じじぃの「歴史・思想_510_バイアスとは何か・バイアス研究の巨人・フレーミング効果」

CRITICAL THINKING - Cognitive Biases: Reference Dependence and Loss Aversion [HD]

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=LBNtChg4t4k

Why do we process the same information differently depending on how it's phrased?

The Decision Lab
●What is the Framing Effect?
The framing effect is when our decisions are influenced by the way information is presented.
Equivalent information can be more or less attractive depending on what features are highlighted.
https://thedecisionlab.com/biases/framing-effect/

バイアスとは何か 藤田政博著 ちくま新書

事実や自己、他者をゆがんだかたちで認知する現象、バイアス。それはなぜ起こるのか?
日常のさまざまな場面で生じるバイアスを紹介し、その緩和策を提示する。
【目次】
第1章 バイアスとは何か

第2章 バイアス研究の巨人――カーネマンとトヴァースキ

第3章 現実認知のバイアス
第4章 自己についてのバイアス
第5章 対人関係のバイアス
第6章 改めて、バイアスとは何か

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「200人が助かる」と「400人が死ぬ」は同じ?違う?

2014/12/16 日経Gooday(グッデイ)
●数値の受け取り方を変える「フレーミング効果」
前回の記事(「5年生存率は30%」と言われたら」)で、がんの5年生存率についてお話ししました。5年生存率とは、がんと診断された人のうち、5年間生きている人の割合のことです。たとえば、「5年生存率が80%」であれば、それは「ある時点でがんと診断された人が100人いたら、そのうちの80人が5年後も生存している」という意味です。
これを逆に考えると、100人のうち20人は、5年後には亡くなっていることになります。人間は、生きているか死んでいるかのどちらかしかありませんので、「80人が生きている」と言うのと、「20人が死んでいる」と言うのは、同じことを逆向きに言っているにすぎません。しかし、与える印象は大きく異なります。
https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/column/14/091100013/112500003/

『バイアスとは何か』

藤田政博/著 ちくま新書 2021年発行

まえがき より

この本は、『バイアスとは何か』という本です。その名の通り、バイアスとは何かについての基本的な理解を得ることを目標にしています。あらかじめ一言でまとめるならば、バイアスというのは人間がさまざまな対象を認知する際に生じるゆがみのことで、基本的には心理学、特に認知心理学の領域の問題だとされます。

第2章 バイアス研究の巨人――カーネマンとトヴァースキー より

1 見え方の違いと意思決定

ここからバイアスの話に入っていきますがはじめにバイアス研究の2人の巨人を紹介しましょう。
2人の巨人とは、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴァースキーです。ともにイスラエル出身の心理学者で、バイアスの研究を精力的に行いました。2人ともイスラエルアメリカ両国で活躍し、リチャード・セイラー(2017年ノーベル経済学賞受賞)とともに行動経済学の基礎を築きました。行動経済学とは、人間の経済的な行動に関して実験や調査を行い、その結果わかったことをもとにして理論を構築していく経済学です。かならずしも従来の経済学ではうまく説明できなかった実際の人間行動や経済現象を、心理学的な知見を導入することで実証的に説明しています。カーネマンとトヴァースキーの研究結果は、それまでバイアスの存在を考慮していなかった経済学の理論を書き換えるものとなったのです。そして、「認知心理学、特に不確実性下における意思決定に関する基盤的研究からの洞察を経済学に統合し、それによって新しい分野を切り開いた」という功績で、カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しました(残念ながらトヴァースキーはその前に亡くなっていました)(Nobelprize.org,2002)。
それではまず、彼らの研究でもっとも有名なものとなった、プロスペクト理論(Kahneman & Tversky,1979)から紹介しましょう。これは意思決定の心理学だけでなく、行動経済学において大きな影響力を持っている理論です。

フレーミング効果――「朝三暮四」は笑えない?

プロスペクト理論は得るときの喜びと失うときの悲しみの違いの話でしたが、いつ・どのくらいもらえるかでも、うれしさはけっこう違います。
「朝三暮四」という故事成語があります。猿が好きな狙公(そこう)が、猿を飼っていました。エサの栃(とち)の実の与え方について、猿に対して「朝は3つ、暮れには4つ与える」と言ったら猿はそれでは少ないと言って怒りました。そこで狙公が「じゃあ、朝に4つ、暮れには3つにする」と言ったら喜んだ、という話です。
この話の解釈として、「1日に7つなのは同じなのに、目先の違いに囚われることは愚かなことだ」というものがあります。
朝三暮四はわかりやすい話なので猿のおかしさもすぐにわかるのですが、もう少し複雑になると、同じような過ちをおかしてしまう現象があります。それがフレーミング(framing)の問題です。
フレーミングは枠をつける、というような意味で、同じ問題や情報でも、提示の仕方でまったく違った印象を与え、違った判断を引き出す現象に関して言われます。確率判断の提示の仕方から受けるバイアスと言えるでしょう
フレーミングに関しては、有名な実験があります(McNeil et al,1982)。肺がんの治療法の選択に関しての実験です。
あなたが肺がんであることがわかったと想像してください。
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すると、確率的にはまったく同じものを死亡率の側から言っただけであるにもかかわらず、治療法Bを選ぶ人は68%になりました。
これはなぜでしょうか? 治療法Aを選んだ際の治療中に死亡するリスクの違いが、最初の言い方だと目立たないのに比較して、後の言い方だとかなり目立つからではないか、とこの研究者グループは推測しています。
まして、統計を勉強したビジネススクールの大学院生を対象とした実験でも、最初の言い方で治療法Bを選んだ人は27%、後の言い方では53%と、ほぼ同じようなパターンを見せています。また、放射線外科の回答者は、前者のフレーミングでは51%、後者のフレーミングでは62%が治療法Bを選択しており、同様の傾向が見られました。

3 ヒューリスティックスによる判断

シミュレーション・ヒューリスティックス――「もし、こうでさえなかったら」

この章で見てきたカーネマンとトヴァースキーの研究は、私たちは自分の心のなかにある見方を、客観的な確率よりも優先させるという話です。それだけ、心のなかにある信念や概念は物の見方に大きな影響を与えます。
私たちの心のなかにある見方は、目の前で自分に起こったことの解釈にも大きな影響を与えるバイアスとなります。それが、「シミュレーション・ヒューリスティックス」です。
あなたが駅で電車に乗ろうと思ったとします。ダッシュで階段を駆け上がり、ホームに停まっていた電車のドアのそばまで行ったところ、目の前でドアが閉まって電車が動き始めてしまいました。結構悔しく、バツの悪い思いをするシチュエーションですね(現実には駆け込み乗車はしないでくださいね)。
しかし、電車が発車したのがあなたが改札を通った1分ほど前のことで、電車の姿はもうホームになかったらどうでしょうか。「あ、さっき出たばかりか」と思って残念に思うかもしれませんが、都会であればしばらく待てば次の電車が来ます。最初のシチュエーションほどは悔しいとは思わないでしょう。
結局乗れなかったことには変わらないのに、なぜ最初の場合のほうがより悔しく感じるのでしょうか? それは、最初の場合のほうが、「もし電車に乗れていたら」という現実に反した状況を簡単に想像できる(反実仮想)からです。
頭のなかで状況をシミュレーションした場合に認知や感情に影響が生じることを「シミュレーション・ヒューリスティックス」と言います(Kahneman & Tversky,1982)。
このシミュレーション・ヒューリスティックスは「利用可能性ヒューリスティックス」と深い関係があります。

反実仮想と反実感情

彼らは次のような実験をしています(Kahneman & Tversky,1982)。「銀行に管理職として勤める妻子あるビジネスマンが、車を運転していっもの通勤ルートと違う道で帰ろうとしていた。しかし、交差点で信号無視をしたトラックがぶつかって亡くなった。そのトラックは、違法薬物を使った10代の少年が運転していた」というシナリオを62人の実験参加者に提示しました。そして、このビジネスマンの家族や友人になったつもりで「もし、この事故に関してこれさえなかったなら」という考えを書いてもらいました。
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また、先ほどとは逆に、「トラックを運転していた少年の親族になったつもりで考えてください」という指示があった場合、「少年がその交差点に差し掛からなければ」というかたちの反実仮想をする人が増えました(28%から68%)。
このように、すでに起こった出来事を誰に近い立場で眺めるのかによっても、出来事のどの点に着目して反実仮想をするかが変ってきます。
私たちは「あれさえなければ」と考えることがよくあります。そういった思考をしているとき、状況を別の関係者の視点から見ることや出来事の別の要素に焦点を当てることはなかなか難しくなります。しかしそれはいろいろありうる視点の1つに過ぎません。
また、反実仮想は頭のなかのシミュレーションですが、それが反実感情を作りだすもとになっています。もし「あれさえなければ」と考えて憤りや悲しみを感じるのなら、シミュレーション自体を手放す勇気が必要かもしれません。