じじぃの「科学・芸術_542_呪われたダイヤ・ホープダイヤモンド」

The Extraordinary History of the Hope Diamond 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yOO5-RTTAF4
マリー・アントワネットのダイヤモンド

呪いの宝石 ホープ・ダイヤモンド 2016.7.20 びりおあ!
45.50カラットという規格外の大きさの、世界最大のブルーダイヤ「ホープ・ダイヤモンド」。
その美しい宝石の価値は、金額にして200憶円とも300憶円とも言われています。
https://believeitornot666.com/hope-diamond/
『宝石 欲望と錯覚の世界史』 エイジャー・レイデン/著、和田佐規子/訳 築地書館 2017年発行
獲得 歴史を動かすもの より
首飾りはその当時、ありとあらゆる流言をまき散らしたが、どこへ行ってしまったのだろうか。一体誰の手に? 首飾りについては、歴史の骨董品キャビネットの中に納まる時、さらなる華麗な神話が誕生した。数多くの宝飾品と同様に、マリー・アントワネットのダイヤモンドには呪いがかけられている。そう人々は喧伝してきた。その当時もその後も、彼女の宝石は本当にすべて呪われていたのだと、人々はすぐに信じ込んでしまった。彼らのせいではない。確かに血なまぐさい結末が彼女を待ち構えていた。しかし、他に多くの人も同じような結末を迎えている。
神秘的な力が本当にマリー・アントワネットの宝石にはあるのかもしれないと、なぜ人々はそんなにも簡単に信じてしまうのか。彼女の夫の宝石や、友人の、さらに厄介な彼女の前任者デュ・バリー非人の宝飾品に対してはそうはならない。「お菓子を食べさせればいい」と、実際に言った氷のように冷たい王女のことは誰も思い出す気配もないのだ。それなのに、行方不明になっているアントワネットのイヤリングの片方に、どこかで出くわしてしまうことを考えただけで、ガタガタ震えるとは。
それらのダイヤモンド(と彼女の他のたくさんのダイヤモンドも)が何かしら魔術的に染まっているとどうしてたやすく信じてしまうのか。
簡単な話だ。マリー・アントワネットは人間ではないのだ。彼女は象徴なのだ。実際に、彼女は今でも(巨大なダイヤモンドのすぐ後ろにいて)「多く持ちすぎていること」の究極の象徴なのだ。
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王家の宝石庫の中でも最も価値の高いものの1つが、フレンチ・ブルー・ダイヤモンドだった。巨大なサファイア・ブルーのダイヤモンドで、太陽光を受けると、かすかに怪しい赤色を帯びた光を放つと言われる。マリー・アントワネットのダイヤモンドのほとんどがそうだったように、これも呪われていたと言われる。17世紀中頃、一人のフランス人冒険家で宝石商人、ジャン・バティスト・タヴェルニエが、インディ・ジョーンズ張りに、ヒンドゥー教寺院に侵入したことが伝えられている。インドのジャングルの中である。彼は巨大な青いダイヤモンドをインドの大偶像神、おそらく破壊神シヴァの額の真ん中の第3の目からもぎ取ったのだろう。この神はくるくる旋回する踊りによってこの世を創造もするし、破壊もする。ポケットにこっそり隠されて、宝石はいったんタヴェルニエとともにフランスに帰り、そこでカットされ、研磨され、フランスの太陽王ルイ14世に売却される。ルイ14世はそれを精巧に作られた宝飾品のセンターピースにした。そしてこれは相続人に継承された。その最後がルイ16世マリー・アントワネットだったのである。
マリー・アントワネットはこのダイヤモンドをしばしば身につけたと言われている。
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そのダイヤモンドは何人もの所有者を経て、裕福なオランダの銀行家、ヘンリー・フィリップ・ホープのコレクションに入った。1823年、小さくなったフレンチ・ブルー・ダイヤモンドはホープダイヤモンドという名前で、初めて人の目に触れることになる。ホープはこの石を子孫に譲り渡したが、結果としては破産を回避するために処分せざるを得なくなる。窮地に陥ったホープの子孫から、1910年、ピエール・カルティエに売却され、宝石はパリに戻ってきた。ベーマーとバッサンジェと同様、カルティエもまた、ヨーロッパや東洋のエリート達の間に、この素晴らしい宝の買い手を見つけることはできなかった。
投資をあきらめて、カルティエはとうとうこのダイヤモンドを華やかなアメリカ人大富豪エヴェリン・ウォルシュ・マクリーンに売却した。パーティー好きの女の子がするように、エヴェリンは若い頃のマリー・アントワネットを誇りとした。ジャズ・エイジの真っただなか、彼女はノンストップでパーティーを催し、金を湯水のごとく使い、シャンパン風呂につかる直前まで行ったという。年越しのパーティーでは、階段の1番上から階下に集まった客をじろじろ見降ろしているところが目撃されたエヴェリンだが、ホープダイヤモンド以外には何も身につけていなかったとか。ペットの犬の首輪にまでこの石をつけたともいわれる。
ホープダイヤモンドは呪われていると彼女は警告を受けたが、笑い飛ばした。自分は呪いを集めていて、他の人々には不幸の印でも、自分にとっては幸運の印なのだと主張したものだった。不幸にも、彼女がこのダイヤモンドを購入して数年も経たないうちに、2人の子どものうちの1人はケンタッキー・ダービーで彼女がこの輝くダイヤモンドを身につけている間に熱病で亡くなった。残った娘は自殺、夫はやがてアルコール中毒に陥り、ギャンブルに溺れ、その後待っていたのは借金地獄だった。彼はほとんどすべての財産を失って、最後は精神病院で死亡。家族に対する彼女の悲しみも、豪勢な暮らしぶりが失われてしまった悲しみも、尽きることはなかった。薬物乱用者でもあったエヴェリンは「コカイン使用と肺炎の併発により」60歳で孤独死。ダークブルーのダイヤモンドに縋り付いていたという。
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ではマリー・アントワネットのダイヤモンドは呪われていたのか。おそらくは真に大きなダイヤモンドというのは全てそうなのかもしれない。それを所有しているか、隠しているか、あるいはそれを求める者に、不幸が起きることはさけられないようである。フランス革命を引き起こした首飾りについて言えば、ヴィレットは追放、ラ・モットは脱獄して、本も書いたようだが、間もなく、ロンドンで窓から自分で飛び降りたか、誰かに突き落とされたか。マリー・アントワネットとデュ・バリー夫人は両者ともギロチンの露と消え、宝石商達は破産。虐待された者は虐待する側になり、革命派軽率にもナポレオンを誕生させたのだった。
おそらく、結局のところ、真の呪いはただ1つ、貪欲さだ。