国でありつづけるが、どんな国であるかと同じくらい、なにをするかが重要になり、アメリカはハードウェアを裏づけとししたソフトパワーを発揮しつづける。もしもアメリカが自信を失ったら、世界はいまよりはるかに危険な場所になるだろう。

2 中国、インド、アメリカの関係が悪化する。

アメリカと中国のあいだの緊張が高まるのは避けられないだろう。
中国がアメリカを抜いて世界最大の経済国になる瞬間の前後はとくにそうなる。本書の予測が正しければ、中国は人口が高齢化するにつれて、国内の情勢が落ち着いていき、対外政策での攻撃的な姿勢も見直される。だが、そこにいたるまでの難局をうまく乗り越えなければならず、2030年代か2040年代になんらかの形で政治体制が転換され、大きな混乱が生まれるだろう。インドの台頭も受け入れなければならない。インドは21世紀後半を通じて躍進しつづける見通しだ。発火点は言うまでもない。中国による台湾の軍事的併合、インドとの国境紛争、南シナ海情勢などである。この移行を穏当に秩序立った形で管理することは、アメリカと中国の両方にとって、ひいては世界全体にとって、非常に大きな利益になるため、米中が衝突する事態はさすがに考えにくい。それでも誤算は生じるし、破滅へとつづくシナリオはすぐに思い浮かぶ。

3 ロシアが強く出過ぎる

ロシアがなんらかの暴走を起こし、自国と周辺国にダメージを与える可能性がある。もうそうなっているかもしれない。ロシアによるウクライナ侵攻をそうとらえることもできる。

4 サハラ以南アフリカが貧困から抜け出せない

アフリカと中央に関する章で示したように、今後についてはどちらかといえば楽観しているが、それはまちがっているかもしれない。アフリカ大陸は、内紛、人口の増加、環境悪化の影響を受けつづける。だが全体としては、サハラ以南アフリカ諸国の統治が改善し、分断に慎重に対処し、国民の福祉は向上する可能性のほうが高い。なにしろアフリカは世界でも屈指の起業家精神にあふれた大陸だ。それが主流の予測である。

5 宗教紛争が勃発する

宗教については、この本では広く論じていない。だからといって、信仰の大切さを軽く見ているわけではないし、いまわたしたちが生きている世界を形づくるうえで、宗教が何世紀にもわたって影響をおよぼしてきたことを重要視していないわけでもない。これは経済学のバックグラウンドをもつ人間が大いに貢献できる領域ではないというだけのある。それでも、世界三大宗教の信者のあいだにあるむずかしい関係は素通りできない。
世界にはキリスト教徒が25億人、イスラム教徒が18億人、ヒンドゥー教徒が11億人いる。それぞれ異なる宗教が多数派を占める地域の境界には、どうしても発火点ができる。インドとパキスタンがそうだし、サハラ砂漠の南端もそうだ。移民、とくにヨーロッパへの移民が新たな緊張を生み出しているほか、イスラエル周辺諸国の関係は世界でもとくに大きな論争を呼んでいる。

6 環境の悪化と気候変動を元に戻せなくなる

環境の悪化に取り組む世界の能力についても前向きにとらえているが、この結論がまちがっている可能性もある。

本書では、地球を救うテクノロジーの開発競争が進み、人類が環境に与えているダメージを遅らせて、最終的には元に戻す方法について理解が深まると予測している。
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もう1つは、わたしたちがなにか大きなものを見落としているケースである。
気候変動はあるレベルを超えると変化が一気に進むとされており、世界がその危険な転換点に達しないようにわたしたちは対策をとることができる。そうだとしても、膨大な研究がなされているのだから地球のことはよくわかっている。わたしたちの想像を超えるなにかが起きてショックを受けるようなことはないと想定することは傲慢ではないか。地球の気候がその転換点を超えないように対策はとられるだろうが、それでも十分に警戒するべきだ。

7 新型コロナウイルスの影響が尾を引き、そこに別の新たな脅威が襲いくる

世界はエイズの封じ込めに成功したが、根絶はできていない。この先、新型コロナは封じ込められ、同じようなほかのウイルスが現れたときにはどう対応するかについて、多くを学ぶだろう。それでも、いまは予測もできないような別の脅威がわたしたちの健康とウェルビーイングに襲いかかるはずである。わたしたちがいまもっている武器は、言うまでもなく、目の前にある戦争に勝つためにつくられたものだ。つぎなる戦争にもそれを適応させて使えるようになることを願うしかない。

8 中東がさらに不安定になる

中東はこれから先もずっと発火点になる。中東は、人類の文明がはじまったところであり、はじめて都市が生まれたところであり、農業がはじまったところであり、世界の3つの宗教が生まれたところである。
だが、この地域はいまも、そしてこれからも不安定である。もっと調和のとれた未来へと向かう道を素描するのは簡単だ。ヨルダン川西岸地区パレスチナ自治区ガザ地区の公正で永続的な未来、西側とイランの関係改善、サウジアラビアと湾岸諸国の賢明な統治、エジプトの経済的繁栄の拡大など、あげればきりがない。残念ながら、緊張がある地域を示して、惨事を予想するのも、それと同じくらい簡単である。

9 情報革命は恩恵をもたらさず、弊害を生み出すかもしれない

情報を減らせと言うジャーナリストなどいない。教育水準が上がり、幅広い知識にアクセスできる世界のほうが、そうでない世界よりもいいに決まっている。
だが、いまは非常に広範囲の情報が入手できるうえ、ソーシャルメディアが台頭したこともあって、人びとが読んだり見たりするものの信頼性は下がっているように見える。人は自分と同じような意見ばかり集めるだけではない。信じたいニュースだけを選ぶので、自分の意見が強化されていく。なによりも気がかりなこととして、教育レベルが高い人ほど、自分の意見を裏づけるエビデンスを探し出すのがうまく、都合の悪いエビデンスは無視してしまうようなのだ。こうした傾向は「確証バイアス」と呼ばれ、新しいものではまったくない。しかし、テクノロジーがそれに拍車をかけているように思われる。情報が増えたぶん、偽の情報も増えている。真実が検索結果のトップにくるようにできる解決策があるのかどうかも、ファクト(事実)とオピニオン(意見)をふるいにかける。さらにはオルタナティブファクト(もう1つの事実)ともふるいにかけることはできないのかどうかも、だれにもわからない。真実と偽情報の未来について質問したピュー研究所の2017年の調査で、異見が真っ二つに分かれたのも驚きはない。2020年のアメリカ大統領選挙をめぐる対立が物語るように、人は自分が信じたくないことは、たとえそれが事実であったとしても、信じようとはしない。どんな証拠を見せてもそうなのだ。

10 民主主義への脅威

情報が腐敗する可能性があるのだとしたら、ある疑問がわく。それが最後の懸念だ。つぎの30年に民主主義の原則そのものが崩れてしまうのだろうか。なんらかの形態の民主主義の下で暮らしている人の割合は、有史以来、最も高くなっている。その意味では、民主主義を信じている人は祝杯をあげていい。

独裁者も選挙に立候補する。投票が不正に操作されて勝つことが決まっているとしてもだ。しかし、民主主義は脅かされている。

その脅威をバラク・オバマが見事に言い表している。2020年のアトランティック誌のインタビューでオバマはこう言った。「なにが正しくて、なにがまちがっているかを見きわめる能力を持たなければ、当然ながら、異見の自由市場は機能しない。そうであるなら、この国の民主主義も、当然、機能しない」

これに対する反論として、すぐに思い浮かぶものがある。ウィンストン・チャーチルの有名な言葉がそれだ。「これまでも多くの統治形態が試されてきたし、過ちと悲哀に満ちたこの世界でこれからも試されていくだろう。民主主義は完全で全能だとうそぶく者などいない。実際のところ、民主主義は最悪の統治形態であるとされている。ただしそれは、これまでに試みられてきた民主主義以外のすべての政治形態を除けばの話だが」

だが、民主主義以外の政治体制はすべて劣ると言っても、中国のほうが西側よりもうまくいっているように見える現状を考えると、少なくとも一部の人は納得しないだろう。民主主義にとってより深刻な脅威は、有権者が真実と嘘を見分けられないことではないかもしれない。というのも、ほとんどの人は政治家の言うことをすべて疑ってかかるようになっているからだ。それよりも、多くの民主主義国が提供する統治の質に対する信頼と、西側の市場経済システムそのものに対する信頼の両方が広く失われていることのほうが深刻である。