じじぃの「科学・地球_538_なぜ宇宙は存在するのか・炭素、窒素、酸素の誕生」

宇宙進化と元素合成、魔法数

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_SDaiu7k_VU

それぞれの原子核が時間とともに合成されていく様子


宇宙物理学  ビッグバン元素合成

星空が好き、猫も好き
●ビッグバン元素合成
ビッグバン合成における原子核質量比の時間変化を示す。

宇宙が始まってから100秒ほどが経過すると、ビッグバン元素合成がいよいよ本格的に始まる。
最初はほぼ陽子(H)と中性子(n)しかないが、徐々に重水素(D)がつくられ、次にヘリウム4,3重水素,ヘリウム3がつくられていく。
3分前後が経過したとき、ビッグバン元素合成が大きく進む。
温度がおよそ0.1MeVにまで下がったときに、重水素(D)の存在比が急激に大きくなる。
そして、それに伴って、以下のような一連の原子核反応でヘリウム4がつくられる。
http://kai-kuu.jugem.jp/?eid=2601

なぜ宇宙は存在するのか――はじめての現代宇宙論

【目次】
第1章 現在の宇宙

第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」

第3章 ビッグバン宇宙2――宇宙開闢約0.1秒後「以前」
第4章 インフレーション理論
第5章 私たちの住むこの宇宙が、よくできすぎているのはなぜか
第6章 無数の異なる宇宙たち――「マルチバース

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『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論

野村泰紀/著 ブルーバックス 2022年発行

第2章 ビッグバン宇宙1――宇宙開闢約0.1秒後「以降」 より

宇宙誕生後約1分から10分のでき事

図2-1(宇宙のエネルギー密度の時間変化を大まかに表した図)で示したように、誕生後約5万年、温度にして約1万度の時点以前の宇宙は放射優勢の時代でした。その時代においては、光子とニュートリノが放射として宇宙のエネルギー密度の大部分を占めており、その中に原子核や電子が少量存在していました。そして、この原子核や電子の全宇宙のエネルギー密度に占める割合は、宇宙の年齢が若い時ほど少なかったのです。

このような初期の宇宙で起こった大きな事象として、何が考えられるでしょうか?
これを知るために理論を用いて時間を遡っていくと、宇宙誕生後約1分から10分にかけて極めて重要なでき事が起こったことがわかります。それは(陽子そのものである水素以外の)原子核が宇宙で初めて合成されたというでき事です。

第1章で述べたように、原子核は陽子と中性子から成り立っています。陽子と中性子はほぼ同じ質量(電子の約1840倍の質量)を持ちますが、より詳細に見ると中性子は陽子より少し(電子の質量の2.5倍ほど)重いのです。そのため、真空中に単体で置かれた中性子は、15分ほどで陽子と電子およびニュートリノ反粒子である反ニュートリノに崩壊してしまいます。反粒子については後ほどより詳しく述べようと思います。
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さて、これらの原子核は、陽子そのものである1Hを覗いて、宇宙誕生後約0.1秒以前、温度にして3x1010度以上の超初期の宇宙にはほとんど存在しませんでした。そのような超高温では陽子や中性子は非常に高いエネルギーの光子の衝突にさらされるため、原子核の形にまとまることができないからです。さらにこのような高温では、陽子、中性子間の質量の差は温度に比べて無視できるため、陽子と中性子は電子やニュートリノなどの吸収や放出を通して自由に入れ替わることができました。そしてこの入れ替わるにより、陽子と中性子の数(正確に言うと数密度)はほぼ同じになっていました。

しかし、温度が下がってくると、中性子が陽子より少し重いという事実が無視できなくなり、陽子と中性子の数の均衡が崩れてきます。そして、温度が1010度より少し下がったあたりで入れ替わりのプロセスが効かなくなり、その時点での中性子と陽子の数の比(中性子1に対し陽子6)が固定されることになります。より正確には、これ以降に中性子が陽子に崩壊する効果等を考えると、この比は最終的に1対7くらいになります。このようにして残った陽子と中性子が結びつくことで、原子核が合成されるのです。

この原子核の合成は、宇宙誕生後およそ1分から10分の間に起こり、その様子は正確に計算することができます。図2-8(画像参照)に、様々な原子核が時間とともにどのように合成されてきたのかを示します(図中の、p、n、Dはそれぞれ陽子、中性子重水素を表します)。
この図の詳細は実際に計算しないとわからないのですが、宇宙に存在する2大元素である水素とヘリウムの比に関して、先に与えられた中性子と陽子の数の比、1対7を使って1つの大まかな値を導くことはできます。

炭素、窒素、酸素はいつ作られたのか

ちなみに、私たち自身を構成する炭素、窒素、酸素、および金属等を含むより重い元素は、ビッグバン原子核合成ではほとんど作られません。これは、ヘリウム4と水素、およびヘリウム4同士が衝突したときに作られるはずの、質量数(陽子と中性子を合わせた数)が5と8の原子核が十分に強い結合の形で存在しないことによります。そのため、初期宇宙の原子核合成では質量数が7より大きい原子核はほとんど作られません。

これら炭素、窒素、酸素等の見慣れた元素は、より後の時代に恒星が誕生してから、その内部の核反応により作られたものです。これは、星の中心部では物質の密度が非常に高いため、ビッグバン原子核合成ではほとんど起こらなかった3つのヘリウム4が同時に反応するプロセスが起こり得るためです。そのため質量数8の「バリア」を超えることができます。実際に、初期の第1世代と呼ばれる恒星にはこれらの元素はほとんど含まれていないことがわかっています。

私たちの太陽は、これら第1世代の恒星がその寿命を爆発により終えた後、そこから吹き飛ばされたガスを基に今から50億年ほど前に誕生した第2世代、もしくは第3世代の星です。そのため、地球を含む太陽系の惑星にはこれらの重い元素が十分に含まれます。そして、これらの元素は地球やそこに生きる生命の体を構成しています。

つまり、私たちの体は大昔の星の残骸でできているのです!