じじぃの「カオス・地球_322_LIFESPAN・第6章・山中因子・老化のリセット・スイッチ」

カズレーザーと学ぶ5月7日<不老不死研究の最前線/若返り食材/改造T細胞/脳オルガノイド/アンスロボット/見逃し配信/再放送>2024年5月7日 LIVE FULL

動画 tver.jp
https://tver.jp/episodes/ep7dnw9pa1

次世代リプログラミング iPS細胞


次世代リプログラミング因子KLF4改変体の開発

2021年12月15日 理化学研究所
今回、共同研究グループは、iPS細胞作製の際に必要なリプログラミング因子の一つであるKLF4タンパク質において、DNAと直接相互作用するアミノ酸残基の改変体を多数作製しました。
その中から「KLF4 L507A改変体(ヒトKLF4の507番目のアミノ酸残基ロイシンをアラニンに置換したもの)」を用いてiPS細胞を作製したところ、迅速、かつ高効率で、高品質なiPS細胞株を樹立できることが分かりました。
https://www.riken.jp/press/2021/20211215_1/index.html

LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界

【目次】
はじめに――いつまでも若々しくありたいという願い
■第1部 私たちは何を知っているのか(過去)
第1章 老化の唯一の原因――原初のサバイバル回路
第2章 弾き方を忘れたピアニスト
第3章 万人を蝕(むしば)む見えざる病気
■第2部 私たちは何を学びつつあるのか(現在)
第4章 あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法
第5章 老化を治療する薬

第6章 若く健康な未来への躍進

第7章 医療におけるイノベーション
■第3部 私たちはどこへ行くのか(未来)
第8章 未来の世界はこうなる
第9章 私たちが築くべき未来
おわりに――世界を変える勇気をもとう

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『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』

デビッド・A・シンクレア、マシュー・D・ラプラント/著、梶山あゆみ/訳 東洋経済新報社 2020年発行

第6章 若く健康な未来への躍進 より

山中伸弥が突き止めた老化のリセット・スイッチ

2006年、日本の幹細胞研究者である山中伸弥は、世界に向けて重大な発表を行なった。遺伝子の組み合わせをいくつも試した結果、4つの遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc)が成熟細胞を「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」に変えることを発見したというのである。
iPS細胞は未成熟な細胞であり、誘導すればどんな種類の細胞にも変身できる。4つの遺伝子からつくられるのは、転写因子という種類の強力なタンパク質だ。4つの転写因子は、それぞれが別の遺伝子群を制御しており、その遺伝子群は、胚の発生時にウォディントンの「地形」のなかで細胞をあちこちに動かす働きをしている。4つの遺伝子は、チンパンジー、サル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ニワトリ、魚、カエルなど、ほとんどの多細胞生物で存在が確認されている。要するに山中は、細胞を若返らせることが培養皿の中でできるのを示したわけだ。この発見により、山中はジョン・ガードンと共に2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。今では、この4つの遺伝子は「山中因子」と呼ばれている。

一見すると山中のしたことは、気の利いた実験室芸にすぎないように思えるかもしれない。だが、老化との関係はじつに深い。その理由としては、山中のおかげでありとあらゆる血液細胞や、臓器や組織を移植用に培養できるようになるから、というのももちろんある。だが、それだけではない。

山中が突き止めたものは、ガードンの実験でオタマジャクシを生むことができたリセットのスイッチだ。つまり、生物の世界における「訂正装置」だと私は考えている。

この種のリセットのスイッチを用いれば、人の細胞を培養皿で初期化できるだけでなく、全身のエピゲノムの「地形」を初期状態に戻すことができるはずだ。私はそう予想しているし、教え子たちもそれを実証すべく取り組んでいる。それは、「ビー玉」を本来あるべき谷に戻すことであり、たとえばサーチュインを当初の持ち場に返すことでもある。そうすれば、老化の過程でアイデンティティを失った細胞は元の姿を回復する。これこそが、私たちの探し求めてきたDVDの研磨剤だ。

未来の私たちが享受しうる夢の若返り治療薬

未来の私たちが30歳になったら、特別な遺伝子操作を施したアデノ随伴ウイルス(AAV)の注射を1週間のあいだに3回受ける。これを打っても、ごく軽微な免疫反応しか引き起こされない。インフルエンザワクチンを打ったときより弱いくらいだ。このウイルスは1960年代から科学者のあいだで知らされており、増殖したり病気の原因になったりしないように改良されてきた。未来のAAVが運ぶのは少数の遺伝子である。おそらくは山中因子をいくつか組み合わせたものに、確実に作動するスイッチ役の遺伝子を付加したものになるだろう。このスイッチは、体への負担の少ない何らかの化学物質を体内に取り込んだときに「オン」になるよう設計されていて、ほかの遺伝子を活性化させる役割をもつ。この目的でよく使われる化学物質の1つがドキシサイクリンだ。これは抗生物質の一種で、錠剤として服用できるので楽だし、しかも完全に不活性化したものが使用されるので安心だ。

AAVの注射を受けた時点では、私たちの遺伝子の機能には何の変化が起こらない。しかし、たぶん40代半ばくらいになって老化の気配が忍びよってきたり、その影響が目に見えるようになったりしたら、ドキシサイクリンを処方してもらって1ヵ月間服用する。これによって、リプログラミング遺伝子のスイッチが入るわけだ。

服用中は、自宅のバイオトラッキング装置(次章参照)に血液を1滴落とすか、病院で血液検査をしてもらう。これは、リプログラミング・システムが期待通りに機能しているかどうかを確かめるためである。だが、することといえばそれくらいなものだ。服用が終わったら、体は1ヵ月かけて若返りのプロセスをたどっていく。ウォディントンの「ビー玉」は、若かりし頃にあった本来の場所に戻される。
白髪は消え、傷の治りが早くなる。しわは目立たなくなり、各器官の機能が甦る。頭の回転も速くなり、高い音が聞こえ、メニューを読むのにもはやメガネはいらない。体は再び若々しく感じられるようになる。

きっとベンジャミン・バトンさながらに、35歳に戻ったような気がするだろう。それから30歳に、やがて25歳に。

ただしベンジャミン・バトンとは違って、そのあたりが若返りの終点だ。薬の服用はそこで中止される。AAVは活動をやめ、山中因子も休止する。こうして、生物学的にも、肉体てきにも、精神的にも数十年若返るが、知識や知恵や記憶はすべてそのまま保たれる。

若返るのは見た目だけではない。実際に若くなる。だからその先も数十年のあいだ、中年特有の痛みやつらさに悩まされることがない。また、がんや心臓病になったらどうしようと思い煩うこともない。やがて数十年が経ち、再びあの白髪が現われだしたら、スイッチをオンにするにする薬をまた始める。
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とはいえ、山中因子を用いる処置は有害性が非常に高い。ベルモンティの研究で、マウスにドキシサイクリンを投与する日数を増やしたところ、マウスは死んでしまった。セラーノの研究でも、ウォディントンの「地形」のなかで「ビー玉」を高く押し上げすぎると、奇形腫が発生することが確認されている(奇形腫とは、見るも不快な腫瘍の一種で、毛、筋肉、骨など複数種の組織でできている)。この技術がまだ実用化の段階にないのは間違いない。少なくとも今はまだ。しかし、ゴールは直実に近づいている。いずれは「ビー玉」を安全にコントロールして、元いた場所に確実に戻せるようになる。がんの発生を誘発しかねない山の頂上には、「ビー玉」を置かないようにできる日も来る。

一方、私の研究室ではICEマウス(エピゲノムを変化させることで老化が進んだのと同じ状態にしたマウス)実験の成功を受け、今度はエピゲノムの老化を遅らせて逆転させる方法を探し求めていた。すでに様々な方法を試していた。Notchタンパク質、Wntタンパク質、4つの山中因子、多少の効果を示したものもいくつかあったものの、ほとんどは腫瘍細胞ができる結果に終わっていた。