じじぃの「歴史・思想_540_日本の論点2022・米中のGDP予想・2030年」

G20 Countries Ranking by GDP (PPP) 1980 - 2050 (Prediction)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=N3J5vo2gdDk

『これからの日本の論点2022』

日本経済新聞社/編 日経BP 2021年発行

世界はこれからどうなる

論点20 中国の人口減少、米中GDP逆転後に再逆転も より

【執筆者】村山宏(編集委員

早まる人口減少の時期

合計特殊出生率と1人あたり国内総生産GDP)のあいだには深い関係が見られる。日本、韓国、台湾では、1人あたりGDPが1万ドルを超えたあたりから合計特殊出生率が急低下した。日本は1980年代前半に1万ドルを越え、1980年代後半から出生率の急低下に見舞われた。中国も2019年に1万ドルを超えており、経験則から見て今後は出生率が低下する時期を迎えている。
これまでの中国の人口予測は、合計特殊出生率が1.6以上で続くと仮定したうえでの予測だった。国連の人口推計(2019年7月発表)によれば、中国の人口は2031年に14億6440億人でピークを迎え、2032年から減少に転じる。中国社会科学院も、2029年に14億4200万人に達した後、2030年から減少に向かうと推計した(2019年1月発表)。ただし、合計特殊出生率が1.6にとどまれば、人口減少の時期は2027年ごろに前倒しになるとも指摘していた。
足元の合計特殊出生率は1.6どころか1.3に低下している。中国の人口減少の時期は従来の予測よりも早まりそうだ。
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中国の出生数を予測するうえで参考になるのが婚姻登録数だ。中国では婚姻外で子どもをもうける人が少なく、結婚件数が減れば2~3年後に出生数が減る傾向がある。中国の2015年の婚姻登録数は1224万組だったが、年々減り続け、2020年は814万組になった。この間、出生数も1655万人から約1200万人へと減少している。

2030年までにGDPで米国を抜くという予測も

次に、中国の少子高齢化が経済成長にどう影響するのかを考えたい。
経済成長は、資本、労働、全要素生産性TFP)に分解し、寄与度を求める分析手法が一般的だ。資本の投下により設備が更新されれば生産(付加価値)は増えるし、働き手が増えればやはり生産が増える。労働力の投下は労働人口と労働時間から計算していたが、最近は労働の質も考慮されるようになった。新米労働者より熟練労働者の生産量や効率が高くなるからだ。

2050年代には米国の再逆転も

2030年以降の中国の成長率については、現時点で想定できない要素が多くあり、予測は極めて困難になる。人口ピラミッドで見たように、人口の多い現在の50代が定年の60歳を迎える。国連の人口推計(中位予測)によると、2020年の60歳以上の人口は約2億5000万人だが、2030年には3億5000万人を超え、2040年に4億人を上回る。その間、人口は減少に向かうため、60歳以上の全人口に占める比率は高まり続け、2040年には3割となる。
これをどう見るか。高齢化対策に追われ、政府も企業も資金を成長に向ける余裕がなくなるのか。それとも、高齢化で介護や医療などの新しいビジネスが生まれ、成長を維持するのか。自動化や人工知能(AI)の導入が進み、生産性が向上するのか。中国の定年制度は男性60歳、女性55歳が基本だが、定年を65歳まで、さらには70歳まで引き上げる選択もありうる。
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丸紅経済研究所の鈴木貴元氏は、2050年代以降の成長率について「米国、中国とも物価上昇を含めた名目で4%程度の成長をすると見られる。米国のインフレ率が中国をやや上回るかもしれない」と予測。2050年代には米国が名目成長率で再び中国を上回る可能性を指摘する。国連の低位予測では、2050年代に中国の人口はさらに1億人以上減って2060年には11億7500万人となる。鈴木氏はこうした事態になれば「米国の成長を大きく下回らざるを得なくなる」と話す。
中国の少子高齢化を踏まえ、エコノミストのあいだでは、たとえばGDPで中国が米国を上回ったとしても、2050年代には再び米国が中国を逆転するという見方が出てきている。低位推計どおりに中国の人口が推移すれば、2040年代にも米中の再逆転があるかもしれない。
今回は人口要素から経済成長を見たが、政治や社会、文化、科学が果たす役割も大きい。中国のいまの体制では、本当の意味での独創的なイノベーションや文化産業が興る可能性は低い。TFPを高め、米国並みの成長をしようとするならどこかで体制を変革させねばならない。
体制の問題を脇に置くとしても、中国が長期にわたって米国と競争していくなら、最低条件として人口の急激な減少は避けなければならない。横ばいか微減が望ましい。繰り返しになるが、少子高齢化は危機感が湧きにくく、気がつけば深刻な事態になっている。日本はバブル崩壊と同時進行で進んだ少子高齢化への対処が遅れ、これからも低成長が避けられない状況だ。中国もこのまま出生数が低下し続ければ、2050年代の経済成長は相当に厳しいものになる。
中国は少子化対策にどこまで踏み込むのか。30年後を決めるのは「いま」なのだ。