じじぃの「科学・地球_573_テックジャイアントと地政学・スタートアップ企業買収・DX」

Adobe XDなくなるかも!? #shorts

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https://www.youtube.com/watch?v=0fg8-9xVjkw

AdobeFigmaを巨額買収


Adobeが2兆円超えでデザインツール「Figma」を買収、Figmaブランドは存続の予定

2022年09月16日 GIGAZINE
Adobeがデザイン管理ツール「Figma」を200億ドル(約2兆8600億円)で買収することを発表しました。
Figmaは複数人で同時にアプリやウェブページのプロトタイプを作成したり、アイデアを共有したりできるデザイン管理ツールです。Figmaは日本を含む世界中で広く利用されており、2022年には日本語版の公式Twitterアカウントを開設するなどコミュニティ活動も積極的に展開しています
https://gigazine.net/news/20220916-adobe-acquire-figma/

日経プレミアシリーズ テックジャイアントと地政学

【目次】
プロローグ シリコンバレーとの往来から見えてきた日本の近未来
Part1 ChatGPTが与える衝撃
Part2 テクノロジーが変える地政学
Part3 曲がり角のテックジャイアン
Part4 メタバース&Web3、先端技術ブームの実態

Part5 日本人が知らない世界の最新常識

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テックジャイアントと地政学

山本康正/著 日経プレミアシリーズ 2023年発行

Part5 日本人が知らない世界の最新常識 より

AdobeFigmaを巨額買収 企業DXの手本となる理由

米アドビは2012年創業のスタートアップ企業であるフィグマ(Figma)を約2兆8700億円で買収すると発表しました。フィグマはデザインの共同編集ソフトウェアを手がけており、アドビの意志決定には日本の大企業が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を進める際のヒントが隠れています。

アドビによるフィグマ買収は、アドビが行った買収の中でも高額です。アドビがフィグマの買収に投じる金額は、日本の上場企業でいえばパナソニックホールディングスや第一生命ホールディングスの株式の時価総額と同規模で、過去のソフト企業の買収でも有数の規模になります。

企業価値が10億ドルを上回る未上場企業である「ユニコーン」やスタートアップ企業の多くは現在、米国の金融引き締めによって冬の時代を迎えているといわれています。そんなさなかでの巨額買収は大きなニュースになっています。

フィグマが急成長した理由

アドビが提供するサービスは文書管理以外にも、クリエーター向けの「フォトショップ」、グラフィックデザインソフトの「イラストレーター」など数々のデジタル関連サービスを提供しています。そのツールの多くはいわゆるプロ向けのソフトです。デジタル作品の制作にかかわらない人にはあまりなじみがないかもしれません。

しかし、そこにフィグマという新星スタートアップが登場しました。フィグマはアイビーリーグと呼ばれた米国の名門大学の1つであるブラウン大学でコンピューターサイエンスを学んでいたディラン・フィールド氏が弱冠20歳で創業しました。

フィールド氏はビジネス向けSNSを運営する米リンクトインなどの企業でインターンシップを経験。その後、大学で出会った共同創業者とともに、共同作業でデザインができる最適な環境を追求するというコンセプトで起業したのです。

米ペイパル創業者で著名投資家であるピーター・ティール氏の奨学金ティール・フェローシップ」に選ばれたフィールド氏は大学を中退し、サンフランシスコに移住して開発を進めていきます。この奨学金は若者に出資する代わりに起業させるプログラムで、大学を中退して起業すれば約1400万円が支給されるというものです。
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特に新型コロナウイルス感染症によってリモートワークが当たり前になると導入するユーザー数が飛躍的に伸びました。21年には時価総額が1兆円を超え、急成長するスタートアップ企業の代表格になっていました。

そして創業者のフィールド氏が30歳になった翌22年、今回のアドビによる約2兆8700億円の買収が発表されます。これはフィグマの年間収益の約50倍といわれており、通常の上場時でも時価総額は年間収益の10倍以下が多いというところから比べると、破格です。

アドビからすると、急成長する新星スタートアップを自分たちが取り込めるならば、買収価格が1年前の約1兆円から2倍になったとしても買収の意義があると判断したのでしょう。

なぜならアドビが作ってきたソフトのクラウド化は、あくまで個人が単独で利用する場面を想定して設計されてきたものでした。もともと共同作業を前提としたフィグマとは、そもそも哲学が違うのです。アドビも新サービスとして共同作業ができるAdobe XDの正式版を17年に投入しますが、フィグマの成長を止めるまでには至っていませんでした。

こうなるとアドビにとってはフィグマを自社のエコシステムに組み込んだ方が長期的な利益につながります。いわばアドビは従来の戦略を「自己否定」して買収に踏み切ることで進化する道を選んだわけです。

これは06年にグーグルが米ユーチューブ(YouTube)を16億4000万ドル(当時の為替レートで約2000億円)で買収した経緯に似ているでしょう。当時としては高すぎる買収といわれましたが、グーグルはユーチューブに対抗して「Google Video」を開発したものの、ユーチューブの成長に追いつけず買収に踏み切ったのです。

同時に、それまでユーチューブはソフトの機能を重視した開発を進めていました。グーグルの買収によってユーザーの使いやすさや伝わりやすさといった新しい価値観を取り込む戦略に転換し、結果的に動画市場の開拓につながりました。

次世代の自動車でも同様のことが起きています。自動運転の時代が来るといわれているなかで、08年のリーマン・ショックによって一度経営が破綻した米ゼネラル・モーターズGM)は16年に自動運転の技術運転の技術開発を進めていた米クルーズ・オートメーション(Cruise Automation)を高額で買収しました。

クルーズ・オートメーションは米マサチューセッツ工科大学(MIT)出身で34歳だったカイル・ボークト(Kyle Vogt)氏が3年ほど経営していたスタートアップでした。GMはこの買収によって、ほかのソフト企業が主導する自動運転技術の開発競争になんとか食らいついたという経緯があります。

日本企業にとって大きなヒントに

今回のアドビによるフィグマ買収は、そもそも買収が成立するのか、買収後の統合がうまくいくのかといった様々な波乱の懸念がまだ残ります。

しかし絶えず変化が起こるビジネスの世界で、今回の買収劇は日本企業に大きなヒントになるでしょう。なぜなら日本の大企業は急成長するスタートアップを買収する割合が海外に比べて極端に低く、人材や経営ビジョンの新陳代謝が十分に起こっていないからです。

大企業がスタートアップの買収で成功するには、景況感に左右されない普段の取り組みが重要です。経営者の年齢が若いといった理由でスタートアップとかかわりを持つのを嫌がらず、世界中の優秀な理系人材と将来ビジョンを共有しつつ、スタートアップ企業への出資や買収を目的としたコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の事業を自前で築き上げて他人任せにしないことも必要です。