じじぃの「科学・地球_495_温度から見た宇宙・生命・水素とヘリウム」

実は風船だけじゃない『ヘリウム』!“不足の危機”は医療や電子機器にも影響...「希少な天然資源」の背景にアメリカ?(2020年2月4日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Plu-5pPXgmw


ヘリウムが入手できない!JAXAなど研究機関が“悲鳴”

2019年06月07日 ニュースイッチ
冷やすと電気抵抗がゼロになる超電導材料の低温研究から、医療機器や半導体製造まで、幅広く使われているヘリウムの調達が難しくなっている。
産業向けが優先され、後回しになりがちな研究機関は悲鳴を上げる。その中で大規模ユーザーの東京大学物性研究所は、使用分の9割以上を回収・再生する設備を持つ。ヘリウムを使用後に大気放出している企業に対し、研究所がリサイクルを手伝うことで“ヘリウム危機”を乗り越えられないか、検討に入った。
https://newswitch.jp/p/17928

『温度から見た宇宙・物質・生命――ビッグバンから絶対零度の世界まで』

ジノ・セグレ/著、桜井邦朋/訳 ブルーバックス 2004年発行

第5章 太陽からのメッセージ より

基本の元素:水素とヘリウム

宇宙初期の物語は、空間の拡大、時間の経過、または、温度の低下を用いて語っていくことができる。即ち、定規、時計、そして温度計である。私たちの宇宙では、これら3つの量は同じ物語を語ってくれる。空間は時間の経過に応じて広がっていくし、それにつれて温度も下がっていく。これら3つのうちどれか1つだけ用いればよいのだが、宇宙論者はよく温度を好んで使う。
この50年間で最も影響力の大きい理論物理学者の1人であるノーベル物理学受賞者のスティーブン・ワインバーグは長い間わたって宇宙論に関心を抱いている。1976年に、彼はすばらしい一般向けの本を書いた。この本は、宇宙の最初の3分間における温度を時間の順序でたどり、多くの偉大な科学者の業績を記したものである。『宇宙創生はじめの3分間』に記された温度の年代記は、1000度Kから始まっている。
  この時の宇宙は、それ以降二度とないほど単純かつ記述の容易なものだった。宇宙は分化していない物質と放射の混合物で満たされており、粒子同士は互いに非常に激しく衝突し合っていた。このようにして、急速に膨張していたにもかかわらず、宇宙はほぼ完全な熱平衡の状態にあった。

ビッグバンから100分の1秒後には、宇宙の中性子と陽子の数は同じであった。もし中性子と陽子の間に約2000分の1という小さな質量の差がなく、自由中性子が崩壊することもなかったとしたら、中性子の数と陽子の数とは、今でも同じだったであろう。私たちの知る限り陽子は永久に存在するが、中性子は永久には存在しない。1934年のフェルミニュートリノ理論によれば、中性子は核内にしっかりt閉じこめられていなければ、陽子、電子、それにニュートリノに崩壊してしまう。中性子は、一度核内に入ってしまうと、放射性核という稀な場合を除けば永久に存続する性質をもつようになる。
初期の中性子は、ほとんどすべて陽子と2対2で結合し、非常に安定したヘリウム核を形成する。だが、宇宙が十分に冷えていなかったため、ヘリウム核は生成したそばから放射によってばらばらにされ、中性子と陽子は結合できなかった。ヘリウム核が生成し始めたのは、宇宙誕生後およそ4分ほどであった。この時、温度は10億度Kにまで下がっていた、この時、水素核とヘリウム核の存在比が、おおよそ10対1に決まった。
水素とヘリウム原子はそれから数十万年後に形成されたが、この時、宇宙の温度は3000Kにまで下がっていた。原子核が数十億Kで形成され、原子が数千Kで形成された理由は、極めて簡単である。それは、熱平衡状態における放射のもつエネルギーと密度は、温度によぅて決まるからである。初期の物質と放射の混合体が熱すぎれば、生成してくるすべての構造物を放射がぶちこわしてしまうのである。
より強い力で結びついてできた核は、10億度Kの破壊力にも抵抗したのである。ずっと弱い、電子と核の間の電気的な引力によって形を保つ原子は、ずっと後になって現れた。ビッグバンから約30万年後に原子が形成された時点が、宇宙で目に見える物質が熱平衡にあった最後の時である。即ち、宇宙が1つの温度で完全に記述できた最後の時である。
10億年後には、物質密度の小さな揺らぎが大きな物質集団へと成長し始めた。水素とヘリウムの雲が形成され、同じく水素とヘリウムからなる星々が、これらの雲の中心に出現した。大きな星々はその中心核で重い原子核を創成し、その後爆発し、新しい星へと生まれ変わる物質を星間空間へとばらまいた。
それでも、宇宙は主として水素とヘリウムで構成されている。太陽の化学組成を見てみよう。

150億年の宇宙の歴史の中で、太陽は50億歳と比較的若いのにもかかわらず、その化学組成は91%が水素、9%がヘリウムで、その比はやはり10対1なのである。ほかの元素は全部合わせても1%にも満たない。

一方、地球は超新星爆発の灰から生まれた。天空に新しい超新星爆発を見たティコ・ブラーエとイアン・シュルトンは、実はずっと以前に生じた超新星の燃えかすの上に立っていたのである。地球の中心核は、鉄と鉄ニッケル合金との混合体である。これら鉄やニッケルは、かつて大質量星の中心核に存在していたものなのだ。ある日、太陽が膨張する赤色巨星へと変わった時、私たちの地球は再び灰に変わってしまうのであろう。
これが、1000億Kから数千Kにまでわたるおおよその宇宙の温度の年代記である。だが、これを証明するものが何かあるだろうか。証拠は2つある。1つは、宇宙の水素とヘリウムの存在比が、宇宙はかつては熱かったという理論から予測される値と一致するということである。もう1つより直接的な証拠が、1964年に発見された。これは宇宙論を永久に変えてしまった。

備考.
1964年、ベル研究所のアルノー・ペンジーアスとロバート・ウィルソンは、電波天文学のために口径15メートルの超高感度低温マイクロ波アンテナ(ホーンアンテナ)を設置している最中に、正体不明の電波ノイズに悩まされていた。
ノイズの強度は天の川銀河の放射より強いものであったため、当初、2人は地上の雑音源からの干渉を受けていると考え、すべての雑音源を特定し、ついに、このノイズが宇宙マイクロ波背景放射(CMB)であることを発見した。
2人は、1978年にノーベル物理学賞を受賞した。