メタバースとはなにか【徹底解説】
データで振り返るメタバースの1年
検索数は1月がピーク、プレスリリース数は50倍!データで振り返るメタバースの1年
2022.08.29 Zat'VR
「メタバース」という単語をめぐるこの1年を、Googleトレンドの検索ボリュームおよび、プレスリリースでの使用数から振り返ってみた。
https://vr-comm.jp/archives/1422
日経プレミアシリーズ テックジャイアントと地政学
【目次】
プロローグ シリコンバレーとの往来から見えてきた日本の近未来
Part1 ChatGPTが与える衝撃
Part2 テクノロジーが変える地政学
Part3 曲がり角のテックジャイアント
Part4 メタバース&Web3、先端技術ブームの実態 より
世界の企業が続々と参入 「メタバース」の読み解き方
2022年も多くのテクノロジー関連のはやり言葉がメディアをにぎわしていました。しかし。肝心なのはそれが「単にマーケティング活動によって広まっているものなのか、本当にビジネスや実務に使えるような技術の地殻変動が起きているのか?」と一歩引いて考えてみることです。なかでも22年に良くも悪くもせ愛をにぎわしていた言葉は「メタバース」でしょう。
メタバースとは、「メタ(meta=超越した)」と「ユニバース(universe=宇宙)」を組み合わせた造語です。インターネット上の仮想空間でさまざまな活動ができることを表す概念で、もともとは米SFのニール・スティーブンソン(Neal Stephenson)氏が1992年出版の小説で架空の仮想空間のサービスを指したことに由来します。
2007年ごろにまるで一時話題沸騰になって使われなくなった音声SNSのクラブハウスのように盛り上がり、消えていったセカンドライフ(創業者がアドバイザーとして最近復帰しています)や、下層現実(VR)を楽しめるアプリ「VRチャット」、人気ゲーム「フォートナイト」など仮想空間のゲームで遊んだことがある方には想像しやすいかもしれません。2018年に公開された米映画の「レディ・プレイヤー1」もVRゲームがテーマでした。
しかし極端に言ってしまえば、今やほとんどのデジタルのゲームやコンテンツの体験はメタバースです。うがった見方をすれば、単なる「言葉遊び」として捉えることもできます。既存技術の進展を「ユビキタス」や「インターネット・オブ・シングス(IoT)」など、さまざまな言葉で表現したのと同じようなものです。
はやり言葉を「因数分解」
図表(画像参照)のグラフは公開されているグーグル検索での検索ワードのトレンドです。米国に比べて日本では一般的な技術関連の言葉と比較してメタバースの検索数が増えています。日本はもともと技術関連のマーケティングに弱い傾向があり、ほとんど日本でしか使われないGAFAといった言葉に翻弄されやすい傾向があります。米国ではこれらの企業を「ビッグテック(Big Tech)」などの名称で読んでいます。
はやり言葉を聞いたときに、対策として有効な思考実験は「因数分解」です。果たしてそれはどんな概念によって構成されているか、分解してみるのです。そうすると特定分野(特に技術の目利きに弱い業界、不動産など)の名称を冠した「何々テック」といわゆる言葉に、どれほど意味があるかをつかむことができます。
メタバースでいえば、「ハードウェアを含むインターフェースXコンテンツ(コミュニケーションを含む)という概念でしょう。高性能で、かつ使い心地が良く、価格もある程度抑えられたハードウェアが登場して、同時にわざわざスマートフォン以外で使ってみたいと思わせるコンテンツを提供できるかどうかにかかっていることが分かります。
いち早く市場を押さえた者が勝つ
このように世界の大手企業が続々とメタバース戦略の始動を本格化させていますが、火がついたきっかけはやはりフェイスブックでしょう。フェイスブックは21年10月に社名を「Meta(メタ)」に変更。メタバース事業を注力すると宣言したことで、投資家と世間の関心が一気に高まりました。
ただし、マーク・ザッカ―バーグ最高経営責任者(CEO)の発言を額面通りに受け取るべきではないでしょう。なぜなら社名変更の背景には、個人情報の不正利用やティーンエージャーへの悪影響、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いなど、内部告発で次々と判明したフェイスブックのネガティブな側面が浮き彫りにされたために、同社についたネガティブな印象を払拭したいという思惑が透けて見えるからです。
一方で、ザッカ―バーグCEOが進める「壮大なビジョンを真っ先に掲げ、そこへ向かって行く」という経営手法は、シリコンバレーの常とう手段でもあろます。どこよりも早く旗印を立てることで、そこに優れた開発者が集まってくるというメリットがあるからです。
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一方で、メタとは異なるメタバース戦略を進めていくだろうと予想されるのが、街中を歩いて遊ぶ人気ゲーム「ポケモンGO」を開発したナイアンティッウや、マイクロソフトです。
位置情報ゲームを手がけるナイアンティッウは、もともと創業者の息子がビデオゲームにばかり夢中で外に出ないため、外に連れ出すために、「歩いて冒険しよう(adventures on foot)」と打ち出したことが創業のきっかけでした。そのため没入感のある仮想空間とは、いわば逆の思想です。
同社はゲームの課金を少なくする工夫など、あくまで現実世界をベースにゲームの設計をARプラットフォームを構築しています。ARの分野に投資するファンド「ナイアンティッウベンチャーズ(Niantic Ventures)」を設立するなど、メタの方向性はディストピア(暗黒世界)の悪夢であると警告もしています。
マイクロソフトはまた別のアプローチを進めていました。これまで同社にとってのドル箱はビジネスソフトウェアの「Office」であり、多くの人が仕事でWordやExcel' PowerPoint' Teamsを使う時代を作り上げてきました。そしてマイクロソフトを復活させた立役者のサティア・ナデラCEOはソフトウェアとハードウェアの重要性を十分に理解しています。
ナデラCEOははソフトウェアだけでなくハードウェアにも投資すると同時に、勝負の鍵を握るのは中身に当たるコンテンツであると考えて、コンテンツ関連企業の買収を繰り返してきました。もちろん自社の定額制ゲームサービス「Xbox Game Pass」のユーザー会員数の増加という狙いもあるでしょう。
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仮想空間も現実世界も広範囲に攻めていくのが、今回の大型買収におけるマイクロソフトの狙いでしょう。買収先のアクティビジョン・ブリザードはセクハラなど相次ぐ不祥事をめぐって社内外から批判を浴びていましたが、社内にこうした問題があることを把握した上での決断だったのでしょう。
その意味では、ゲームや映像などのエンタメ分野において、人気のコンテンツや才能あるクリエーターを「いち早く押さえた者が勝つ」という動きは今後ますます過熱していくものと考えられます。TikTokを運営するバイトダンスやYouTubeも優位な位置にいますが、YouTubeは独自コンテンツの配信を縮小すると報道されています。
プロによる映像コンテンツでは米ネットフリックスもメタバースに関係してくる1社です。ネットフリックスはすでに映像コンテンツの枠を超えてゲーム事業にも進出していますし、いち早く韓国の映像スタジオに出資をし、言語の壁を越えてゴールデングローブ賞の助演男優賞を受賞する俳優を排出するようなコンテンツを世に送り出しています。日本は、サイバーエージェントが映画会社を買収してコンテンツ制作への参入を発表しています。
日本の優良コンテンツといえば「スタジオジブリ」もありますが、すでに世界向けの配信ではネットフリックスと提携しています。ジブリがビッグテック系の大手企業と提携をさらに進める可能性もないとはいえません。むしろ、可能性としては大いにあるでしょう。アニメーターやクリエーターを取り巻く過酷な労働環境や賃金の安さを考えれば、「提携を進めることで労働環境を改善して、世界中の視聴者に届けられるのならば、そちらのほうが望ましい」と考える現場スタッフは少なくないはずです。
勝負を決するであろう強力なコンテンツは、ゲームなのか映像体験なのか、それともビデオ会議に近いものなのか、まだ分かりません。米アップルなどのビッグテック企業の参加も報道される中、一時的なはやり言葉に惑わされず、それぞれの参入企業が着実に売上高の成長を実現しているかに注目しなければならないでしょう。