7分半でニュートリノ振動解説、ノーベル物理学賞・梶田さんの研究。
2015年10月14日 エキサイトニュース
「ニュートリノ振動の発見により、ニュートリノに質量がある」ことを示したことで、東京大宇宙線研究所長の梶田隆章さんがノーベル物理学賞を受賞したが、そのニュートリノ振動について、7分30秒でわかりやすく解説した動画がniconicoに投稿されている。
https://www.excite.co.jp/news/article/Narinari_20151014_34189/
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Ⅶ 素粒子 より
ニュートリノには質量があるのですか。ニュートリノ振動とは何ですか
ヴォルフガング・パウリが1930年にニュートリノの存在を仮定したとき(当時パウリは「中性子」と呼んでいたが)、パウリはその質量を電子と同じぐらいの質量ではないかと想像しており、いずれにしても、陽子の質量よりはずっと小さいはずだと思っていた。その後、ベータ崩壊の実験によって、ニュートリノの質量はゼロらしいということが示唆された。わかりやすい一例として、三重陽子(三重水素の原子核)の崩壊を考えてみよう。これを反応式であらわすと、次のようになる。
1H23 → 2He13 + e- + ν*
ギリシャ文字のν(ニュー)はニュートリノ(* ただし反粒子)をあらわしている。
三重陽子は約12年の半減期でヘリウム3の原子核と電子と反ニュートリノに変わる。あらゆる自発的な放射性変換と同様に、ここでも質量は下り坂となる。ヘリウム3の原子核と電子と反ニュートリノの質量をすべて足した値は(ニュートリノに質量があると仮定して)、三重陽子の質量よりも小さくなくてはならない。さもなければ、この崩壊は起こらないのだ。反応前後の質量差は、最終生成物の粒子が飛び散るための運動エネルギーとなる。
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幸か不幸か、私たちは現在、3種類のニュートリノのいずれにも多少の質量があると確信している。この質量が三重陽子の崩壊の実験であらわれてこないのは、それがあまりにも小さいからである。電子ニュートリノの質量の現在の上限は2eVで、電子の質量の約25万分の1しかない。ミューニュートリノとタウニュートリノの質量の上限はそれよりずっと大きいが、実際の質量はおそらくその上限よりもずっと小さいだろう。というのも、3種類のニュートリノをすべてあわせても合計質量は0.3eVに満たない(つまりそれぞれの平均質量は、電子の質量の500万分の1以下になる)ことを示す、宇宙論の証拠があるからだ。この証拠は、天体物理学のさまざまな測定から裏づけられている。
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そこで、「ニュートリノ振動」の話に入る。ある質量状態は、特定のエネルギーを持ち、ゆえに特定の振動周波数を持つ(プランクとアインシュタインの式、E=hfにしたがえば、そういうことになる。この式は光子だけでなく、あらゆる系に適用される)。身のまわりの物質では、その振動が速すぎて測定可能な効果があらわれない。しかし、音の「うなり」と非常によく似た現象を通じて、2つか3つの質量状態が混ざりあっていると、振動の測定可能な効果をあらわす。音の場合、わずかに振動数の異なる2つの音が発せられると「うなり」が生じる。耳には「ブーン」というある一定の音階の音が聞こえているが、その音の振動数は、もともとの2つの振動数の差になっている。したがって、たとえばあるバイオリンの絃が440ヘルツで振動し、別のバイオリンの弦が442ヘルツで振動しているとすると、あなたの耳には、わずか2ヘルツのうなり音が聞こえるのだ。これと同じことがニュートリノにも当てはまる。たとえば太陽で生成された電子ニュートリノは、3つの異なる振動数で振動している3つの異なる質量状態の重ね合わせになっている。これらの振動が、そのニュートリノの周期的な変化になってあらわれる。つまり電子ニュートリノがミューニュートリノに変わり、タウニュートリノに変わり、また電子ニュートリノに変わるのだ。この変化を「ニュートリノ振動」という。ニュートリノ振動が実際に測定されているということは、ニュートリノがたしかに質量を持っていること、そして3つの質量状態が等しくはないことを示す圧倒的な証拠と考えられる。もしニュートリノが本当に質量ゼロだったなら、あるいは3種類のニュートリノがすべて同じ質量を持っていたなら、振動は起こらないはずだからである。
レイモンド・デイヴィスが太陽ニュートリノの実験で、予想されていた量の3分の1の量しか電子ニュートリノを見つけられなかったことも、ニュートリノ振そのもの証拠になならなかったが、ニュートリノ振動を示唆する結果ではあった(最初は誰もこのニュートリノの不足を説明できなくて、天体物理学者のジョン・バーコールなどはこう言ったという――「もしレイモンド・デイヴィスの測定でニュートリノが足りないなら、彼は太陽が輝かないと証明したことになる」)。
ニュートリノ振動の強力な証拠が初めてあらわれたのは1998年、日本の地下深くに建設されたニュートリノ検出装置、スーパーカミオカンデからだった。
スーパーカミオカンデの研究者たちは、ミューニュートリノから生成されるミュー粒子を測定していたが、そのミューニュートリノ自体も、大気圏の上層で起こる宇宙線の衝突から生じていた。地球はニュートリノの進行をなんら妨害しないので、カミオカンデの検出器は上空からでも地下からでも、あらゆる方向、あらゆる側面からやってくるニュートリノで満たされているはずだった。ところが観測してみると、地球の反対側からやってくるミューニュートリノは、近くからやってくるミューニュートリノよりも少ないことがわかった。1万3000キロメートル近くも旅してきているミューニュートリノは、数百キロメートルほどしか旅してきていないミューニュートリノに比べ、数が激減していたのである。これは地球の反対側からの長旅のあいだに一部のミューニュートリノが振動して別のタイプのニュートリノに変わったために、検出を逃れている証拠だった。
さらに2001年とそれ以後にも、カナダのオンタリオ州サドベリーにあるサドベリー・ニュートリノ観測所(SNO)の最新鋭の検出器が、ニュートリノ振動のさらに決定的な証拠を発見した。SNOでは、1100トンの重水を蓄えたタンクに太陽ニュートリノが降りそそぐ。重水に重陽子、すなわち1個の陽子と1個の中性子からなる重水素の原子核が、大量に含まれている。もし太陽ニュートリノが重陽子のなかの陽子を中性子と陽電子に変換させれば、それはニュートリノが電子型のフレーバーになっていることの確実な証拠である。そして、もしニュートリノ」が重陽子にぶつかって単に「跳ね返ってくる」だけなら(物理学者は「散乱される」と言うが)、そのニュートリノはどのフレーバーであってもよい。SNOの結果は、太陽から到達したニュートリノの総数が、電子フレーバーのニュートリノの数の3倍であることを示している。ゆえに振動は(現在では別の方法でも確認されるようになっているが)確実に起こっているのだ。
もし振動が起こっているのなら、質量もある。ただあるだけでなく、少なくとも2種類、おそらくは3種類の、異なる質量がある。物理学者はなぜものごとがそうなっているのかを考えたがるものだが、ニュートリノの質量に関しては、ヒッグス粒子がその起因であると考えるのが最も有力な説となっている。