じじぃの「アミノ酸・火星に生命が見つかったら?地球外生命」

NASA Find Liquid Water on Mars!

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=a3R7y-LI9n4

火星に液体状の水が存在している?

ついに火星に「液体の水」が存在する高い可能性を示す研究が発表される

2015年4月14日 GIGAZINE
2015年3月5日に「火星には地表の20%を覆うほど大量の水がかつて存在していた」というNASAの研究論文が発表されていましたが、新たに、「火星の地中に水が液体状態で存在する高い可能性がある」と指摘する研究結果が発表されました。
https://gigazine.net/news/20150414-mars-liquid-water/

『地球外生命-アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来』

小林憲正/著 中公新書 2021年発行

第2章 生命の誕生は必然か偶然か より

生命とは何か

地球外生命を探すとしたら、まず、何を生命とよんでいいのかが問題になります。生命とは生物がもつ性質ですが、生命を定義するのは極めて難しく、科学者にとってその定義もさまざまに変わります。オーストリアの物理学者で量子力学の父とよばれるエルヴィン・シュレディンガー(1887~1961)は、1933年にノーベル物理学賞を受賞後、生命とは何かに興味を持ちました。彼はその著書『生命とは何か』(1944)の中で、生命を「負のエントロピーを食べていきているものである」と定義しています。しかし、この定義に従って地球外生命を探すのは大変そうです。NASAは20世紀末以降、地球外生命の発見を惑星探査の大きな目的に掲げています。現時点でのNASAの生命の定義は、米国ソーク研究所教授のジェラルド・ジョイス(1956~)のアイデアに基づき、「ダーウィン進化が可能な自立した化学系」としています。進化ということにかなり重きを置いているのですね。

第4章 火星生命探査 より

アミノ酸分析による生命探査

第2章でみたように、地球生命を支えているのはタンパク質と核酸ですが、地球外生命が有機物からなっているとしても、タンパク質と核酸を用いている保証はどこにもありません。特に、原始地球上で核酸(まずはRNA、ついでDNA)がどのように生成したかもよくわかっておらず、核酸が地球以外でそう簡単に生成する分子とも思えないことから、他の天体で核酸を探すというのは、生命探査法としては博打(ばくち)に近いものです。仮に、もし火星生物が地球生物と同じDNAを用いているならば、新型コロナウイルス対策で有名になったPCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション)法を用いれば、極めて高感度に検出できる可能性があるのですが……。
一方のタンパク質は、アミノ酸を一列につなぎ合わせたもので、そのアミノ酸は隕石中にも多種類見つかっていること、いろいろな化学進化実験でも比較的簡単にできる分子であることから、地球や地球外でも容易に生成しうると考えられる有機物です。さらにタンパク質はさまざまな機能を持ちうるものであるため、地球外生物もタンパク質のようなアミノ酸をつなげた分子を使っている可能性は高いと思われます。
しかし、アミノ酸は隕石中にも見つかっており、生物がいなくても勝手にできてしまうのだったら、アミノ酸を見つけても生命の証拠にならないのではないか、と思われるのではないでしょうか。でも、実際には生物が作ったアミノ酸と、それ以外のアミノ酸はある程度は区別が可能なのです。

火星生命発見の意義と影響

火星で生命やその痕跡が見つかった場合、どのような意義があるのでしょうか。まずは、地球のみが生命を育む天体ではない。つまりわれわれは宇宙で孤独ではないことがわかります。銀河系には2000億個ほどの恒星が存在し、そのうちの1つが太陽です。その太陽に惑星が8つあり、しかもその2つに生命が存在する(した)となると、銀河系で生命が存在する天体の数は膨大なものになるはずです。また、太陽系の8つの惑星のうち表面に液体の水(海)が存在する(した)地球と太陽という2つの天体に生命が存在したとなると、生命が存在しうる環境があれば生命が実際に誕生する確率が極めて高いことになります。
逆に、火星で生命が見つからなかった場合はどうでしょうか。ヴァイキング計画のことを思い出してもらえば、「見つからなかった」といっても、探した場所や探し方が正しかったかどうかという問題が残ります。2020年代初頭の探査では探査機は火星の「特別地域」には行かない予定です。表面で液体の水が存在する特別地域や、深部の氷やそれが溶けた水が多量に存在する場所に将来到達できれば、その時に生命やその痕跡が見つかる可能性があるのです。とことん探して見つからなかった場合は、液体の水が存在しうる環境でも必ずしも生命が誕生できるとは限らないことはわかります。しかし、生命が地球だけに存在すると言い切るのは、銀河の星の数を考えれば、まだまだ難しいといえるでしょう。
生命が見つかった場合の第2の意義は、生命の起源や、生命とは何かに関する重要なヒントが得られることです。もし、火星生命が地球生命と全く同じタンパク質(同じ左手型の20種類のアミノ酸)や核酸(DNA、RNA)を用いていたならば、その起源は同じ可能性が高くなります。ということは、火星と地球間での生命の移動が起こった、もしくは第3の天体上で誕生した生命が地球と火星に移動したと思われます。もし、火星生命のタンパク質や核酸に似てはいるが若干異なる(例えば、塩基や糖の種類が異なる)有機物を用いていたならば、2つの可能性が考えられます。1つは、タンパク質・核酸型の生命は比較的普遍的に誕生しうること。もう1つは、地球生命の共通祖先よりも前の段階で、惑星間移動が起きた可能性です。
私が個人的に最も期待しているのは、核酸とは全く異なる自己複製システムを用いた生命が火星で見つかることです。私たちは核酸以外の遺伝物質を知らないため、ともすれば核酸のみが唯一の遺伝物質と思い込んでしまいがちです。2種類の遺伝物質を知ることにより、それらがどのようにして誕生したか、さらに第3の遺伝物質としてどのようなものがありうるかを議論できるようになるでしょう。まさに地球生命(タンパク質・核酸型生命)を中心とした天動説からの脱却が可能になるわけであり、生命の起源研究も全く新しいフェーズに進むことになりでしょう。

火星に生命が確認された場合、将来の火星有人探査や、火星への移住などには大きな影響が生じます。

火星生命を保護すること、また、火星生命を地球に持ち込まないことを本気で考える必要が生じるのです。とりわけ、火星での液体の水が存在する地点では、万一、地球の微生物で汚染してしまうと、その水のネットワークにそって汚染が拡大し、最悪の場合は全火星的な汚染が生じてしまうかもしれません。ましてや火星の大気組成を変えて地球に似た環境に変え、人類を移住させようとする「テラフォーミング」は極めて難しくなるでしょう。