じじぃの「科学・地球_447_世界100年カレンダー・中国・低出生率の罠」

【冗談じゃない】中国が「未富先老」という段階に入ったことは、将来の人口危機の前兆に過ぎない。つまり独裁体制の中央計画によって設計された国家的・民族的危機だ。

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=5vJ8qVQ2SPE

出生率の恐るべき罠


未富先老

最近、中国でしばしば使われる四文字熟語に「未富先老」とか「失独失能」があります。高校時代に取り組んだ漢文の学習を思い出します。
中国人のGDPは一人あたり約4,000ドルで、日本やイギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンなどの発展国が高齢化社会となったとき、人口一人あたりのGDPはすでに1万~3万ドルに達していたといわれます。これが「未富先老」という言葉が生まれた理由です。
経済規模が世界2位になった今の中国にはこうした側面もあります。
https://naritas.jp/wp1/?page_id=8715

『世界100年カレンダー 少子高齢化する地球でこれから起きること』

河合雅司/著 朝日新書 2021年発行

第6話 中国100年カレンダー より

出生率の恐るべき罠

日本経済新聞(2020年10月16日付朝刊)が、2100年の中国の人口について「3億5000万~4億5000万人」になるとの易氏の試算を紹介している。今後の合計特殊出生率が1.0~1.2で推移すると仮定しており、国連の低位推計が予測する6億8405万人より2億3000万~3億3000万人ほど少ない水準である。
国連の中位推計によれば、米国の2100年の人口は4億3385万4000人、低位推計でも3億729万5000人であり、ここまで減るならば2100年を待つまでもなく、米国とあまり違わない水準になるか、逆転を許す可能性も出てくる。
中国にとって豊富な人口は「国力の源」であり、それにより高度経済発展を手中にした。巨大な国内マーケットを背景とした購買力や安くて豊富な労働力を外交の武器とし、戦狼(せんろう)外交を展開している。巨大な人口によって達成し得る経済成長こそが、共産党の一党支配のよりどころだ。そんな「力の源泉」を、これから急速に失おうとしているのである。
香港の自由を奪い、台湾統一を「歴史的任務」と言い切る中国に対しては、覇権を争う米国だけでなく多くの国が脅威を感じているが、われわれは案外”張り子の虎”に対して過度の恐れを抱いているのかもしれない。
人口減少は直ちに進むものではないが、段階を踏みながら確実に国家を衰弱させていく。最初に表れるのは出生数の減少だが、続いて高齢者の増大によるマーケットの縮小や、勤労世代の減少に伴う経済の衰退へと止めどなく影響を広がっていく。しばらく人口が大きく減らないからといって、問題が先送りできるわけではなく、静かに社会の崩壊は進んでいくこれが人口減少の恐ろしさである。

社会に寝そべる若者たち

ここにきて、中国政府を悩ませる新たな課題も登場してきた。中国で最新の流行語となっている。「トウ平」という言葉がある。何も求めず、ただ寝そべっている「寝そべり族」とか、「横たわり族」と呼ばれる若者たちのことだ。
発端は2021年4月にSNSにアップされた「寝そべりは正義だ」という投稿だったとされる。受験競争や就職競争から離脱し、住宅もマイカーも買わず、最低限の生活を送ることを良しとする言葉として受け止められたのである。ネット上では瞬く間に「経済発展の犠牲になる必要はない」といった共感の声が広がった。
こうした社会の背景にあるのも、一人っ子政策のひずみだ。この政策下で生まれた若者たちは幼年期から”過保護”に育てられながら、同時に親族の期待を一身に背負うことになった。そうした期待の大きさを重荷に感じ、親世代とは異なる価値観が生まれたのだ。大勢との競争に打ち勝って仕事にありつき、長時間労働に耐え、人口過密都市で法外な家賃を払うといった彼らの親たちの「がむしゃらさ」とは正反対の価値観である。
一方で、格差が広がって生活費が高騰を続ける中、頑張って働いてもそれに見合った「豊かさ」が手に入らないという虚無感に襲われている若者もいる。
無理に頑張らない彼らは、マンションやマイカーといった「大きな買い物」だけでなく、消費全体に対する意欲も低い。ただでさえ、少子高齢化で消費の中長期的な縮小が避けられないのに、本来なら旺盛な消費世代である彼らの価値観の変化は、中国の経済成長にとって深刻な阻害要因となるだけに、政府は警戒を強めている。
問題はそれだけではない。「横たわり族」は結婚や出産にも消極的な傾向を示しているのだ。多くの若者が結婚や妊娠・出産をためらう理由は先述したが、こうした価値観の広がりの背景と通じるところが少なくない。このまま「寝そべり族」が拡大していったならば、中国の出生数減少のペースは一段と速くなる。

中国政府は、一人っ子政策という人権侵害を冒してまで経済大国の夢を見てきたが、皮肉にもその一人っ子政策の「ひずみ」が夢を覚ませようとしている。人口問題の専門家を中心として語られてきた。十分に豊かになる前に衰退が始まる「未豊先老(みふせんろう)」の懸念が、いまや現実のものとなりつつある。

習近平総書記(国家主席)は2021年7月1日の中国共産党創立100周年に際した演説で「中華民族の偉大な復興という中国の夢は必ず実行できる」と締めくくったが、人口減少の始まりは、驚異的な経済成長の「終わりの始まり」を告げるアラームとなるだけでなく、なりふり構わず「強国」への道を突き進む中国という国家を変質させようとしている。