じじぃの「科学・地球_569_テックジャイアントと地政学・見本市(CES)」

CES 2023 のヘルスケアの例


CES 2023 はテクノロジーがヘルスケアをどのように変えたかを示します

2023年1月13日
●CES 2023 のヘルスケアの例
今年の CES からいくつかの例を見てみましょう。
個人用センサーとウェアラブルは、私たちの身体機能を 24 時間年中無休で分析するのに役立つあらゆる場所にあります。サービス専門家がリモートでデータを分析しながら、血圧、血糖値、心拍数、洞調律を監視し、セルフケアおよび早期警告システム用のアプリケーションを構築することが可能です。
https://disruptive.asia/ces-2023-technology-healthcare/

日経プレミアシリーズ テックジャイアントと地政学

【目次】
プロローグ シリコンバレーとの往来から見えてきた日本の近未来
Part1 ChatGPTが与える衝撃
Part2 テクノロジーが変える地政学
Part3 曲がり角のテックジャイアン

Part4 メタバース&Web3、先端技術ブームの実態

Part5 日本人が知らない世界の最新常識

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テックジャイアントと地政学

山本康正/著 日経プレミアシリーズ 2023年発行

Part4 メタバース&Web3、先端技術ブームの実態 より

テクノロジー見本市「CES」 世界の経営陣が見たもの

先端テクノロジーの見本市「CES」が2年ぶりに米ラスベガスの現地で開催されました。おさらいですが、CESはもともと家電の見本市でした。しかし今は新数テクノロジーという切り口で、世界の家電メーカーや大企業、ベンチャーなどが企業規模を問わず集まるイベントです。

もはやテクノロジーと無関係の業界などない時代ですので、自動車やヘルスケア関連のすべての業界が関わりつつあります。CESは開催時期が例年1月であることから、いわば世界中の企業がテクノロジーに対して「年頭所感」を披露する場所といえるでしょう。

ただ気をつけなければいない点もあります。あえてCESに参加しない企業も多いということです。例えば、毎年6月ごろに独自の新製品発表会を開催している米アップルや米グーグルなどは、CESでわざわざ目玉の新製品を発表する必要はありません。

こうした企業は基本的に他の企業との交渉にやってくるため、出展せずとも大きなインパクトはありません。また、何千社という出展企業が集まるCESでは相当なマーケティング予算を投じて工夫しなければ注目されるのが難しく、せっかく新たな製品やサービスを発表しても埋もれてしまう危険もあるためです。

一方で主催者側はテクノロジー業界への新たな洞察を提供するというよりも、なるべく「はやり言葉」などを活用して注目されるイベントを開発して収益を挙げることにインセンティブがあります。ある企業が大きな費用をかけて出展すれば、それが「今年のトレンド」や表彰といった形で広く情報発信される可能性があります。
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各出展の詳細は別の記事に任せるとして、国別やテーマ別、出展企業の規模別の3つに分けてCESの動向を見てみましょう。

目立つ韓国勢とEV、自動運転技術

国別では、開催国の米国を除くと、韓国企業の攻勢が目に付きます。近年は韓国LG電子が得意の液晶を活用して会場の入り口を陣取った大掛りな展示が恒例だったのですが、22年はオンラインでの講演のみに絞っていました。代わりにサムスン電子が非交替制トークン(NFT)を使ったアートを売買できるテレビや、1990年代後半以降に生まれた「Z世代」向けの小型プロジェクターなどを全方位で仕掛けていました。現代自動車も自動車会社の枠を超えようと基調講演でもブースでも存在感を示していました。

CESで目立った代表的な日本企業はソニーグループでした。吉田憲一郎会長兼社長が来場し、東京大学宇宙航空研究開発機構JAXA)と提携して宇宙からの視点を提供する「STAR SPHERE」や、実機のデモこそなかったものの据え置き型ゲーム機の「プレイステーション(PS)5」向けの次世代VR(仮想現実)機器の「PlayStation VR2」を発表。新型の電気自動車(EV)である「VISION-S 02}も発表し、商用化やモビリティー新会社の設立など積極的な情報発信を行いました。

テーマ別に見ると、過去2年間に及ぶ新型コロナの影響や脱炭素への流れもあり、EV化やモビリティーに関わる展示が植えました。米ゼネラル・モーターズGM)は花形車種のピックアップトラック「シルバラード」のEV版を発表し、価格も約400万円台からと競合に負けない値段で出してきました。EVの購入補助金を支給する最近の各国法案の動きを含めると、世界中でEVの戦国時代がさらに広がる気配が見て取れます。

同時期に独メルセデストヨタ自動車など多くの伝統企業がEVを発表していますが、この流れは伝統的な自動車会社だけのものではありません。国別でもGMベトナムが前身だったベトナムの自動車メーカー「ビンファスト(VinFast)」がEVを大々的に展示し、攻勢をかけています。また韓国LG電子も自前の液晶を活用してトヨタの「e-Palette(イーパレット)」に似た形の自動運転車を発表しています。アップルもアップルカーを検討していると報道されており、引き続き注視が必要な分野です。

ヘルスケア関連領域では日本のスタートアップも

CESでもう1つ増えてきた出展はヘルスケア・ウェルネス関連です。米製薬企業アボット・ラボラトリーズの基調講演では、映画俳優やTV司会者らふが新型ころなをきっかけに健康維持と無縁な人はいないと個人的なエピソードも交えて語るストーリーで、ヘルスケアでのテクノロジーの活用を聴衆に訴えていました。特に近年ではデータの活用によって病気の兆候を察知することもできるため、脳や心臓の疾患などが注目の的です。

日本のオムロンは出展こそありませんでしたが、脳や心血管疾患の発症予防をデータで取り込む施策を発表しています。データを解析するアルゴリズムの優位性が競争の鍵となります。その人材の多くは今はテクノロジー企業に在籍しています。また、自宅にいる時間が増えたことから、センサーを高度化した空気清浄機など、ベッドやフィットネス機器の企業が出展に力を入れています。

企業の規模別で見ると、CESにおいてベンチャーを育てるという取り組みは主に「Eureka パーク」というスタートアップ企業限定の出展ゾーンで披露しています。ただし大企業の展示よりもさらに割り引いて、100社のうち何社かが育つ可能性があるかもしれないという視点で見る必要があります。こちらは引き続き韓国が大規模に取り組んでいます。その他にもマクロン仏大統領がベンチャー支援を強化するフランスや、オランダ、英国、トルコ、台湾などが大規模なブースを設置して、米国市場にアピールしています。

日本も「Jスタートアップ」という取り組みで、日本のスタートアップの展示を支援しています。年々規模が拡大し、米国市場へのアプローチに力を入れています。22年のCES主催者が選択するイノベーションアワード受賞企業も日本のベンチャーが増えています。

折りたたみの電動モビリティーである「WHILL」のモデルFや、採血なしに血糖値を測れる「クォンタムオペレーション」(東京・中央)や「ライトタッチテクノロジー」(大阪市)、小型軽量のVR端末「MeganeX(メガーヌエックス)」などを開発している「Shiftall(シフトール)」(東京・中央)が受賞しています。福岡市も独自のスマートフォン構想を海外にアピールしました。

日本では当然ながら、日本企業を中心に大きく報道される傾向があります。しかし重要なのは、商業的な要素を割り引いても日本ではまだ無名の競合企業が成長の芽を伸ばしているといった世界の動きをいち早く伝える必要があるということです。

こうした動きをいち早く察知する手っ取り早い方法は、各国企業の経営陣がすでに実践しているように、現地に足を運び、その場で製品デモを見て、相手の経営陣と交渉することでしょう。これは企業の経営陣が部下に任せられる仕事ではありません。もし家電中心の展示から大きく状況が変わった18年以降にCESへ一度も足を運んだことがないのであれば、23年以降の新型コロナが落ち着いたときに訪れて見る価値はあるでしょう。