じじぃの「科学・地球_209_5000日後の世界・はじめに」

未来都市 東京の渋谷

ミラーワールド:ARが生み出す次の巨大プラットフォーム

2019.06.13 WIRED
〈インターネット〉の次に来るものは〈ミラーワールド〉だ――。
現実の都市や社会のすべてが1対1でデジタル化された鏡像世界=ミラーワールドは、ウェブ、SNSに続く、第3の巨大デジタルプラットフォームとなる。世界がさまざまな手法によってスキャンされ、デジタル化され、アルゴリズム化されていく過程に生まれるミラーワールドへと、人類はダイヴしていく。ケヴィン・ケリーによるWIRED US版カヴァーストーリー。
https://wired.jp/special/2019/mirrorworld-next-big-platform/

5000日後の世界 すべてがAIと接続された「ミラーワールド」が訪れる

ケヴィン・ケリー(著)
『WIRED』誌創刊編集長として長年ハイテク業界を取材していたケヴィン・ケリー氏に言わせれば、今ほど新しいことを始めるチャンスにあふれている時代はない。
はじめに
第1章 百万人が協働する未来
第2章 進化するデジタル経済の現在地
第3章 すべての産業はテクノロジーで生まれ変わる
第4章 アジアの世紀とテック地政学
第5章 テクノロジーに耳を傾ければ未来がわかる
第6章 イノベーションと成功のジレンマ

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『5000日後の世界』

ケヴィン・ケリー/著、大野和基/インタビュー、服部桂/訳 NHK出版 2021年発行

はじめに より

5000日後に到来する、新たな巨大プラットフォームの姿

「ビジョナりー(予見者)」。本書の著者、ケヴィン・ケリーは、しばしばこう称される。
ケヴィンは、GAFAGoogleAmazonFacebookAppleの4企業)などの巨大テクノロジー企業による「勝者総取り」現象や、すべてが無料化するフリーミアム経済の到来など、テクノロジーによって引き起こされる数多くの変化を予測し、的中させてきた。
インターネットが商用化されてから5000日(約13年)後、ソーシャルメディアという新たなプラットフォームがよちよち歩きを始めた。そして現在は、ソーシャルメディアの始まりからさらに5000日が経ったところだ。いま、インターネットとソーシャルメディアは2頭の巨象として君臨し、われわれの暮らしに多大な変化をもたらしている。では、次の5000日には、何が起きるのだろう?
ケヴィン・ケリーという稀有な思索家が予測する「次の未来の姿」。それは、すべてのものがAI(人工知能)と接続され、デジタルと溶け合う世界で生まれるAR(拡張現実)の世界「ミラーワールド」だ。
ミラーワールドでは、別々の場所にいる人々が、地球サイズのバーチャルな世界をリアルタイムで一緒に紡ぐ。100万人がバーチャルな世界で共に働く未来が到来するのだ。そこではリアルタイム自動翻訳機が活躍し、他言語がしゃべれなくても世界中の人と会話し、働けるようになる。ソーシャルメディアSNS)に続く、新たな巨大プラットフォームの誕生である。
新たなプラットフォームは、働き方や政府のあり方にも大きな影響を与える。地球のどこにいても誰とでも仕事ができる世界になれば、会社とは異なる形態の組織が生まれる。また、バーチャルが発展すると同時に、リアルで顔を合わせることによる価値はますます高まる。その結果、都市は産業ごとに特化し、「この産業で働きたいならこの街を目指す」ということになるという。都市間の人材の奪い合い競争も激しくなるだろう。
ケヴィンは、ミラーワールドでの勝者は、今はまだ無名のスタートアップ企業になるだろう、と予想する。ミラーワールドは、次の何万もの勝者を生み出すだろう。新たなビジネスチャンスの到来だ。
考えてみれば、現在は初代のiPhoneが誕生してから、ちょうど5000日近くが経ったところだ。この5000日でわれわれの暮らしは大きく変わった。いまではスマートフォンの世帯保有率は80%を超えており(総務省令和2年情報通信白書より)、スマホがない生活を考えられない人も多いだろう。
ケヴィン・ケリーは「これからの5000日は、いままでの5000日よりもっと大きな変化が起こる」と予測するそして、その多くは物理的な変化ではなく、人間同士の関係性や余暇の過ごし方、人生観などを変えていくものである、と。

なぜ未来を見通すことができるのか

ケヴィンは1993年、インターネットの黎明期から雑誌『WIRED』創刊編集長を務め、これまでにビル・ゲイツスティーブ・ジョブズジェフ・ベゾスなど、伝説的な起業家たちを数多く取材してきた(『WIRED』はデジタルがもたらす経済・社会の変革を追う世界的な著名雑誌であり、各国で発行されている)。
約40年間、シリコンバレーで多くの企業の盛衰を見つめてきたケヴィンは、さらに数百年に及ぶ巨視的な視点からテクノロジーを捉え、定義し、観察する――その姿勢は、まるで哲学者のようだ。目先の事象や最先端技術にとどまらず、長期に亘る歴史的思考をもとに導き出された予測こそがケヴィンの真骨頂だ。
ケヴィンの思考法は、「テクノロジーに耳を傾ければ未来がわかる」という言葉に集約されている。「テクノロジーに耳を傾ける」――一見、荒唐無稽に思える言葉だ。本当にそんなことが可能なのだろうか? 詳しくは本書の後半に譲るが、テクノロジーの持つ「性質」を見極め、それが何を欲しているかを知れば、テクノロジーがもたらす変化、そして未来の姿も自然と明らかになるのだ。