じじぃの「RNAワールド説・タンパク質と核酸ではどちらが先か?地球外生命」

科学のフロンティア19 RNAから読み解く生命の不思議

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=2nddQWy6UVM

細胞の基本概念

生物の起源 ~細胞生命の起源~

2010年09月1日
細胞は様々な無機分子や有機分子から出来ていますが,中でも特に重要なものは以下の3つに分類できます。 これらはどれも細胞の生存に必要不可欠なものです。
1.リン脂質
 リン酸,グリセリンで出来た親水性の頭部と,長い疎水性の炭素鎖からなる尾部からなっている分子です。 細胞を包んでいる細胞膜の主成分ですが,細胞膜はその他の物質も含んでいます。
2.タンパク質
 アミノ酸が長く繋がり,複雑な構造をとるようになった高分子です。 細胞の内外で様々な役割を果たしています。細胞膜の構成要素にもなりますが,触媒としての働きが最も注目されます。
3.核酸
 核酸塩基,糖,リン酸からなるヌクレオチドが長く繋がった高分子です。塩基の組成や糖の種類が異なる, RNA(リボ核酸)と DNA(デオキシリボ核酸)の2種類の分子があります。
http://www2.tba.t-com.ne.jp/nakada/takashi/origlife/

『地球外生命-アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来』

小林憲正/著 中公新書 2021年発行

第2章 生命の誕生は必然か偶然か より

生命とは何か

地球外生命を探すとしたら、まず、何を生命とよんでいいのかが問題になります。生命とは生物がもつ性質ですが、生命を定義するのは極めて難しく、科学者にとってその定義もさまざまに変わります。オーストリアの物理学者で量子力学の父とよばれるエルヴィン・シュレディンガー(1887~1961)は、1933年にノーベル物理学賞を受賞後、生命とは何かに興味を持ちました。彼はその著書『生命とは何か』(1944)の中で、生命を「負のエントロピーを食べていきているものである」と定義しています。しかし、この定義に従って地球外生命を探すのは大変そうです。NASAは20世紀末以降、地球外生命の発見を惑星探査の大きな目的に掲げています。現時点でのNASAの生命の定義は、米国ソーク研究所教授のジェラルド・ジョイス(1956~)のアイデアに基づき、「ダーウィン進化が可能な自立した化学系」としています。進化ということにかなり重きを置いているのですね。

RNAワールド説

隕石などで届けられる有機物から、どのようにしてして生命にまで進化したのでしょうか。この部分に関しては、様々な説が唱えられていますが、まだ定説はありません。その中で有力な説の1つがRNAワールド説です。先に述べたように地球外生命の特徴のうち代謝はタンパク質、自己複製と進化は核酸が担っています。つまり、タンパク質と核酸が揃わなければ地球生命の誕生は難しいと考えられますが、それぞれが複雑な高分子であり、両者が同時にできるとは考えにくいのです。

そのため、タンパク質(代謝システム)と核酸(自己複製システム)のどちらかがまずできたのではと考える研究者がほとんどです。ではどちらが先か? これはいわゆる「ニワトリとタマゴ」問題です。しかし、繰り返すようですが、タンパク質だけでは自己複製はできず、核酸だけでは代謝(または反応の触媒)はできません。

1980年代初頭、トーマス・チェック(1947~)とシドニー・アルトマン(1939~)は化学反応を触媒するRNA分子を発見しました。この発見をもとに生命はまずRNAのみから始まったとする「RNAワールド説」が考え出されました。この説では最初にRNAが地球上に現れ、触媒作用と自己複製をRNAだけで行う原始的な生命システムができます。やがて、RNAはより触媒として優れているタンパク質に触媒作用を任せ、自分はタンパク質の助けを借りながら自己複製を行い増殖していくようになりました。最後にRNAよりも安定性に優れるDNAを産みだし、大切な情報はDNAにしまっておくことにしました。このようにして現在の地球生命システムが誕生した、というのです。
確かに、RNAワールド説は触媒機能と自己複製機能が同時に生じうる点からきわめて魅力的な説であり、特に分子生物学者から高い支持を集めています。しかし、問題は、最初のRNAがどのようにしてできたかです。
タンパク質を作るのは、アミノ酸を一列につなぐだけでできます。これもそう簡単な反応ではありませんが、アミノ酸は宇宙でも比較的簡単に生成可能なので、時間をかければできそうです。一方、RNAはリボヌクレオチドを一列につなぐ必要があります。さらに、このリボヌクレオチドは、核酸塩基に糖(リボース)をつなぎ、さらにリン酸を付け加える必要があります。それぞれをつなげる場合、正しい位置でつなげる必要がありますが、試験管内で行おうとすると、間違った結合のものも同時にできてしまいます。つまりRNAはタンパク質よりはるかに作るのが難しいので、ここをどう評価するかにより、RNAワールド説の評価が分かれています。