じじぃの「科学・地球_572_テックジャイアントと地政学・起業家精神」

L’INPI a Viva Technology 2022

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=0fp8uCAuI6w

Viva Technology 2022, Paris


Viva Technology 2022, Paris

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https://whimsicalexhibits.eu/viva-technology-2022-paris/

日経プレミアシリーズ テックジャイアントと地政学

【目次】
プロローグ シリコンバレーとの往来から見えてきた日本の近未来
Part1 ChatGPTが与える衝撃
Part2 テクノロジーが変える地政学
Part3 曲がり角のテックジャイアン
Part4 メタバース&Web3、先端技術ブームの実態

Part5 日本人が知らない世界の最新常識

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テックジャイアントと地政学

山本康正/著 日経プレミアシリーズ 2023年発行

Part5 日本人が知らない世界の最新常識 より

海外に遅れる「起業家精神」 日本が取り組むべき支援

読者の皆さんは何を望むでしょうか? テクノロジーや企業に関して政治ができることは、新たなルール作りや資源の配分などによって事業環境を整備することです。

日本が特に遅れているデジタル技術に関連していえば、規制緩和やスタートアップ企業を増やすエコシステム(生態系)の整備が重要事項の1つでしょう。プロックチェーン(散型台帳)技術を使って新しいインターネットを目指す「Web3(ウェブ3)」といった特定の領域への過度な誘導ではありません。

米調査会社のスタートアップ・ゲノムなどは22年6月16日にスタートアップ企業のエコシステムが整備されている都市の世界ランキングを発表しました。ランキングによると、韓国のソウルが10位に躍進し、日本の都市は2021年の9位から12位に後退しました。

このランキングは22年版「グローバル・スタートアップ・エコシステム・リポート」によるものです。リポートは日本の都市について21年の京都に続いて大阪も取り上げており、関西圏のエコシステムが世界に知られつつあります。

22年のランキングは米シリコンバレー、同じ米国のニューヨーク、英国のロンドンが21年と同じく上位を占めました。4位は21年に5位だった米ボストンが順位を上げ、5位は順位を1つ落とした中国・北京でした。

シリコンバレー新型コロナウイルス禍によるロックダウン(都市封鎖)やリモートワークの普及によって人材が流出してしまうかもしれないという懸念がありましたが、こうした心配は後退しました。また学術研究の中心地である米スタンフォード大学は気候変動についての学部を新設します。

実に70年ぶりとなる同大学の学部新設じは、著名はベンチャーキャピタル(VC)ファンドである「クライナー・パーキンス(Kleiner Perkins' 旧KPCB)」のパートナーであるジョン・ドーア氏らによる約1400億円の寄付によるものです。米国ではゼネラル・モーターズGM)系の自動運転技術開発会社であるGMクルーズなどがサンフランシスコ市内で自動運転タクシーの商用利用を開始するなど、新技術のエコシステムを進化させています。

ニューヨークやロンドンはもともと世界金融の中心地でもあり、多くの国際企業の要地になっていることから、人材のネットワークづくりもしやすく安定的にスタートアップが生まれています。特にヘルスケア分野に対する投資が増えていることから、ヘルスケアに強みのあるボストンが順位を上げています。

日本が参考にできるフランスの政策

そのなかで日本がいま参考にできる国の1つはフランスでしょう。欧州の中でも保守的なことで知られるフランスが近年「フレンチテック構想」という看板を掲げて、企業や組織の垣根を越えて知識や技術を持ち寄る「オープンイノベーション」促進に向けて本格ティに動き出しています。

主導するのはもちろん、22年4月に再選を果たしたマクロン仏大統領です。廃止した駅舎を改装した世界最大級のベンチャー育成センター「ステーションF」の創設に始まり、世界的なテック企業になる可能性を秘めたスタートアップ120社を選出した「フレンチテック・ネクスト40/120」を公表しています。さらに欧州全体も巻き込んで30年までに時価総額14兆円超の巨大な情報技術(IT)企業を欧州から10社出すことを目指しています。

日本でいえば、岸田文雄首相がアジア各国に向けて時価総額10兆円の巨大テック企業を10社創出すると呼びかけるようなリーダーシップに近いでしょう。フランスは制度面でも整備を進め、スタートアップ・エコシステムを強化・発展させています。

10年代半ばまでのフランスは日本と非常に近い立ち位置にありました。保守的でリスクを回避する傾向を強く、伝統的な教育機関が存在感を持っており、企業する人口は他国に比べて少なかったのです。要するにフランスも数年前まで「出るくいは打たれる」という風土であったため、スタートアップが育たないという日本と同様の悩みを抱えていたのです。

そのフランスですらも大きく変わり始めているのです。国を挙げてアントレプレナー(起業家・企業家)を増やすための強化支援策をさまざまに講じた結果が、ここに来て成果を生み出し始めているともいえるでしょう。

フランス・パリでは22年6月に欧州最大規模のスタートアップやテックのカンファレンスである「ビバテクノロジー 2022(Viva Technology 2022)」が開催されました。16年からの開催で、集まる企業に偏りはあったものの気候変動など独自の注目テーマなどを扱って徐々に海外の有力スタートアップの創業者も集まるイベントになりつつあります。

であるからこそ、フランスと同じような立場にある日本も大規模なスタートアップ創出に向けていま一度、真剣に取り組むべき局面に来ています。ヤフー元社長の宮坂学東京都副知事はビバテクノロジー2022に参加し、東京都は23年2月に「TOKYO City-Tech」というテーマで独自の大型グローバルイベント東京国際フォーラムで開催します。

これまでTechCrunch TokyoやSlush Tokyoなど、海外をモデルにしたグローバルイベントはありましたが、東京都が世界に向けて行うイベントは近年ありませんでした。同様の動きは未来グローバルに人気がある京都や大阪、神戸、福岡などの他の都市もできるのではないでしょうか。ただし、地方であればより注意して、海外から招待する人の目利きは必ず現地のベンチャーに詳しい人に確認をしなければなりません。

スタートアップの世界は1つの成功の陰に、その10倍以上の失敗例が積み上がる「多産多死」の世界です。けれどもチャレンジしなければ、経済的には応対の一択しかありません。フランスも韓国も、そしてその他の国々も変化するために動き出しています。日本もここからフランスのように変わっていくことはできるはずです。