じじぃの「ヒ素中毒・薄幸の美女・病気になる正体とは?化学トリック」

The Deadly Trail of Arsenic Through the Ages

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=nI1wNoXZIkc

The Lady and the Arsenic, Heinemann, London, 1937


The Lady and the Arsenic

by Marjorie Bowen Writing as Joseph Shearing
https://gutenberg.net.au/ebooks14/1400041h.html

『化学トリック=だまされまいぞ! 化学推理クイズ』

山崎昶/著 ブルーバックス 2008年発行

トリック11 美女の呪い より

エヌ夫人は、久しぶりに大学時代の友人と逢っていた。友人は商社勤めの夫とパリで暮らしているのだが、体をこわして1人で日本に帰ってきたのだという。あちらではなにかずいぶん由緒ある立派なアパルトマンを借りて住んでいたらしい。なんでもナポレオン1世の大臣だった偉い人が建てた大邸宅の一部だったそうで、文化剤的な価値もあるから、あまり内部の造作を変えてはいけないと言われたとか、パリの町並みはナポレオン3世のころに大改造されたから、それ以前の家屋は大変に貴重らしい。

「でもね、気になることを聞かされたの」
「どんなこと?」
「このアパルトマンに住んでいると、その昔ここを建てた大臣の愛人で、嫉妬した奥さんに毒殺された美女の呪いがふりかかるんだって」
「まさか」
「でもね、たしかに私たちの前の借り主も、そのまた前の借り主もみんな奥さんだけが具合が悪くなったのよ。もう一代前の借り主のうじんはアメリカの人だったけど、原因不明の病気で亡くなったなんていうんだもの」
「へーえ。こわいわね」
「そしてとうとう私まで、具合が割る気なってきたのよ。だからダンナをおいて日本へ帰ってきちゃった。そうしたら日に日に体調が戻ってきたの。だから今度パリに戻ったら、別のアパルトマンを世話してもらって転宅するわ。やっぱり気持ちわるいもの」

というのだが、200年も昔の薄幸(はつこう)の美女の呪いなんてほんとうにあるのかな?

【解決編】佳人が次々と病気になる「呪い」の正体とは?

「200年前の薄幸の美女の呪い」というのは、オカルト好みの人たちには受けそうですが、じつはこれと同じようなケースの被害が以前にも報告されています。

ローマのアメリカ大使館は、やはり歴史のある古い宮殿を使っていたのですが、1950年ごろに駐伊大使を務めていたクレア・ブース・ルース女史が重いヒ素中毒になったのです。時期も時期でしたから、鉄のカーテンのかなたからの陰謀の結果(スパイに一服盛られたのかも?)ではないかと、表向きにはできないのでいろいろと探索されたのですが、じつはこの古い宮殿の壁紙に、ヒ素分を含む顔料が用いられていて、これが原因であることが何年も経ってからようやく判明しました。

問題のパリのアパルトマンは、ナポレオン1世のころだとするといまから2世紀ほど前の建築ということになります。当時のパリでは、スウェーデンのシェーレが18世紀も末ごろに発明した「シェーレグリーン」と呼ばれる鮮やかな緑色の顔料が愛用されていました。それまでよりも鮮明な緑色の絵の具や塗料に使えることで、たちまちパリの画家や家具商、建築家たちの採用するところとなりました。そのためか「パリ・グリーン」という別名(この音場はいまでも使われるようです)がついたぐらいです。

じつはこのシェーレグリーンは、亜ヒ酸銅と酢酸銅の複塩なのです。それまでの緑系統の顔料は、マラカイト(孔雀石)やアズライト(藍銅鉱)と呼ばれる塩基性炭酸銅が主でしたから、当時の画家(ミレーやドラクロワなど)は、この新しく市場に出た鮮明な緑色の絵の具に惹きつけられ、自分のパレットにすぐ採用しました。なかでも熱心なファンはナポレオン1世その人で、セントヘレナ島に流されたあとでも、自分の居室をこのシェーレグリーンの色に塗らせたというほどでした。

ところがこのシェーレグリーンには、銅とヒ素が含まれていますから、細菌などの繁殖には著しく不都合なはずなのですが、蓼(たで)食う虫も何とやら、これを分解して、毒性の強いアルシン(ヒ素水素)を放出するカビがいるのです。先ほどのルース大使がヒ素中毒になったのも、このシェーレグリーンを含む壁紙から発生するアルシンのためでした。
ナポレオン1世も、大西洋の孤島で湿潤な気候に悩まされたということですから、ひょっとしたら同じようなカビがつくり出すヒ素分(アルシン)を酔い込んでしまった結果、ヒ素中毒で健康を害したのかもしれません。
スウェーデンのさる医師がナポレオン1世の遺髪を手に入れて放射化分析でヒ素を検出し、「毒殺された可能性もある」と主張した(ヒ素や水銀などは髪の毛に濃縮される傾向があるのです)という話題が一時期マスコミをにぎわせましたが、当時の状況を考えるとそんなに簡単に結論できそうには思えないのです。

ナポレオン1世のころに建てられて、その後も室内の変更を最小限に留めるという条件で2世紀も経過したのなら、壁紙やその下張りにこのシェーレグリーンが使われていた可能性かなり大きいと思われますし、室内にこのようなカビが生息していることは十分に考えられます。ダンナ様はお仕事で外を飛び回っているとしても、奥様はほとんど終日家の中で暮らしているわけですから、ヒ素中毒になる可能性はかなり大きいですね。ほんとうに転居を考えられたほうがいいでしょう。

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どうでもいい、じじぃの日記。

『化学トリック=だまされまいぞ! 化学推理クイズ』という本に、「美女の呪い(ヒ素中毒)」のことが書かれていた。

「200年前の薄幸の美女の呪い」というのは、オカルト好みの人たちには受けそうですが、じつはこれと同じようなケースの被害が以前にも報告されています。

ヒ素の毒性が高いことは古くから知られており、古代ギリシア古代ローマ時代にすでに暗殺に使われていたとか。
日本でも、和歌山毒物カレー事件等のヒ素中毒事件が起きています。

ヒ素単体では毒性が弱いが、無水亜ヒ酸のような酸化物だと毒性が強く、重症の場合にはショック死を招くらしい。

しかし、有機ヒ素化合物であるサルバルサンは、ペニシリンが発見される以前は梅毒の治療薬として用いられていたとか。

「美女薄命」とは、一服もられた若い女性のことかもしれないなあ。

ついでに、
フグ毒は、毒性のプランクトンやヒジキやコンブを大量に摂ることで体内に取り込んでいるのだとか。