じじぃの「科学・地球_02_炭素物語・散らばり続ける炭素」

重元素合成の過程をRIBFで検証する新時代が到来

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=zDTprEKtBEI

125億光年彼方の銀河に炭素を発見

炭素はいつ生まれたか?125億光年彼方の銀河に炭素を発見

2011年10月6日 京都大学
●炭素はいつ生まれたか?125億光年彼方の銀河に炭素を発見
松岡健太 理学研究科/愛媛大学理工学研究科 日本学術振興会特別研究員、長尾透 次世代研究者育成センター(白眉プロジェクト)准教授、谷口義明 愛媛大学宇宙進化研究センター長/教授を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置FOCASを用いた可視分光観測によって、125億光年彼方にある最遠方電波銀河TN J0924-2201から放射された炭素輝線の検出に世界で初めて成功しました。検出された輝線を調査したところ、驚くべきことに宇宙誕生後10億年頃の電波銀河には既に炭素元素が豊富に存在していたことがわかりました。
元素が宇宙の歴史の中でいつ、どのように生成されてきたのかという問題は未だに解き明かされていません。今回の結果は宇宙の化学進化を理解する上で非常に重要な成果であるとともに、生命の基本構成元素である炭素がいつ生成されたのか、すなわち生命の究極的なルーツを知る手掛かりになるかもしれません。
なお、この研究成果は、2011年8月発行のアストロノミーアンドアストロフィジクス誌に掲載されました。
https://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2011/111006_1.htm

交響曲第6番「炭素物語」――地球と生命の進化を導く元素』

ロバート・M・ヘイゼン/著、渡辺正/訳 化学同人 2020年発行

「土」――深部の炭素 より

ビッグバンから3~20分後は、想像を超す騒乱状況だった。凶暴な力が核どうしをぶつかり合わせ、新しい原子を生んでいく。陽子と中性子が衝突するたびにジュウテリウムとヘリウムもできる。核反応の一部では、とりわけ「冷えた」終期なら、大きな核のぶつかり合いが陽子と中性子を集合させ、リチウムより重い核もできただろう。
2007年にイタリアの天文学者ファビオ・イオッコらは、100種以上の核反応を考えた計算の結果を発表する。それまで、一部の核反応は無視されてきた。あまり進みそうもなく、スパコンの高い使用料に見合わないからふだ。だが、反応の全部を考えて計算すると、炭素(6番)も窒素(7番)も酸素(8番)も少しはできる。以後の宇宙進化に影響する量ではないものの、とにかく炭素はできた。計算の結果、できた炭素12の原子は、水素原子4500兆個あたり1個だという。それほど少ないためイオッコらも、初期の星々は「無金属の環境」で進化したものとみる(天文学者は、ヘリウムより重い元素をふつう「金属」と呼ぶ)。つまりビッグバンがつくった炭素は「実質的にゼロ」とみてよい。
だが完璧な「ゼロ個」ではない。ビッグバンで生まれた水素原子は少なくとも10の80乗個だという。同時にできた炭素原子の4500兆分の1」だとしても実数は大きく、10の64乗個より多い。総重量は宇宙全体のごく一部にすぎず、宇宙にある炭素原子の約1兆分の1でも、とにかくまったくのゼロではない。
10の64乗個の炭素原子は、いまどこにあるのか? 一部は初期の星に組み込まれ、星の中心で進む核融合反応に加わり、重い元素になったはず。ほかはちりやガスの形で宇宙にばらまかれ、地球の成分にもなった。

散らばり続ける炭素

130億年以上も前、宇宙誕生から数百万年たったころ、岩の惑星も生命も気配すらない宇宙空間で、最初の恒星が輝き始める。虚空に渦巻く水素とヘリウム(ビッグバンの産物)の雲が重力で集合し、どんどん大きくなって恒星の第1号になった。
恒星は化学進化を駆動する。中心部の超高温・高圧が水素からヘリウムへの核融合を促し、ヘリウムの核3個から炭素をつくる。歩みはいくら遅くても、時間はたっぷりとあった。炭素は徐々に増え、やがて宇宙で4番目に多い元素となる(3番目は酸素)。いまの宇宙には、およそ1000個の水素原子あたり1個の炭素原子がある。
宇宙誕生から数百万年のうち、増えていく炭素も、星の中心部に封じられていた。核の一部は融合し、さらに重い酸素(生物の元素)やケイ素(岩の元素)、鉄(産業の元素)などのなる。数百万年のうち、恒星内部の対流がそんな元素を表面近くへと運び、炭素原子の一部は太陽風に乗って星を離れ、星かもつ強い磁場の働きで宇宙空間に飛ばされた。宇宙の「炭素化」が始まったといえよう。

宇宙空間に向けた炭素の盛大な「種まき」は、巨星が寿命を終えるときに起こる。膨大な物質をばらまく、すさまじい超新星(スーパーノバ)爆発だ。

巨大な星が吹き飛んで、宇宙空間に散らばっていく。爆発の根元には、質量を中心に向けて引く重力と、同じ質量を外向きに押す核融合エネルギーのせめぎ合いがある。
    
並サイズ恒星の太陽で、中心部で生まれる元素の最終産物は炭素になる。ヘリウムが底を突いて核融合が終ると、重力が「100億年戦争」に勝つ結果、サイズが100分の1以下(地球くらい)で炭素の多い「白色矮星」に変わる。ゆっくり冷えて縮んだあと、できた炭素の大半は宇宙にいつまでも浮かぶ。虚空に浮かぶダイヤだといえようか。
太陽より大きい星だと、中心部の温度と圧力が高く、炭素12がさらにヘリウム核と融合して酸素16、ネオン20、マグネシウム24などの核になっていく。核融合のだすエネリギーが、内向きの重力を跳ね返す。核融合反応は加速を続け、星の輝きが増す。そして行き着く先は26番元素の鉄56となる(陽子や中性子を足しても引いても、鉄56より不安定化する)。恒星の中心が鉄だらけになったころ、外向きの「押し」は消え、内向きの重力だけが残る。
すると星は「爆縮」に転じる。水素、ヘリウム、炭素などの核が中心へ向かい、光速の数分の1まで加速される。全体がつぶれようとするカオス状況のもと、ビッグバン以来の超高温・超高圧になる。核たちは激しくぶつかり合って融合し、陽子と中性子の結びつきが進む結果、周期表に並ぶ元素の半分以上ができる。やがて「爆縮」は外向きの爆発に転じ(星が一生を終える超新星爆発)、とりどりの新しい元素が宇宙に飛び散っていく。
    
第1世代の超新星が宇宙に新しい元素をばらまいたからこそ、地球のような岩石惑星も生まれ、恒星のまわりを回るようになった。恒星もいずれ爆発し、重い元素あれこれを生み、次世代の惑星形成を促し、新しい恒星の誕生をも助ける。そうした壮大で激しい元素の合成と分散のサイクルが、いまなお宇宙のあちこちで続いている。
私たちの太陽系は、130億年以上に及ぶ星の「誕生~死サイクル」の産物だから、さまざまなものの素材になる炭素をたっぷりと含む。