じじぃの「科学・地球_227_ホワット・イズ・ライフ?物語のはじまり」

How did life on Earth begin? - Science Nation

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=TMX8UkgmEX8

How did life on Earth begin?

How did life begin?

New Scientist
The question of how life began is one of the most profound in science, and although many theories exist, scientists still cannot agree on an answer.
It continues to be a topic for debate, as understanding life’s origin would help us grasp our place in the universe, as well as guiding our search for extraterrestrial life.
https://www.newscientist.com/question/how-did-life-begin/

WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か

ポール・ナース (著) / 竹内薫 (訳)
生きているとはどういうことか?生命とは何なのだろう?人類の永遠の疑問にノーベル賞生物学者が答える。
まえがき
1 細胞―細胞は生物学の「原子」だ
2 遺伝子―時の試練をへて
3 自然淘汰による進化―偶然と必然
4 化学としての生命―カオスからの秩序
5 情報としての生命―全体として機能するということ
世界を変える
生命とは何か?

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『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』

ポール・ナース/著、竹内薫/訳 ダイヤモンド社 2021年発行

生命とは何か? より

最も独立した生命体

他の生き物に完全に依存しているため、ウイルスが本当に生きているとは言えないと、結論づける生物学者もいる。だが、よくよく考えてみれば、われわれも含め、生命のほぼすべての形態が、他の生物に依存しているではないか。
あなたの慣れ親しんだ身体も、人と人以外の細胞が混ざりあってできた、1つの生態系だ。われわれのおよそ30兆個の細胞など、この生態系に占める数量からすれば微々たるものだ。われわれに依存したり、われわれの内側で生きている、多様な細菌、古細菌、真菌、単細胞真核生物などの共同構成員の数は天井しらずなのだから。
人によっては、いろいろな回虫や、皮膚の上に生息して毛包に卵を生む8本脚のダニなど、わりと大きな動物まで抱えている。こうした人間でない親密な仲間たちは、われわれの細胞と身体に大きく依存しているが、われわれの方も彼らに依存していることがある。たとえば、腸内細菌は、細胞が自分では作れない、特定のアミノ酸やビタミンを生成してくれる。
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つまり、完全にゼロから、自らの細胞の化学的構造を作り出すことができる動物や植物や菌類は、1つもないのである。
おそらく、本当の意味で最も独立した生命体、つまり完全に独立して「自由気ままな生活をしている」と断言できるのは、一見するともっと原始的な感じのものだろう。
たとえば、藍藻(シアノバクテリア)。シアノバクテリアは、光合成をして窒素を捕える。海底深くにある活火山の熱水噴出孔から、すべてのエネルギーと化学原料を得ている古細菌も同類だ。驚くべきことに、こうした比較的単純な生き物は、われわれよりも長期にわたって生き延びただけでなく、われわれより自立している。
異なる生命体同士の相互依存は、われわれの細胞の根本的な組成にも反映されている。われわれの身体が必要とするエネルギーを作り出すミトコンドリアは、かつてはまったく別個の細菌で、ATP(アデノシン三リン酸)を作る能力を持っていた。
15億年4ほど前に起きた運命のいたずらで、このような細菌のいくつかが、別の種類の細菌の内側に仮住まいを始めた。時がたつにつれ、主(ぬし)である細胞は、「お客さん」の細菌が作ってくれるATPなしでは生きてゆけなくなり、ミトコンドリアは定住することになった。
ウィンウィンの関係だったと思われるが、これにより、真核生物の全種族の幕開けとなった。エネルギー供給が安定し、真核生物の細胞は、より大きく、複雑になることができた。このことが、次に、今日の動物や植物や菌類の豊富な多様性へとつながる進化を引き起こした。

物語のはじまり

生命の化学的基礎におけるこうした深い共通性は、驚くべき結論を指し示している。なんと、今日地球上にある生命の始まりは「たった1回」だけだったのだ。

もし異なる生命体が、それぞれ何回かにわたって別々に出現し、生き延びてきたとしたら、その全子孫が、これほどまで同じ基本機能で動いている可能性はきわめて低い。
あらゆる生命が、巨大な同じ生命の樹の一部だとすれば、その樹はどんな種類の種子(たね)から成長したのだろう? どういうわけか、どこかで、はるか昔に、無生物の無秩序な化学物質が、より秩序だった形態に自分を配置した。
自らを永続させ、自らをコピーし、最終的に自然淘汰によって進化するという、きわめて重要な能力を獲得したのだ。しかし、われわれも登場人物も一人である。この物語は、実際にはどのようにして始まったのだろう。
地球は45億年ちょっと前、太陽系の黎明期に形成された。初めの5億年ほどは、この惑星の表面は熱すぎて不安定で、われわれが知るような生命は物理的、化学的に出現できなかった。
これまでに曖昧さを残さない形で特定された。最も古い生命体の化石は、35億年前に生息していたものだ。生命が立ち上がって走り出すまで、数億年かかったわけだ。想像を絶する、悠久の時の広がりだが、地球上の生命の歴史から見れば、僅かな時間にすぎない。フランシス・クリック(ワトソンとともにDNAの二重らせんを発見し、さらには遺伝暗号まで解明した)は、その時間内で、生命がこの地球で始まった可能性は非常に低いと考えた。
だから彼は、生命は宇宙のどこかで誕生し、(部分的にか完全に形成された状態かは別として)地球にまで運ばれてきたにちがいないと示唆したのだ。しかし、彼は、生命がどのようにして慎ましい発端から始まったのか、という重要な疑問に答えるどころか、はぐらかしてしまっている。現在、われわれは、未だ検証できないにしても、この物語について信用できる説明をすることができる。
最も古い化石は、現在の細菌のいくつかに似ている。これは、その時点で生命がすでに、膜に包まれた細胞、DNAに基づく遺伝システム、タンパク質に基づく代謝作用などを整え、充分に確立されていたことを意味する。
しかし、どれが最初だったのだろう? DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる。
しかし、酵素タンパク質は、DNAが保持する命令によってしか作ることができない。どうすれば片方ぬきで、もう片方を手に入れることができるのか? さらに、遺伝子と代謝作用は、どちらも、必須の化学物質を集めたり、エネルギーを得たり、環境から自らを守るために、細胞の外膜に頼っている。
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細胞膜の形成を説明するのがいちばん簡単かもしれない。細胞分子を作り上げている脂質分子は、できたてほやほやの地球に存在していたと思われる材料や条件のもと、自然発生的な化学反応で形成されうることが分かっている。科学者が脂質を水に浸けると、それは思いがけないふるまいをする。膜で包まれた空洞の球体が自然にできるのだ。その大きさや形は、細菌細胞にきわめて近い。

われわれは、みな……

宇宙は想像を絶するほど広い。すべての時間と空間を見渡せば、意識を持つ生命体は言うまでもなく、生命がここ地球でだけ、たった1回しか花開いていない確率はきわめて低い。
われわれが、異星人の生命体と出会うことになりかどうかは別の問題だ。しかし、もし出会ったとしたら、彼らは、われわれと同じような仕組みで作られているはずだ。自然淘汰による進化によって、情報が暗号化された高分子の周りに築かれた、自律的で化学的かつ物理的な機械にちがいない。
われわれの惑星は、生命の存在がはっきり確認されている、たった1つの宇宙の一角だ。(われわれもその一部である)この地球上の生命は驚異に満ちている。生命は常にわれわれを驚かせるが、途方に暮れるほどの多様性にも関わらず、科学者はそれを理解しつつあり、その理解は、われわれの文化や文明の礎となっている。生命とは何かを理解し続けることで、人類の運命は、より良き方向に向かうだろう。