アマゾンが医療進出へスタートアップ買収(2022年7月22日)
アマゾンがヘルスケア事業に本格参入
アマゾンが「人の健康」対象に組んだ5つの稼ぎ方
2021/07/02 東洋経済オンライン
●ヘルスケア事業に本格参入したアマゾン
アマゾンの売上高の12%ほどを占めるに過ぎないものの、営業利益で見れば、その約60%をも占めるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)。
いまや、AWSは世界一のクラウドコンピューティングサービスであり、アマゾン全体を世界最強のテクノロジー企業の1社にまで高めているのに貢献しています。
あらゆる産業を飲み込む「エブリシング・カンパニー」であるアマゾンは近年ヘルスケア事業領域にも本格参入しています。そのエコシステムの基盤となっているのもAWSです。
https://toyokeizai.net/articles/-/433225
日経プレミアシリーズ テックジャイアントと地政学
【目次】
プロローグ シリコンバレーとの往来から見えてきた日本の近未来
Part1 ChatGPTが与える衝撃
Part2 テクノロジーが変える地政学
Part3 曲がり角のテックジャイアント より
アマゾン経済圏が急拡大 株価低迷時に買収攻勢
読者のみなさんは音楽や映像の定額配信サービスや料理の宅配サーブしなど、何らかのデジタルサービスを使っていたことがあるのではないでしょうか。なかでも筆頭は米アマゾン・ドット・コムでしょう。アマゾンはサービスの経済圏を大幅に強化し続けています。
顧客にとってほかのデジタルサービスを使う候補があるなかで、特定のサービスを利用する理由は何でしょうか。サービスの質でしょうか。それとも品ぞろえ、あるいは価格の安さでしょうか。
もし既存の有料サービスが他社と提携していて、利用を検討しているサービス料が割引されるとすれば、それらを使う可能性が高まります。ネットサービスを提供する企業は顧客を引きつけるために提携や買収を通じて経済圏を拡大し、激しい市場争奪戦を繰り広げています。
なかでもアマゾンの動きは顕著です。米国のアマゾンは有料会員サービスの「アマゾンプライム」を月額15ドル(約2000円)、年額140ドル(約2万円)という価格設定で提供しています。プライム会員になると配達費用が無料になったり、商品が届く時間が早まったり、映像配信サービスが含まれていたりなど、様々なメリットを受けられます。
例えばアマゾンが2021年5月に「007」シリーズなどで知られる米映画制作会社メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)を84億5000万ドルで買収すると公表したのは、映像配信サービスのコンテンツ強化を目的としたものです。アマゾンは22年3月に買収を完了したと発表しました。先ほど紹介したように、スポーツのライブ中継や独自映像作品の制作も加速しています。
・
もともとアマゾンは米ホールフーズ・マーケットという高級スーパーを買収した経緯もあって、フードサービス事業を強化しています。食べることは生きている限り基本的に必要なことです。
さらにヘルスケア市場への参入もすでに進めています。7月21日には医療サービスをサブスクリプション方式で提供する米ワン・メディカル社を約39億ドルというアマゾンとしては過去3番目の金額で買収しました。
アマゾンは20年8月に温度センサーや心拍計などを内蔵したリストバンド型のウェアラブル端末「アマゾン・ヘイロー・バンド」を発表し、付随するヘルスケアのサービスに実際の医療のネットワークも取り込むことで、経済圏の中で提供できるサービスの幅をさらに広げています。結局は消費者が定期的に使う何らかのサービスは全て新規に取り組む対称になるのです。
アマゾン経済圏が勢いを増す理由
これまで企業が独自の経済圏を形成して顧客を囲い込む経営戦略は、電力会社や携帯電話会社など多くの企業が試行してきました。これが、なぜいまアマゾンはうまくいきつつあるのでしょうか?
その理由の1つは、1人の顧客が企業やブランドと取引を初めてから長期にわたって企業にもたらす利益の総額である「ライフタイムバリュー(LTV、顧客生涯価値)」と、利益率の高さと考えられます。LTVは「1回当たりの平均購入単価」「利益率」「年間の平均回数」「平均継続年数」4つに分解できます。これまでの携帯電話サービス企業や電力サービス企業はインフラ企業であり、監督官庁の権限も強いため利益率を高くすることができません。
しかしながらアマゾンはインフラ企業という位置づけではないため、比較的に自由に動くことができます。また、リアルの倉庫やホールフーズなどの店舗も所有しているため、他の企業に比べてデジタルとリアルの融合を進めやすいポジションにいます。提供できるサービスを拡大することによってLTVも向上し、さらに再投資することができるという好循環を巻き起こすことが狙えます。
アマゾンは創業初期のころに巨額の赤字経営をあえて継続して、株価が下がっても顧客の利便性を重視したサービスを徹底するという経営姿勢で知られます。この経営姿勢が昨今のように株価が軟調な時期に、次々と買収や提携を繰り返していく戦略につながっています。
米アップルも、iPhoneの次回の買い替え時にiPhoneを選んでもらうという形で、金融や映像、ヘルスケアなどのサービスを充実させて経済圏を拡大しています。アマゾンについて述べた経営戦略の特徴はアップルにも同様にいえることでしょう。
米国のテクノロジー企業が日本に提供するサービスは基本的に米国で試してみて、うまくいったサービスであることが多く、このような経済圏の拡大の動きはまず米国の動きを注意深く見なければ気づくのが遅くなってしまいます。
そのため日本企業の経営者は、まだ日本で提供されていない米国のサービスを意識的に把握しなければなりません。これは特にデジタルとは疎遠だと思い込んでいる業界関係者にとって重要です。
日ごろからアマゾンで日用品を購入し、アマゾン・プライム・ビデオで話題のドラマを視聴し、病気になったらオンライン診療で薬を家まで届けてもらう。日常にまつわるあらゆるサービスが、すべてアマゾンの経済圏内で完結する日が現実になりつつあります。
こうした経済圏の急激な拡大に日本企業はどう対抗するのか。独自の経済圏をつくるのが難しければ、気づいたときにはどこかの陣営に入らざるを得なくなるという事態に備えなければなりません。