第2章 どうやって放射線が出てくるのかについて考えよう
2017年10月23日 放射線について考えよう
●安定になる方法2 ~核子の種類を変えて、電子を放出する(β崩壊)~
不安定な原子核を安定にする、ふたつめの方法は、中性子を陽子に変えることで、中性子の数をへらし、陽子の数をふやすことです。こうすれば、数のうえでのアンバランスを解消し、陽子と中性子の数を同じくらいに近づけることができます。
中性子が陽子へと変わるときに、電子と反電子ニュートリノが1つずつ放出されます(2)。この放出された電子、あるいは、(放出された)電子が飛んでいる状態を、「β(ベータ)線」と呼びます。また、この現象を、「β崩壊」と呼びます。
β崩壊の例として、ここでは、水素の同位体である水素3について触れておきましょう。
https://radiation.shotada.com/chapter/02/
Ⅶ 素粒子 より
ニュートリノには質量があるのですか。ニュートリノ振動とは何ですか
ヴォルフガング・パウリが1930年にニュートリノの存在を仮定したとき(当時パウリは「中性子」と呼んでいたが)、パウリはその質量を電子と同じぐらいの質量ではないかと想像しており、いずれにしても、陽子の質量よりはずっと小さいはずだと思っていた。その後、ベータ崩壊の実験によって、ニュートリノの質量はゼロらしいということが示唆された。わかりやすい一例として、三重陽子(三重水素の原子核)の崩壊を考えてみよう。これを反応式であらわすと、次のようになる。
1H23 → 2He13 + e- + ν*
ギリシャ文字のν(ニュー)はニュートリノ(* ただし反粒子)をあらわしている。
三重陽子は約12年の半減期でヘリウム3の原子核と電子と反ニュートリノに変わる。あらゆる自発的な放射性変換と同様に、ここでも質量は下り坂となる。ヘリウム3の原子核と電子と反ニュートリノの質量をすべて足した値は(ニュートリノに質量があると仮定して)、三重陽子の質量よりも小さくなくてはならない。さもなければ、この崩壊は起こらないのだ。反応前後の質量差は、最終生成物の粒子が飛び散るための運動エネルギーとなる。
最終生成物の3つの粒子に対して、運動エネルギーの分け方はいろいろある。たとえば、もし電子がほんのわずかの運動エネルギーでよろよろと出ていくとすれば、ニュートリノが運動エネルギーの大半を持って飛び去ると考えられる。反対に、もしニュートリノがよろよろと出ていくなら、電子が運動エネルギーの大半を持ち去るだろう。
1930年代に始まってから今日にいたるまで、物理学者は放出された電子の運動エネルギー、とくにその最大値を、どんどん高い精度で測定できるようになってきた。電子の運動エネルギーが最大値になるのは、ニュートリノが運動エネルギーをほとんど、あるいはまったく持たないときである。そして2個の原子核の質量と電子質量はきわめて正確にわかっているから、ニュートリノの取り分となるエネルギーのうち、質量にどれだけのエネルギーがまわされるかもわかる。ニュートリノの質量は、エネルギー収支の差引測定をしたときの差であるはずだ、そして最新の実験を含め、どの実験をみても、見えないニュートリノの質量にわずかでもエネルギーが充(み)てられた様子はない。したがって最初のうちは、電子ニュートリノには本当に質量がないのだと考えられていた。それをおかしいと思う物理学者はひとりもいなかった。なぜなら質量のない光子という、すでに常識となっている仲間がいたからである。しかも理論的には、ニュートリノに本当に質量がないとしたほうがうまくいく面もあったのだ。
幸か不幸か、私たちは現在、3種類のニュートリノのいずれにも多少の質量があると確信している。この質量が三重陽子の崩壊の実験であらわれてこないのは、それがあまりにも小さいからである。電子ニュートリノの質量の現在の上限は2eVで、電子の質量の約25万分の1しかない。ミューニュートリノとタウニュートリノの質量の上限はそれよりずっと大きいが、実際の質量はおそらくその上限よりもずっと小さいだろう。というのも、3種類のニュートリノをすべてあわせても合計質量は0.3eVに満たない(つまりそれぞれの平均質量は、電子の質量の500万分の1以下になる)ことを示す、宇宙論の証拠があるからだ。この証拠は、天体物理学のさまざまな測定から裏づけられている。