じじぃの「科学・地球_574_テックジャイアントと地政学・日本に必要な視点」

【衝撃】ユニコーン企業とは? 中国に日本が完敗!【簡単解説】

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=1qAPnirFj8k


ユニコーン企業の増加はバブルの兆候か!【国別企業数・時価総額ランキング】

2023年3月16日 ファイナンシャルスター

ユニコーン企業数の国別ランキング【2021年3月】

629社の内、米国と中国で70%を占めています。
ここでも米中の熾烈な争いが行われています。
また、インドが29社で3位(英国と同数)にランクインしています。
インドは米国・中国・イスラエル等に続くテクノロジー関連スタートアップの創出国として注目されています。
https://finance-gfp.com/?p=7167

日経プレミアシリーズ テックジャイアントと地政学

【目次】
プロローグ シリコンバレーとの往来から見えてきた日本の近未来
Part1 ChatGPTが与える衝撃
Part2 テクノロジーが変える地政学
Part3 曲がり角のテックジャイアン
Part4 メタバース&Web3、先端技術ブームの実態

Part5 日本人が知らない世界の最新常識

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テックジャイアントと地政学

山本康正/著 日経プレミアシリーズ 2023年発行

Part5 日本人が知らない世界の最新常識 より

政府の起業家育成策に未来はあるか 日本に必要な視点

日本のスタートアップ企業を増やそうと、日本政府は2027年まで毎年200人規模の起業家らを米シリコンバレーに派遣する構想を発表しました。なぜこのような政策が打ち出されたのでしょうか。どんな成果が期待できるのでしょうか。

日差しがまぶしい米サンフランシスコの空港に降り立ち、米グーグルのカフェで無料ランチを食べ、スタンフォード大学大なキャンバスを見学し、米アップルのビジターセンターを訪れて社屋を背景に写真を撮る――。これは米シリコンバレーに初めて訪れる日本企業の典型的なツアーの例です。日本人が多いインキュベーションオフィスの勉強会に参加して、日本語で質問する機会もあります。

まるでテーマパークへの訪問にたとえられるように、最初はひときわ目立つジェットコースターなどに乗ってから、他に乗り物はないかと知人を介して日本に関連するベンチャー企業などに声をかけていくという構図があります。日本の顧客や投資家が多いテクノロジー企業やベンチャーキャピタルは、営業活動の一環として勉強会や意見交換の時間を加える場合もあります。

ただし、気をつけなければいけないのは、こういったツアーで得られる情報は相当偏っているということです。もしもツアーをアレンジした人物の英語力が不十分だったり、アイビーリーグといわれる米有力大学などの卒業生ネットワークやGAFAと呼ばれる巨大企業などとのネットワークが不十分だったりすると、単に日本のコミュニティーのなかに閉じた情報しか見聞きできません。

その間にインド系などグーグルやアドビ、ツイッターの現職社長をはじめとする人材が豊富に活躍していう国は、もともと英語に強い人材が多いこともあり、シリコンバレーのより深い情報網に接して、日本に対して大きな差をつけています。

日本の官僚や経済界は米ニューヨークやワシントンにおいて比較的発達した情報網を持っていますが、西海岸については整備する重要度と難度がかつてなく高まっているにもかかわらず手薄なままです。なぜなら日本の人事制度が1980年代から硬直化して、大企業の次期幹部は東海岸への赴任を経由するという慣習が現在もほぼそのまま続いているためです。

もはやソフトウェアの価値がハードウェアの価値を上回っている時代に、いまだにシステムデザイン部門よりも製造部門の方が影響力を持っている企業の体制と同じです。このような慣習は見直さなければなりません。

起業家1000人派遣構想の背景

こうした中で萩生田光一経済産業相が22年下旬にワシントンでの会議の前に、米国の西海岸を訪れました。岸田文雄政権がスタートアップの育成に力を入れると発表したり、22年5月初旬に山際大志郎経済財政・再生担当相も同様の行程で訪問したりしていたため、ワシントンやニューヨークを訪れる前にシリコンバレーに立ち寄る重要性が増したのは良いことです。

萩生田経産相がグーグルや日本人の運営するベンチャーキャピタルなどを訪れた後に発表したのは、27年までの5年間に毎年200人規模、計1000人の日本の起業家らをシリコンバレーに派遣するという計画です。

これは毎年20人程度の日本人を選抜してシリコンバレーに1週間程度の短時間派遣を続けている現在の「架け橋プロジェクト」と呼ぶ事業を改題するものです。実際に参加者が自らの事業プランを起業家や投資家に直接伝え、起業した例もあります。

経産相によると過去7年間に140人を送り込み、派遣した人材が新たに設立した人工知能(AI)による診断やロボットといった分野の企業の時価総額は22年3月時点で計166億年にのぼると伝えられています。また、起業をした企業の時価総額の合計が実施にかかった費用を上回っているという説明も伝えられています。

もちろん何もしないよりは良いことですが、起業をした企業の時価総額の合計が実施にかかった費用を上回っているという説明は、そもそも比べる対象が同列ではありません。投資家が重陽子する「Apple to Appleの比較(同じ条件での比較)」ではないのです。

例えば、もし京都大学で開催している起業講座について「受講した京大生が起業した企業の時価総額の合計が、起業講座の運営費を上回っている」という説明をされたら違和感を覚えないでしょうか。よりフェアな評価をするのであれば、受講者全員に同額の出資をして投資利益(起業しなかった場合は0円)を計測して比べなければなりません。因果関係と相関関係の違いを注意深く見なければならないのです。
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萩生田経産相はさらにスタンフォード大学との提携やマサチューセッツ工科大学(MIT)などの有名大学を日本に誘致する計画も発表しました。スタンフォード大学は成長し続けるベンチャー企業のようなものですから商売が非常に上手です。

自らの大学の世界的なブランド力をよく分かっているため、まともに交渉すると高額の支払いを請求される事態が予想されます。大学側がリップサービスで「進出に興味がある」と述べた言葉を真に受ける前に、提示された条件をしっかりと確認しなければなりません。
日本から想像する以上に米国の大学では日本の存在感が小さく、アジアの中でも中国、韓国の存在感に押されています。

ビジネス上の成果をどこまでもたらすかも冷静に見極めなければなりません。MITのメディアラボには多くの日本企業が30年ほど前から寄付をして企業派遣の人材を送り込みました。ビジネス上の成果がすでに出ているべきでしょう。また、スタンフォード大学も京都に学生向けの拠点がすでにあります。

米国の有力大学に対しては、過去にもアブダビニューヨーク大学を誘致するなどの豊富な資金力をもとにした意欲的な取り組みがありました。一方で、行き詰っている事例も多数あります。

カーネギーメロン大学は05年に兵庫県と連携して、神戸に英語で情報セキュリティーを学べる日本校を設立しました。しかし、その先進的な取り組みが早すぎたのか、授業料の高さや英語力を持った学生の不足などを理由に閉鎖されています。

長期的視点を欠く日本

このような過去の教訓があるなかで、日本政府があえてこうした政策を打ち出してきている背景には、政府の担当者の力量不足というよりも、政治の構造的な要素が影響しています。

岸田政権がスタートアップ支援を政策の中心として前面に打ち出すなか、日本のメディアを活用してよりスタートアップに関連した成果を打ち出す意義はあるでしょう。日本在住の有権者にメリットを伝えやすく効果もすぐ見せやすい政策なのです。
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一方で、転職が当たり前の外資系テクノロジー企業は従業員に十分な教育の機会を与えています。なぜなら狭い業界内では「出戻り」が当たり前で、同業他社を経由して再び優秀な人材が戻ってくる可能性が高いので、こうした教育機会を目当てにした優秀な人材を採用できるからです。日本企業でもOBの出戻り採用する企業が増えてきていますが、従来の企業カルチャーとは異質で高度な人材を受け入れる考え方が、日本企業だけでなく日本としても必要です。

中国は日本を上回る規模でメガベンチャーを創出したりイノベーションで先行したりする「海亀」と呼ばれる海外で学ぶ学生の力を自国の競争力向上に活用してきました。もちろん中国には留学生を帰国させる事実上の強制力もあるため、日本にとってはそのままでは参考にならないかもしれません。

一方で先述の韓国は1997年や2008年の通貨危機が契機になったという背景はあるものの、国外での教育を重視する政策に大きく舵(かじ)を切ったことで、スタートアップの成長やテクノロジー、経済安全保障の世界で存在感を発揮するようになりました。

中国と韓国は若者による海外での学びをもとに起業家を育てて自国の経済を拡大するという点で日本が学ぶことが多いのです。どちらも短期的というよりは長期的な施策を打ち出しています。

いまこそ日本も近視眼的な政策を長期的かつ幅広い視点で切り替える必要があります。そうでなければ、このままスタートアップをはじめとする日本の国際競争力が衰える事態に陥ってしまう可能性は高いでしょう。