じじぃの「科学・地球_221_ホワット・イズ・ライフ?遺伝子の発見」

Insulin Production - GM Bacteria - GCSE Biology (9-1)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=LP5TctAPPUI

大腸菌が排出したインスリンから医薬品を製造

【高校生物】「医薬品の製造」

映像授業のTry IT
これは、バイオテクノロジーの応用によって、インスリンを生成するまでの流れを表しています。
インスリンとは、膵臓でつくられるホルモンの一種で、血糖量を調節する重要な役割を担っています。
そのため、糖尿病などの治療において、薬剤として広く利用されています。
https://www.try-it.jp/chapters-15090/sections-15160/lessons-15180/

WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か

ポール・ナース (著) / 竹内薫 (訳)
生きているとはどういうことか?生命とは何なのだろう?人類の永遠の疑問にノーベル賞生物学者が答える。
まえがき
1 細胞―細胞は生物学の「原子」だ
2 遺伝子―時の試練をへて
3 自然淘汰による進化―偶然と必然
4 化学としての生命―カオスからの秩序
5 情報としての生命―全体として機能するということ
世界を変える
生命とは何か?

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『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』

ポール・ナース/著、竹内薫/訳 ダイヤモンド社 2021年発行

2 遺伝子―時の試練をへて より

「遺伝子」の発見

遺伝の仕組みをもっと現実に理解するためには、「遺伝子」の発見が必要だった。遺伝子は、複雑にからみあった、家系を貫く類似性と、その人独自の特徴といった謎を解明するのに役立つ。そして、生命が、細胞や生命体を作り、維持し、再生するために不可欠な情報源でもある。
(現在のチェコ共和国にある)ブルノ修道院修道院長だったグレゴール・メンデルは、遺伝の謎を理解した最初の人物だ。でも、彼は、不可解なことが多い人間の家族の遺伝パターンを研究したわけじゃない。彼は、エンドウ豆を使って入念な実験を行い、その着想が最終的に、われわれが現在、「遺伝子」と呼んでいるものの発見へとつながったんだ。
メンデルは、遺伝尾意味を探るために科学実験をした初めての人物ではなかったし、植物を使って答えを見つけ出そうとした最初の人物でもなかった。彼よりも前に、植物をかけ合わせる育種家(ブリーダー)たちは、植物のいくつかの特徴が、直感と相容れない方法で世代から世代へと伝えられることを記録に残していた。種類の異なる2つの親植物を交配させた子孫は、まるで2つを「混ぜ合わせた」みたいになることがあったのだ。
たとえば、紫の花をつける植物と白い花をつける植物をかけ合わせると、ピンクの花をつける植物を生み出すことがある。かと思えば、特定の世代において常に優位を示す特徴もある。たとえば、紫の花を咲かせる植物と白い花を咲かせる植物の子孫が、すべて紫の花をつけるような場合だ。

「遺伝子暗号」に挑め

遺伝子は、特定のタンパク質の作り方を細胞に指示することによって、細胞、ひいては生命体全体のふるまいに大きな影響を与えている。この情報は生命の中心的役割を演じている。なぜなら、タンパク質は細胞の中の仕事の大半を担っているのだから。細胞の酵素、構造、運用システムのほとんどはタンパク質からできている。仕事をするために、細胞は2種類のアルファベットを上手に使いこなす。
1つめはA、T、G、Cという文字からなるDNAの4文字のアルファベット。そして2つめはもっと複雑なタンパク質のアルファベットだ(タンパク質は20種類のアミノ酸というパーツが順序よく並んだもの)。1960年代までに、遺伝子とタンパク質の基本的な関係は理解されていたが、細胞がどのようにしてDNAの言語をタンパク質の言語に変換するかは分かっていなかった。
この関係は「遺伝子暗号」として知られ、生物学者たちにまさしく暗号パズルをつきつけた。この暗号は1960年代終わりから1970年初めにかけて、研究者たちによって次々と解読された。私がいちばんよく知っているのはフランシス・クリック(ワトソンとともにDNAの二重らせんを発見し、さらには遺伝暗号まで解明した)とシドニー・ブレナーだ。シドニーは私が出会った中で、最もウィットに富む、科学者らしからぬ人物だった。
私はかつてシドニーの就職面接を受けたことがある(結局、職を得ることはできなかったが!)。彼はオフィスの壁に掛けてあるピカソの絵画「ゲルニカ」に描かれたクレージーな人物たちに、同僚たちをなぞらえた。彼のユーモアは、思いもよらないものを関連づけることから生まれており、それは科学者としての計り知れない創造性の源でもあると思う。
彼らやその他の暗号解読者たちは、A、T、G、CというDNAの4文字のアルファベットが、DNAのらせん階段に「3文字単語」として配列されており、この単語の多くがタンパク質のアミノ酸パーツに対応していることを示した。
たとえば、DNAのGCTという「3文字単語」は、アラニンと呼ばれるアミノ酸を新しいタンパク質に加えるように細胞に指示するし、TGTはシステインと呼ばれるアミノ酸を求めている。遺伝子は、特定のタンパク質を作るために必要な「3文字単語」の配列だったんだ。
たとえば、βグロビンという名のヒトの遺伝子は、441個のDNAアルファベット(A、T、G、C)にきわめて重要な情報を含んでいる。それは147個の「3文字単語」の羅列になっていて、細胞が、アミノ酸147個分の長さのタンパク質分子へと変換する。ちなみに、βグロビン・タンパク質は、ヘモグロビンと呼ばれる酵素を選ぶ色素を形成するのを助ける。ヘモグロビンは赤血球細胞にあり、そのおかげで、われわれは生き続けられるし、血は赤く染まるんだ。
遺伝暗号を理解できるようになると、生物学の中心課題というべき謎が解ける。
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生物学者はすぐに、染色体のどこに特定の遺伝子があるのかを見つけ、それを抜き出したり、染色体のあいだを移動させたりする方法を学んだ。遺伝子を異なる種の染色体に挿入する方法すら獲得した。
たとえば、1970年代後半には、(血糖値を調整する)インスリン・タンパク質を暗号化するヒト遺伝子を入れ、病原性大腸菌の染色体が再構築された。遺伝子組み換えされた細菌は、人間の膵臓(すいぞう)で作られるのとそっくりなインスリン・タンパク質を手頃な値段で大量に生成してくれる。おかげで、世界中で何百万人もの人々が、糖尿病を管理できるようになった。
1970年代には、イギリスの生化学者フレッド・サンガーが、遺伝情報を「読む」方法を考案し、また1つ決定的な革新をもたらした。彼は化学反応と物理的手法を巧妙に組み合わせ、遺伝子を構成するすべてのヌクレオチド塩基の性質と配列を特定したのだ(これはDNA塩基配列決定法と呼ばれている)。
異なる遺伝子ごとのDNA文字の数は、何百から何千という膨大な範囲にわたっているが、それを読んで、できあがるタンパク質を予測できるようになったのだ。大きな前進だった。並外れて控えめであると同時に、並外れて優れていたフレッドは、2つのノーベル賞をもらうこととなった!

私自身についての驚くべき発見

遺伝的な特徴は人生の中核をなしており、われわれの自己認識や世界観を形作る。人生の後半にさしかかり、私は自分自身の遺伝についてかなり驚くような発見をした。
私は労働者階級の家で育った。父は工場で働き、母は清掃員だった。兄や姉はみんな15歳で学校をやめた。大学まで進学したのは私ひとりだった。多少古風ではあったけれど、私は多くの人に支えられ、幸せな子ども時代を過ごした。両親は友だちの親よりずいぶん年上だったので、よく、まるで、おじいちゃん、おばあちゃんに育てられているみたいだねと冗談を言っていた。
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すべての人は、無作為に発生しがちな、生物学上の親のどちらとも共有していない、新規の遺伝子変異を持って生まれるが、その数は比較的少ない。こうした遺伝的な差異は、個体を唯一無二のものにする一因だ。また、長期にわたり、生物が種として少しずつ変化する理由を説明してくれる。
生命は常に実験を行い、革新し、世界を変化させ、また、変化する世界に合わせ、適応し続けている。これを可能にするために、遺伝子は、安定し続けることによって情報を保存する必要があるけれど、ときには、大幅に変化しなくてはならない。バランスが大切なのだ。次に紹介する考え方は、このようなことが、どのようにして起き、そして、その結果、生命が途方に暮れるくらい多様化した理由を明らかにしている。
その考え方とは、自然淘汰による進化だ。