マスク氏の野望 ツイッター買収は通過点?
2023年に明白となるマスク氏の野望 ツイッター買収は通過点 土方細秩子
2023年1月6日 週刊エコノミスト Online
●衛星・ロボット・発電所
ツイッター騒動に隠れてそれほど騒がれなかったが、22年もテスラは次々に新しいビジネスに着手している。
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つまりテスラは関連会社も含めて、自動車製造販売を中核に「エネルギー」「インフラ」「通信」「AI(人工知能)・ロボティクス」「サービス・エンターテインメント…
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230117/se1/00m/020/021000c
日経プレミアシリーズ テックジャイアントと地政学
【目次】
プロローグ シリコンバレーとの往来から見えてきた日本の近未来
Part1 ChatGPTが与える衝撃
Part2 テクノロジーが変える地政学
Part3 曲がり角のテックジャイアント より
ツイッター買収騒動を読み解く 利益優先か社会性か
米ステラや米スペースX(space X)を率いるイーロン・マスク氏が、米ツイッター社に現金約400億ドル(約5兆円)という巨額の買収を提案しました。日本でいえば日立製作所や大手商社に近い時価総額ですが、この規模のプラットフォーム企業を個人が買収するというのは初めてのことです。なぜ個人でツイッター社の買収を試みたのでしょうか。
米証券取引委員会(SEC)の資料によると、マスク氏はツイッター社の株式を2022年1月から買い増し、4月4日に9.1%(3000億円)を保有する筆頭株主になりました。同氏は現在テスラなど約30兆円の時価総額の株式を保有しており、公開情報では世界一の富豪です。マスク氏はほかのSNSよりもツイッターを頻繁に使うことで有名ですが、マスク氏とツイッター社を取り巻くめまぐるしい流れを整理していきましょう。
遡るとマスク氏は新型コロナウイルスに関連するツイートについて、ツイッター社の偽除法や誤情報への対応に不満を表明していました。22年1月にはツイッター社がブロックチェーン技術を使って証明したデジタル資産であるNFTを利用するアイコンの機能導入について、「エンジニアのリソースの無駄遣いだ」と指摘し、同社の経営姿勢について疑問を呈していました。
マスク氏自身はブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)には期待を表明していますが、ブロックチェーンを活用した過度な「Web3」への熱狂には懐疑的な見方を示していました。これはツイッター社創業者のジャック・ドーシー氏に近い見解です。
マスク氏は22年3月25日に、「ツイッターは言論の自由の原則を守っていると思うか?」とツイッター上でアンケート投票を実施。回答者の70%が「いいえ」と答えたことで、ツイッター社が抱えている問題の一端を可視化させています。
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そして4月14日、マスク氏はついにツイッター社を完全買収することを提案。ツイッター社の株価は再び跳ね上がりましたが、15日の取締役会で買収防衛策の1つである「ポイズンピル」の導入を決めました。
マスク氏は「ツイッター社の株価54.2ドルでの非公開化は株主が決めることであり、取締役会ではない」「ジャック・ドーシー氏を除く取締役はほとんど株を保有しておらず、株主との利害が一致していない」「取締役会でこの提案が拒否された際には代替案もある」などのコメントをしています。
つまりマスク氏はツイッターのヘビーユーザーであるがゆえに、その潜在的な成長性を信じており、経営改革には現行の取締役の構成では不十分であると主張しているのです。
ツイッター、メタが大量解雇 テック企業の迷走に学ぶ
波乱万丈の展開で世間を騒がせていた米ツイッター買収劇ですが、イーロン・マスク氏による買収が完了した直後からさらなる混迷の展開を見せていました。22年のテクノロジー業界を激震させた一連の騒動を引き続き振り返ってみましょう。
マスク氏は22年4月にツイッターの筆頭株主となり、取締役に就任する予定になったものの、わずか数日後には就任を辞退しました。さらに数日後、マスク氏が申し出た買収提案にツイッター社側も合意したのに、22年5月には買収手続きを一時保留にすると発表。買収撤回は不当だとするツイッター社が提訴するなど双方による応酬を経て、22年10月27日にようやくマスク氏によるツイッター社の買収が完了しました。
その後も買収が成立した日のうちにマスク氏は最高経営責任者(CEO)のパラグ・アグラワル氏をはじめ取締役全員を一斉に解任しました。22年11月には上場廃止して全世界の従業員の約半数を解雇したうえに、リモート勤務の禁止や、ユーザーに提供するゆうりょうの公式アカウントのラベルの取り扱いなど、矢継ぎ早に大胆な改革に乗り出しました。
これらは世間の賛否両論を巻き起こしています。マスク氏本人も「多くのばかげたことを試し、うまくいかないものは取りやめる」とツイッターですでに宣誓しているように、ツイッターをめぐる騒動は続きました。
しかし「世界の最も正確な情報源になる」という新しいミッションを掲げて「倒産もありえる」と危機感も共有したうえで、スタートアップ企業のように泊まり込みも辞さないスピード感で意思決定をしてみせました。単なる場当たり的な実験ではなく、ミッションの方向性を見失わないようにしつつ、新たな経営戦略の模索につなげようとしていたのでしよう。