じじぃの「科学・地球_226_ホワット・イズ・ライフ?iPS細胞」

Stem cells - the future: an introduction to iPS cells

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Q9-4SMGiKnE

Shinya Yamanaka - iPS cells

Stem cell scientist wins Millennium Technology Award

13 June 2012 BBC News
●Japanese stem cell scientist Dr Shinya Yamanaka has been awarded the Millennium Technology Prize.
His award is for discovering how to reprogram human cells to mimic embryonic stem cells, which can become any cell in the body.
Called induced pluripotent stem (iPS) cells, these now aid research into regenerative medicine.
https://www.bbc.com/news/health-18425039

WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か

ポール・ナース (著) / 竹内薫 (訳)
生きているとはどういうことか?生命とは何なのだろう?人類の永遠の疑問にノーベル賞生物学者が答える。
まえがき
1 細胞―細胞は生物学の「原子」だ
2 遺伝子―時の試練をへて
3 自然淘汰による進化―偶然と必然
4 化学としての生命―カオスからの秩序
5 情報としての生命―全体として機能するということ
世界を変える
生命とは何か?

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『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』

ポール・ナース/著、竹内薫/訳 ダイヤモンド社 2021年発行

世界を変える より

iPS細胞の可能性

だが、これから親になる人たちの多くは、いずれ、この問題(ゲノム編集における倫理上の問題)に直面するだろう。今後、数年から数十年のあいだに、遺伝の影響を予測したり、遺伝子を組み換えたり、人間の胚と細胞を操作する、より強力な能力を科学者が身に付けるからだ。このような問題は、社会全体で、今すぐ議論する必要がある。
生命のもう一方の側では、細胞生物学の進歩と発達により、変性疾患の治療法がもたらされている。幹細胞を例に取ろう。幹細胞は、身体が保持している未成熟な細胞で、初期の胚にある細胞に似ている。
幹細胞の要となる特性は、繰り返し分裂して新しい細胞を作る能力と、その新しい細胞がより分化する能力を持っていることにある。成長する胎児や赤ちゃんは、絶え間なく新しい細胞が必要なため、大量の幹細胞を持っている。幹細胞はまた、身体の成長が止まってからかなりたっても、成人の身体のさまざまな部位に存在する。
あなたの身体の細胞は、毎日、何百万も死んだり脱落したりする。だから、あなたの皮膚、筋肉、胃腸の内膜、目の角膜縁、その他の多くの組織は、幹細胞の集団を含んでいる。

近年、科学者は、幹細胞を分離・培養し、神経細胞、肝細胞、筋肉細胞など、特定の種類の細胞にする方法を編み出した。今では、患者の皮膚から完全に成熟した細胞を採り発達の時計を巻き戻して、幹細胞の状態に戻るように処理することが可能だ(日本の山中伸弥教授が発見したiPS細胞)。

いつの日か、頬の内側から検体を採取して、その細胞を使い、身体のほとんどすべての細胞を作る出すことができるようになるだろう。ワクワクするような可能性だ。科学者と医師がiPS細胞の技術を完璧に習得し、その安全性を立証することができれば、変性疾患やケガの治療や、移植手術に革命をもたらすだろう。パーキングや筋ジストロフィーのように、今のところ治療不可能は、神経系と筋肉の病状を回復させることも可能かもしれない。
このような進展のせいで、シリコンバレーを拠点とする企業を中心に、「近い将来、老化を止めたり、若返らせたりすることを可能になるぞ」という、大胆な予測がなされている。でも、こうした主張は、現実に根ざす必要がある。
個人的には、自分が最期を迎えるとき、脳や身体を凍結保存しようとは思わない。自分が生き残り、若返り、永久に生き続けるなんて、想像できない。老化は、身体の細胞や臓器系の、複合的な損傷、死、あらかじめプログラムされた活動停止による、最終的な結果だ。

「合成生物学」のインパク

今後10年で、遺伝子工学的手法を利用する必要性がさらに出てくると私は思う。「合成生物学」として知られる、比較的新しい科学分野のインパクトは大きい。合成生物学者は、遺伝子工学がこれまで用いていた、的を絞り、少しずつ進歩するやり方ではなく、生き物の遺伝子プログラムを根本から置き換えようとしている。
ここに立ちはだかる技術的なハードルは高く、そうした新しい種をどのように制御し、環境に流出させないか、という問題もある。しかし、実現した際の見返りは膨大だ。生命の化学的性質は、人間が実験室や工場で行ってきたような化学プロセスよりも、はるかに適応性があり効率的だからだ。
遺伝子組み換えと合成生物学により、生命の輝きを再編成し、別の目的に向かわせることができる。合成生物学を使って栄養の強化された作物や家畜を作り出すことは可能なはずだが、それよりも、もっと幅広い応用も考えられる。再設計された動植物や微生物や微生物を作り出して、そこからまったく新しいタイプの薬剤、燃料、生地、建築材料を生産しているわれわれの姿が目に浮かぶ。
遺伝子工学的に操作された新たな生物システムは、気候変動を解決に導くかもしれない。科学者の大半は、地球温暖化が加速段階に入ったと考えている。これは、人類だけでなく、(人類もその一部である)生物圏への深刻な脅威だ。
差し迫る緊急課題は、われわれが発生させている温室効果ガスの量を削減し、温暖化の広がりを縮小することだ。本来の状態よりも効率的に光合成をする植物を再設計したり、生体細胞という枠を超え、それを工業規模で活かすことができれば、カーボンニュートラルな生物燃料や工業用の材料を作ることが可能だ。
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しかし、こうした介入を迅速かつ効率よく行うことで、生態動力学に関するわれわれの理解は、限界まで広がってゆくだろう。現在、広い範囲で進行中の、ほとんど説明がつかない昆虫の数の減少の謎も、解明されるかもしれない。われわれの未来は、昆虫と切っても切れない縁がある。昆虫は、多くの食用作物を受粉させたり、土壌を作ったり、その他多くのことをしているのだから。
こうした応用が発展するためには、生命の仕組みについて、さらに深く理解する必要がある。分子生物学者、細胞生物学者、遺伝学者、植物学舎、動物学者、生態学者、その他、あらゆる領域の生物学者が一丸となって働く必要がある。

人類の文明が、生物圏の他の生き物たちが犠牲にすることがあってはならない。これを成功させるためには、自分たちが「いかに何も知らないか」を直視する必要がある。

われわれは、生命の働きへの理解を大きく進歩させてきた。
だが、現在の理解は部分的で不完全だ。われわれの野心的で実用的な目標を達成するために、生物系に建設的かつ安全に干渉することを望むなら、まだまだ学ぶべきことがたくさんある。