じじぃの「歴史・思想_508_日本の論点2021・アジア四小龍・韓国」

髙橋洋一チャンネル 第94回 実はこの先は苦しい中国経済。中所得国の罠に嵌まっていた!

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=rC7MxDqBTNQ

実質経済成長率と一人当たりGDPの推移(60年代以降):1万ドル前後で中所得国の罠に陥る国も

中所得国の罠とは

内閣府
「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指す。
これは、開発経済学でゆるやかに共有されている概念であり、その端緒は世界銀行が07年に発表した報告書にあるとみられている。
この点について、これまで長期の高度成長を遂げたのちの各国の経済成長の軌跡について確認してみよう。60年以降の実質経済成長率と一人当たりGDPの推移をみてみると、過去はアメリカがその他の国・地域を圧倒的に上回っていたが、日本は60年代、香港、シンガポールは70年代、韓国は80年代にそれぞれ1万ドルの水準を突破し、その後も安定した成長を続けている。
一方、中南米諸国はメキシコが80年代に1万ドルを突破するなど好調であったものの、その後は伸び悩んでいる(第2-1-1図)。
https://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sa13-02/html/s2_13_2_1.html

『これからの日本の論点2021』

日本経済新聞社/編 日経BP 2020年発行

論点20 「高所得国の罠」に陥ったアジア四小龍 より

韓国の若者失業者は4人に1人

こうした若者の就職問題(若者が3Kと呼ばれる業種を嫌う)は、台湾や韓国、香港、シンガポールもまったく同じ状況にある。韓国の青年層(15~29歳)の失業率は10.7%(2020年6月)に達した。アルバイトを転々としている人など潜在的な失業者を含めた「青年拡張失業率」は26.8%。実に若者の4人に1人が定職に就けないでいるのだ。
外国人労働者数も増え続けている。2018年の段階で101万人の外国人労働者が働いている。人口が5100万人台と日本の半分以下である韓国も、外国人依存の度合いは日本より大きい。
香港とシンガポールのくわしい数字は省くが、いずれも若者の失業率は10%前後の水準にある。人口570万人のシンガポールでは139万9000人の外国人が働いており(2019年)、激増する外国人労働者に対し、シンガポール国籍を持つ定住者の反発が強まっている。これまでほぼ一党支配を続けてきた与党の人民行動党(PAP)は2020年7月に選挙で得票率を前回2015年の69.9%から61.2%に落とした。
ここ数年、台湾、韓国、香港と順繰りに、若者の激しい政権批判デモが続いたが、背景には高い若年失業率があるとみる専門家も多い。
いまでは「アジアNIES(振興工業経済群)」、かつては「アジア四小龍」とも呼ばれた韓国、台湾、香港、シンガポールは、1950年代から60年代に高度経済成長を遂げた日本に続き、70年代から80年代にかけて8%前後の高成長を続け、アジアの奇跡と称された。
しかし、1人当たり国内総生産GDP)が1万ドルを超えた1990年あたりから成長の勢いは鈍り、「中所得国の罠」と呼ばれる経済停滞が懸念されるようになる。後発の東南アジアや中国が四小龍を追いかけはじめていたからだ。

「中所得国の罠」から「高所得国の罠」へ

四小龍は、政治立率や経済危機に見舞われながらも、なんとか「中所得国の罠」に陥らずに成長を続けた。都市部のシンガポールの1人当たりGDPは6万ドルを超え、香港も5万ドル近くに達した。人口が多く、都市部だけではない韓国や台湾は低いが、それでも3万ドル、2万5000ドルの水準にある。中所得国から高所得国の域に移行できた国・地域は、世界的にも稀有な存在だ。
だが、さしもの四小龍も、ここにきて大きな成長の壁にぶつかっている。高所得国に共通して見られる成長の阻害要因が顕著に現れてきたのだ。高所得国に届いた国の経済成長が停滞する現象を、筆者は「高所得国の罠」と呼びたい。
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高所得国では、大卒者が好む知識集約型の産業の雇用増が緩慢である一方、労働集約型の産業の雇用も減少する。労働集約型の産業は、低所得国への移転が進むからだ。無理に労働集約型の産業を国内に残せば、働き手が集まらず、外国人労働者を活用せざるを得なくなる。やがて、大量に流入してくる外国人との軋轢が深まり、社会対立が生まれる。これも欧米諸国に古くからある問題だ。かといって産業の自動化には限界があり、外国人労働者を排除すれば成長が難しくなる。

さらには、高所得国に向かう段階で、都市部への人口集中に拍車がかかる。都市部の住宅やオフィスが高騰し、コスト高になる。すでに香港のマンション価格は東京のほぼ倍となり、台北シンガポールは東京と同水準にある。マンション価格が相対的に安かったソウルも、ここ1、2年で急上昇している。

アジアの低成長に備えよ

アジア四小龍の成長率予測を見たい。もちろん新型コロナの状況しだいで予測は大きく変わる。国際機関やシンクタンクは何度となく見通しの修正を余儀なくされている。コロナ禍が軽く済むと当初、考えられていたシンガポールと香港では感染が再拡大するなど、状況は刻々と変化している。
アジア開発銀行(ADB)の6月公表の予測では、2020年は、台湾を除く3つの国・地域はいずれもマイナス成長となっている。新型コロナだけでなく、国家安全維持法の導入でリスクが高まった香港は6.5%減が見込まれている。2021年の予測はもっと難しい。2020年の落ち込みが大きい国・地域ほど、反動で翌年の成長率が高くなるからだ。
むしろ、コロナ禍に見舞われる前の予測のほうが、中期的な実態を示しているかもしれない。国際通貨基金IMF)が2019年10月の段かいで公表した成長率見通しでは、四小龍の成長率はおおむね2%が見込まれていた。
アジアの発展は、「雁行形態」で進むと言われてきた。先頭を日本が飛び、後ろを四小龍が追いかけ、そのまた後ろを東南アジア、そして中国、インドが続く様子が、雁の一群が空を飛ぶのと似ていたからだ。発展段階に応じて、日本で起きたことは四小龍で起き、さらに時間を置いて東南アジアの先行発展国で、そして中国、東南アジアの後発国で順番に再現される。
東南アジアで先行して発展したマレーシアは1人当たりGDPが1万ドルを超え、タイも7000ドルを超えた。最近の成長率は3~4%程度まで鈍化しており、それこそ「中所得国の罠」にはまりかけている。
中国は全体では1万ドルだが、沿海部は2万ドルの水準となり、「中所得国の罠」どころか「高所得国の罠」に近づいている。大学進学率は5割を超え、若年失業者が増加し、北京や上海のマンション価格は東京と並んだ。少子化の流れが定着し、外国人労働者も見かけるようになった。