サーチュイン遺伝子とは?オートファジーとの相乗効果で若返る?
Cell La Vie(セラヴィ)
「若さを保ちたい!」「いつまでも健康でいたい!」と考え、さまざまな情報を参考に「アンチエイジング」に取り組んでいる人も多いのではないでしょうか。
私たちがいつまでも元気でいるために大切なのは、身体の中の新陳代謝を高めること。新陳代謝を維持する上で、非常に重要な役割を果たしていると注目されているのが「サーチュイン遺伝子」です。当記事では「サーチュイン遺伝子」や「若返りのメカニズム」について解説します。
https://www.fracora.com/ageless/6692/
エピジェネティクス
国立環境研究所 より
「エピジェネティクス」という言葉は、個体発生に関する説の1つである「エピジェネシス(後成説)」と、ジェネティクス(遺伝学)」を起源としています。
「エピ」はギリシャ語で「後で」や「上に」という意味の接頭語であるため、「エピジェネティクス」は「遺伝子の上にさらに修飾が入ったもの」などという概念です。
ジェネティクスでは、DNAを構成するA(アデニン)、 T(チミン)、 G(グアニン)、 C(シトシン)という4種類の塩基の並び方、すなわち塩基配列を遺伝情報の基本とします。一方エピジェネティクスでは、DNAの塩基配列は変えずに、あとから加わった修飾が遺伝子機能を調節する制御機構となります。
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LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界
【目次】
はじめに――いつまでも若々しくありたいという願い
■第1部 私たちは何を知っているのか(過去)
第1章 老化の唯一の原因――原初のサバイバル回路
第2章 弾き方を忘れたピアニスト
第3章 万人を蝕(むしば)む見えざる病気
■第2部 私たちは何を学びつつあるのか(現在)
第4章 あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法
第5章 老化を治療する薬
第6章 若く健康な未来への躍進
第7章 医療におけるイノベーション
■第3部 私たちはどこへ行くのか(未来)
第8章 未来の世界はこうなる
第9章 私たちが築くべき未来
おわりに――世界を変える勇気をもとう
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第1章 老化の唯一の原因――原初のサバイバル回路 より
明らかになっている「長寿遺伝子」の存在とその役割
私の提唱する「老化の情報理論」は、原初のサバイバル回路から始まる。
想像に難くないだろうが、この回路は時とともに進化を遂げてきた。たとえば、初めてマグナ・スペルステスの体内に回路が登場したときには2個の遺伝子(AとB)だけが関わっていたのに対し、哺乳類ではその数が増えている。研究により、ヒトゲノムにはこれまで二十数個の関連遺伝子が見つかっている。同業の研究者のほとんどは、これらを「長寿遺伝子」と呼んでいる。その遺伝子が、色々な動物の平均寿命と最大寿命をともに延ばす力をもつことが示されてきたからだ。しかも、長寿遺伝子は寿命を長くするだけではない。より健康な生涯を送れるようにする。それを思えば、長寿遺伝子は「元気遺伝子」でもありといっていいだろう。
これらの遺伝子は体内で監視ネットワークをつくっている。タンパク質や化学物質を血液中に放出することで、細胞間や臓器間で情報を伝達し合っているのだ。そして、私たちが何を食べているか、どれくらい運動しているか、現在は1日のうちでどのような時間帯かに目を光らせ、それに対応している。環境が厳しくなれば、私たちにじっとしているようその遺伝子は指示し、状況が改善したら早く成長して早く子をつくるよう告げる。
生殖とDNA修復を調節しているサーチュイン
私が主な研究対象にしている長寿遺伝子は「サーチュイン(sirtuin)と呼ばれている。酵母の「SIR2遺伝子」から命名されたもので、このSIR2がサーチュイン発見の第1号だ。哺乳類では全部で7種類のサーチュイン遺伝子が見つかっていて(SIR1からSIR7まで)、これらは体内のほぼすべての細胞でタンパク質をつくっている(画像参照)。
私が研究を始めたとき、サーチュインはまだ科学界のレーダーにほとんど引っかかっていなかった。今やこの一群の遺伝子は、医学研究と医薬品開発の最前線へと踊り出ている。
マグナ・スペルステスの回路にあった「遺伝子B」を思い出してほしい。サーチュインはあの遺伝子Bの末裔(まつえい)だ。サーチュイン遺伝子から生まれるタンパク質(これも「サーチュイン」という)は酵素であり、とくに「脱アセチル化酵素」と呼ばれる。脱アセチル化とは、先ほども触れたヒストンなどのタンパク質からアセチル基(酢酸から水酸基を除いた原子団)を外すことをいう。ヒストンが脱アセチル化されると、DNAのヒストンへの巻きつきが強まる。そのため、DNAの情報が読み取れなくなって、タンパク質を合成する作業が行われない。逆に「アセチル化」してアクセル基が結合すると、DNAの巻きつきが緩む。結果的に遺伝情報が読めるようになり、タンパク質の合成が開始される。つまりこの仕組みを通して、必要に応じて遺伝子のスイッチをオフにしたりオンにしたりすることができるわけだ。
このように、サーチュインはエピジェネティクス的な調節機能においてきわめて重要な役割を担っている。細胞を制御するシステムの最上流に位置して、私たちの生殖とDNA修復を調節しているのだ。酵母の体内に初めて現れてからおよそ10億年が経過するうちに、サーチュインは私たちの健康や体力、そして生存そのものを司るように進化していた、また、進化の過程で、「NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」という分子を用いて仕事をするようにもなった。のちの章でも見るように、加齢とともにNADが失われ、そのせいでサーチュインの働きが衰えることが、老齢に特有の病気を発症する大きな理由の1つと考えられている。
サーチュイン酵素は、ストレスにさらされたときに生殖ではなく修復を選ぶことで、w足した地の体に「じっとしている」ように命じる。また、老化に伴う主だった疾患(糖尿病、心臓病、アルツハイマー病、骨粗鬆症、さらにはがんまでも)から私たちを守っている。アテローム性動脈硬化症、代謝異常、胃潰瘍性大腸炎、関節炎、および喘息へとつながる慢性炎症の亢進を鎮め、細胞死を防ぎ、細胞の発電所ともいうべきミトコンドリアの機能を高める働きももつ。さらには、筋肉消耗や眼の黄斑変性とも戦う。
マウスを使った研究からは、サーチュイン酵素を活性化することでDNAの修復が進み、記憶力が向上し運動持久力が高まり、何を食べてもマウスが太りにくくなるという結果が得られている。
適度なストレスが長寿遺伝子を働かせる
これら(細胞の損傷)の防御システムはすべて、生体にストレスがかかると始動するという共通点点をもつ。いわずもがなだが、大きすぎるストレスは克服できない。カタツムリがどんあに頑張っても、踏まれて潰れたら万事休すだ。急性の外傷や制御不能な炎症は、生物に老化する暇を与えずその命を奪う。細胞内のストレスにしても、多き過ぎれば手に負えない。たとえばDNAの損傷個所が多すぎる、などの場合だ。
DNA自体に変異を残さず短期間でそれが修復できたとしても、エピゲノムのレベルでは情報が失われている。
ここが重要なポイントだ。細胞を損傷させることなく長寿遺伝子を働かせるストレス因子はいくつもある。たとえば、ある種の運動をする、ときおり絶食する。低タンパク質の食事をする、高温や低温に体をさらす、などだ(これらについては第4章で詳しく取り上げる)。これを「ホルミシス」と呼ぶ。
ホルミシスとは、毒が毒にならない程度の量で刺激効果を現わすことを指す。一般にホルミシスは生物にプラスの作用を及ぼす。永続的なダメージを引き起こさずに誘発できた場合はなおさらだ。ホルミシスが起きるとき、すべては良好な状態になる。いや、良好などという言葉では足りない。