じじぃの「壮絶な死・ハサミムシ・子に身を捧ぐ生涯!生き物の死にざま」

Earwigs and Baby Earwigs

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=z-7z9ZGcI8A

ハサミムシ


『利己的遺伝子から見た人間 愉快な進化論の授業』

小林朋道(PHPサイエンス・ワールド新書)
●子供はなぜ野菜嫌い? 母親を食べてしまうムシがいる? 動物の行動を遺伝子で説明!
コブハサミムシはその子供たちが餌を得られにくい環境に生育します。母親は地面の石の下などに数十個の卵を産みます。クモやらムカデなどから守るのです。
そしてふ化した子供たちは、まずその母親を食べてしまいます。“ふ化後母親の体を食べる”という性質の遺伝子はどうして生まれたのでしょう。おわかりのように、子供たちが餌を得られにくい環境では、ふ化後母親の体を食べるという遺伝子を持たないコブハサミムシだったとしたら、きっと生物種として現在まで生き残っては来なかったと想像できます。本書では、その他にも著者が得意な動物の行動とその進化を、楽しくたくさん例示しています。
https://www.milive-plus2.net/shinsho/6/book3/

『生き物の死にざま』

稲垣栄洋/著 草思社 2019年発行

子に身を捧ぐ生涯――ハサミムシ より

石をひっくり返してみると、ハサミムシがハサミを振り上げて威嚇(いかく)してくることがある。
ハサミムシはその名のとおり、尾の先についた大きなハサミが特徴的である。
昆虫の歴史をたどると、ハサミムシはかなり早い段階に出現した原始的な種類である。

ゴキブリも「生きた化石」と呼ばれるほど原始的な昆虫の代表である。ゴキブリには、長く伸びた2本の尾毛が見られる。この尾毛は原始的な昆虫によく見られる特徴である。

ハサミムシのハサミは、この2本の尾毛が発達したものと考えられている。ハサミムシは、サソリが毒針を振り上げるように、尾の先についたハサミを振りかざして、敵から身を守る。また、ダンゴムシや芋虫などの獲物を見つけるとハサミで獲物の動きをとめてゆっくりと食らいつく。

石をひっくり返すと、石の下に身を潜めていたハサミムシが、いきなり明るくなったことに驚いて、あわてふためいて逃げ惑う。

ところが、である。なかには逃げずに動かないハサミムシもいる。
どうやら、ただじっとして隠れているわけではなさそうだ。その証拠に、このハサミムシは、勇敢にハサミを振り上げて、人間をも威嚇してくるのである。
石をひっくり返したときにハサミで威嚇してくるハサミムシとは、どのような素性を持つのだろう。

見れば、そんなハサミムシのかたわらには、産みつけられた卵がある。
じつは逃げずに動かないこのハサミムシは卵の母親である。母であるメスのハサミムシは、大切な卵を守るために、逃げることなくその場でハサミを振り上げるのである。
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ハサミムシの卵を守るのは母親だ。ハサミムシの母親が卵を産むとき、父親はすでに行方がわからなくなっている。子どもが父親の顔を知らないのは自然界ではごく当たり前のことである。

ハサミムシは成虫で冬を越し、冬の終わりから春の初めに卵を産む。
石の下のハサミムシの母親は、産んだ卵に体を覆いかぶせるようにして、卵を守っている。そして、卵にカビが生えないように一つ一つ順番にていねいになめたり、空気に当てるために卵の位置を動かしたりと、丹念に世話をしていく。

卵がかえるまでの間、母親は卵のそばを離れることはない。もちろん、母親は餌を口にする時間もない。餌を獲ることもなく飲まず食わずで、ずっと卵の世話をし続けるのである。

ハサミムシの卵の期間は、昆虫の中でも特に長く40日以上もあるとされている。長い場合は、卵がかえるまでに80日かかった観察もある。その間、片時も卵のそばを離れることなく、卵を守り続けるのである。
そして、ついに卵がかえる日がやってくる。待ちわびた愛する子どもたちの誕生である。
しかし、母親の仕事はこれで終わりではない。ハサミムシの母親には、大切な儀式が残されている。

ハサミムシは肉食で、小さな昆虫などを餌にしている。しかし、孵化(ふか)したばかりの小さな幼虫は獲物を獲ることができない。幼虫たちは、空腹に耐えながら、甘えてすがりつくかのように母親の体に集まっていく。

これが儀式の最初である。
いったい、何が始まろうとしているのだろうか。

あろうことか、子どもたちは自分の母親の体を食べ始める。
そして、子どもたちに襲われた母親は逃げるそぶりも見せない。むしろ子どもたちを慈(いつく)しむかのように、腹のやわらかい部分を差し出すのだ。母親が意図して腹を差し出すのかどうかはわからない。しかし、ハサミムシにはよく観察される行動である。

何ということだろう。ハサミムシの母親は、卵からかえったわが子のために、自らの体を差し出すのである。

そんな親の思いを知っているのだろうか。ハサミムシの子どもたちは先を争うように、母親の体を貪(むさぼ)り食う。

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どうでもいい、じじぃの日記。

「何ということだろう。ハサミムシの母親は、卵からかえったわが子のために、自らの体を差し出すのである」

イギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスの著書『利己的な遺伝子』によれば、すべての生物の体は遺伝子の乗り物にすぎないのだそうだ。
ドーキンスによれば、ハサミムシの母親が子どもを守ることも、次世代にコピーした遺伝子を残すためと考えれば、利己的な行動として説明できる。

一般的に、母親は子どもたちを守るため、有害物質を避けることが知られている。
その手段として、ハサミムシの母親は自分の体を子どもたちに与えることを選択をした、という説だ。

進化の多様性の1つとして考えれば、納得がいく。