【物理】原子【第5講】放射性崩壊・半減期
用語解説 - 排出放射性物質影響調査について
●ラドン
ラドンは元素番号86番の元素でウラン系列やトリウム系列、アクチニウム系列の中の一つであり、気体(ガス状)の放射性物質であるという特徴があります。また単にラドンと言った場合はウラン系列のラドン222(222Rn)を指すこともあり、トリウム系列のラドン220(220Rn)をトロン、アクチニウム系列のラドン219(219Rn)をアクチノンと呼んで区別することもあります。
https://www.aomori-hb.jp/ahb4_5_8_04.html
Ⅵ 原子核のしくみ より
放射能とは何ですか
原子核は不安定な状態にあると、自発的に(ある一定の半減期で)もっと安定した別のものに変わる。これが放射能を持つということである。原子核の存在が知られる前から、この性質は放射能と呼ばれてきた。
19世紀末、アーネスト・ラザフォードやマリー・キュリーなどの科学者が、ある一部の重い元素から自発的に「放射」が発せられていることに気づく。最初はその放射の性質について詳しいことが何もわかっていなかったため、ラザフォードは最初に発見した2種類の放射線それぞれに、ギリシャアルファベットの最初の2文字をとって「アルファ線」「ベータ線」という呼び名をつけた。それからまもなく、フランス人化学者のポール・ユルリッシュ・ヴィラールが3種類目の放射線を発見した。前例にしたがって、この放射線はギリシャアルファベットの3番目の文字から、「ガンマ線」と名づけられた(訳注:命名者は、ガンマ線を初めて論文で報告したラザフォードで、発見自体もヴィラールよりラザフォードのほうが早かったという説もある)。ほどなくして、科学者はこれらの「光線」の正体をつきとめる。アルファ線はヘリウムの原子核、つまり2個の陽子と2個の中性子が結合したもので、これは現在でも「アルファ粒子」と呼ばれている。ベータ線の正体は電子で、これも場合によっては、いまも「ベータ粒子」と呼ばれている。そしてガンマ線の正体は電磁放射で、現在では、高エネルギーの光子であることがわかっている(これもやはり「ガンマ粒子」と呼ばれる)。
アルファ崩壊とベータ崩壊には「変換」がともなう。つまり崩壊の前後で元素の種類が変わるのである。一方、ガンマ崩壊では元素は変わらない。これは単に原子核内のエネルギー状態が高いほうから低いほうへと量子飛躍しているだけで、原子内電子の量子飛躍と同じような現象だ。ただし、エネルギーの変化ははるかに大きく、原子内電子の場合に比べて100万倍もの差がある。
このような放射性崩壊はなぜ起こるのだろう。それが起こるとどうなるのか。アルファ崩壊とベータ崩壊を例として順に説明していこう。
アルファ崩壊はほぼ例外なく、83番目以降の非常に重い元素だけで起こる。これはまさに原子核が陽子を放り出すための一手段であり、だから周期表で言うと、原子核内の陽子の斥力が原子核を不安定にさせるぎりぎりのあたりに位置する元素で起こるのである。
ここで、E=mc2がとても興味深い役割を果たす。陽子が多すぎる原子核は、きっと陽子を減らしたいことだろう。しかし、そうはできない事情がある。原子核の質量は、内部に含まれている粒子の質量の和よりも小さいのである。これは核力による引力が結合エネルギーを生んでいるからだ。原子核内の核子は互いに引っ張りあうために、自由な状態にあるときよりも実質的に質量が小さくなる。したがって陽子が放出されるなら、その原子核はどこかからエネルギーを補充して、陽子の質量が外の世界で回復させるようにしてやらなければならない。そのせいで陽子放出のプロセスが頓挫してしまうのだ。同じ考えから、1個の中性子や2個の陽子を放出することも禁止される。
だが、万事休すというわけではない。原子核には陽子を減らす手段が残っている。2個の中性子と緊密に結合した2個の中性子と緊密に結合した2個の陽子、すなわちアルファ粒子を放出してしまえばいい。なぜならアルファ粒子の核子の質量は、実質的に、それぞれが自由な状態にあるときの質量よりも小さいからである。原子核はエネルギーを補充しなくても、アルファ粒子なら、放出できるのだ。このとき発射されるのは、それ自体が大きな結合エネルギーを持つ、緊密に結合した構造なのである。ここでの中性子は、いわば助演の役割だ。原子核には(ちょっとばかり擬人化をさせてもらえるなら)中性子を減らす理由はない。しかし陽子を放り出すという目的を達するためなら、中性子を失ってもかまわないと思っているんだろう。
重い元素がすさまじい勢いでアルファ粒子崩壊せずにいられるのは、ひとえに電気力の障壁があるおかげだ。アルファ粒子が原子核の表面からこっそり離れようとしても、つねに核力によって引き戻されるので、脱出するためには非常に大きなエネルギーが必要となる。アルファ粒子が脱出を果たすには、「トンネル」を通るように障壁をすり抜けて、原子核の表面からかなり離れたところに出てこなくてはならない。そこからなら、あとは自由に飛んでいける。項目26(量子飛躍とは何ですか)で触れたように、イギリスとアメリカの物理学者が1928年にアルファ粒子をトンネル効果として考案した。そして、崩壊は確率に依存する。しかし量子力学で考えれば、ある一定の確率で起こりうる。そしてそれは多くの場合、きわめて小さな確率である。たとえばウラン238のアルファ崩壊の半減期は45億年で、奇しくも地球の年齢とほぼ同じ長さになる。
アルファ崩壊をする放射性元素で、もっと短い半減期を持つものとして有名なのは、ラジウム226である。これはアルファ崩壊によってラドン222に変わり、つぎのような反応式であらわされる。
88Ra128226 → 86Rn136222 + α
元素記号の左側の下付き数字は原子番号で、すなわち原子核内の陽子の数を示す。元素記号の右側の下付き数字は中性子の数だ。上付き数字はそれらの2つの和で、質量数、すなわち原子核内の核子の総数を示す。この過程の半減期は、約1600年である。崩壊生成物のラドン222は、これ自体もアルファ放射体で、その半減期は38日だ。ここに示した過程は、ウラン238から鉛206まで続く放射性崩壊の長い連鎖の一部である。