じじぃの「カオス・地球_315_LIFESPAN・第3章・老化は病気である」

カズレーザーと学ぶ5月7日<不老不死研究の最前線/若返り食材/改造T細胞/脳オルガノイド/アンスロボット/見逃し配信/再放送>2024年5月7日 LIVE FULL

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新たなフェーズに入った老化研究


新たなフェーズに入った老化研究

医学書
これまでは,個々の加齢性疾患に対して個別の治療法を確立する必要があったが,「老化」を共通の病因と見なすことで,同じ治療で多くの疾患をターゲットにすることができる。
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2023/3499_02

LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界

【目次】
はじめに――いつまでも若々しくありたいという願い
■第1部 私たちは何を知っているのか(過去)
第1章 老化の唯一の原因――原初のサバイバル回路
第2章 弾き方を忘れたピアニスト

第3章 万人を蝕(むしば)む見えざる病気

■第2部 私たちは何を学びつつあるのか(現在)
第4章 あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法
第5章 老化を治療する薬
第6章 若く健康な未来への躍進
第7章 医療におけるイノベーション
■第3部 私たちはどこへ行くのか(未来)
第8章 未来の世界はこうなる
第9章 私たちが築くべき未来
おわりに――世界を変える勇気をもとう

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『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』

デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント/著、梶山あゆみ/訳 東洋経済新報社 2020年発行

第3章 万人を蝕(むしば)む見えざる病気 より

老化を病気と認めれば老化との闘いには勝利できる

老化は身体の衰えをもたらす。
老化は生活の質を制限する。
老化は特定の病的異常を伴う。

これだけの特徴をすべて備えているのだから、1個の病気と呼ぶための基準に残らず合致しているかに思える。ところが、1つだけ満たしていない条件がある。影響を受ける人の数が多すぎるのだ。

『高齢者医療メルクマニュアル』(メディカルブックサービス)によると、病気とは、人口の半数未満がこうむる不調のことをいう。しかし、当然ながら老化は誰にでも訪れる。では、このマニュアルは老化をどう表現しているのか。いわく、「外傷、疾病、環境リスク、あるいは不健康な生活習慣の選択といった要因が存在しなくても、時とともに臓器の機能が不可避的かつ不可逆的に低下すること」。それが老化なのである。

がんにしろ、糖尿病にしろ、あるいは壊疽にしろ、それが不可避で不可逆だと発言するなんて、今なら想像もできないだろう。

でも私は知っている。昔は誰もがそう話していたものだ。
今挙げた病気にしても、老化と同様に自然なプロセスから生じた不具合といえる。だからといって、その病気が不可避で不可逆だなどとは思わないはずだ。受け入れるべきだという発想も、絶対に出てこないだろう。老化に対するマニュアルの考え方は間違っている。

しかし、過去を振り返ってみればわかるように、たとえ間違っているのが明らかでも、それまで通用していた物の見方は公共政策にいやでも悪しき影を落とす。一般的な病気の定義から外れているために、老化は私たちが築いてきたシステムに組み込みにくい。医学研究への助成金制度とも、薬剤開発のプロセスとも、保険会社による医療費補償の仕組みとも、うまくなじまないのである。言葉は重要だ。定義は重要だ。枠組みは重要だ。そして、老化をいい表わす言葉や言葉や定義や枠組みがどうなっているかといえば、「避けて通れないもの」という一点に尽きる。闘いが始まる前にタオルを投げ込むどころではない。闘いがあるのも知らないうちからタオルを投げ入れている。

だが、闘いは現に存在する。栄光ある、世界規模の闘いが、そしてそれは、勝利できる闘いでもあると私は考えている。

人口の49.9%に起きるのが病気で、50.1%が経験するものは病気じゃないなんて、そんなおかしな理屈があるだろうか。こんな検討違いの方向からアプローチしているから、世界中の病院や研究センターがモグラ叩き式の医療に走る現状が生まれているのだ。

今の私たちは、一部の人にだけ関係する問題にわざわざ焦点を当てている。しかし、あらゆる人を悩ませる問題に対処できるとしたらどうだろうか。しかも、それに取り込むことで、ほかのこまごまとした問題すべてに大きな変化をもたらせるとしたら?

私たちはそれができるのだ。
老化は1個の病気である。私はそう確信している。その病気は治療可能であり、私たちが生きて生きているあいだに治せるようになると信じている。そうなれば、人間の健康に対する私たちの見方は根底からくつがえるだろう。

「老化の情報理論」から始まる老化との闘い

老化を病気と呼ぶのは、健康や幸福に関する一般的な見方から大きく逸脱することを意味する。それは私も認める。これまでは旧来の見方を根本に据えて、致死性の疾患に対する様々な治療法が確立されてきた。しかし、そもそもそんな枠組みになったのは、老化の原因が突き止められていなかったからという理由が大きい。だからつい最近になるまで、私たちの武器は「老化の典型的特徴」を並べたリストがせいぜいだった。「老化の情報理論」ならこの状況を変えることができる。

治療の指針とするために、老化の典型的特徴を利用するのが悪いわけではない。その特徴に1つ1つ取り組んでいけば、たぶん私たちの暮らしにプラスの変化をもたらせるだろう。

テロメアが短縮しにくくなる処置をすることで、長期にわたって健康状態と幸福感を高められるかもしれない。タンパク質の恒常性を維持し、栄養状態の感知メカニズムが劣化するのを阻み、ミトコンドリアの機能不全を回避し、細胞の老化を食い止め、幹細胞を若返らせ、炎症を減らす。

こうしたことにはいずれも、避けがたいものを遅らせる効果があると見られている。現に私自身、個々の解決策を開発している世界中の研究者と手を携えているし、これからもそれを続けたいと考えている。苦しみを和らげるためなら、できることは何でもやったほうがいい。

だがそれは、やはり9つの支流に9つのダムを築いているのと同じだ。
2010年の王立協会の会合で、出席者たちはこの闘いを「老化の新しい科学」と名づけた。一致団結して闘っていくうえでは、上流に向かうことにこそ可能性と未来がある。そう気づき始めた科学者はしだいに数を増してきている。

力を合わせれば、私たちはたった1個のダムを築くことができる。しかも、水源に。問題が起きたときにだけ介入するのではない。ただ進行を遅らせるだけでもない。老化に伴う様々な症状を一気に消し去ればいい。

これは、治療できる病気なのだ。